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ワルプルギスの夜の正体はヒトラーだった?

 今やずいぶんと昔の作品になってしまったが、魔法少女まどか☆マギカという人気アニメがあった。筆者も友人から強くプッシュされ、円環の理に導かれて、一応は全話視聴している。

 筆者はそこまで魔法少女まどか☆マギカを見た時に感動はしなかったのだが、その理由としてループものという設定が当時ハマっていた「ひぐらしのなく頃に」とかぶること、魔法少女が魔女になるという設定がやはり当時好きだったCLAYMOREという漫画と被るからだった。とはいえ、話として構成がよくできていることは間違いない。

 さて、作中で明かされなかった謎として、ラスボスたるワルプルギスの夜の正体が何かというものがある。作中の魔女はすべて魔法少女のソウルジェムが濁ってしまい、魔女化している。したがって、ワルプルギスの夜もきっと最初は普通の魔法少女だったはずだ。それはどんなヤツなのかという話である。筆者はこの前カノピッピとこの議論になり、有力説らしきものを考えてみた。

 ワルプルギスの夜は作中の雰囲気からして、めちゃくちゃ強い。はっきり行って普通の魔女とはわけが違うという扱いである。ワルプルギスの夜が接近するだけで地域の魔法少女が警戒するくらいである。ほむらがアレほどの念入りの攻撃をしてもびくともしなかった。そもそもワルプルギスの夜は本気を出すと上下が逆さまになるので、本気すら出していなかったことになる。まどかが覚醒すれば確かにワルプルギスの夜は瞬殺できるのだが、その代わりにまどか自身が世界を一週間で滅ぼすようなレベルの魔女に変化してしまう。言い換えるとワルプルギスの夜は世界規模の災厄を持ってようやく倒せるくらいの規格外の魔女ということになる。

 さて、ただの魔法少女が魔女化してやたら強くなったという可能性も考えられるのだが、それでは面白くないだろう。やはりまどかの描写を見ても魔法少女の時点で相当の強者だったことは間違いないだろう。作中で最強レベルの魔法少女として考えると絞り込みも容易になる。

 ヒントになるのは作中の歴史描写である。作中では歴史に大きな影響を与えた人物は魔法少女だったことが明かされている。クレオパトラ・卑弥呼・ジャンヌダルクは明確に魔法少女だったようだ。外伝だったかもしれないが、アンネフランクらしき魔法少女も確認されている。はっきり行ってワルプルギスの夜クラスであれば確実に歴史の表舞台に名前が登った人物であると言えるだろう。

 ワルプルギスの夜とはドイツのお祭りである。4月30日から5月1日のかけて、魔女信仰のお祭りを行うとのことだ。ゲルマン人がキリスト教化される前の異教の要素を残しているとも言われる。この名称を手がかりにすべきだろう。

 しかし、ここで障害に突き当たる。ドイツの歴史にクレオパトラのような人物があまり思い浮かばないのだ。ドイツはフランク王国の影響でサリカ法典を採用しており、女王がほとんど即位していない。マリア・テレジアは女帝とされるが、神聖ローマ皇帝には即位していない。あくまでハプルブルク家の当主やハンガリー王国の女王というのが公式な肩書で、神聖ローマ皇帝は夫のフランツが勤めていた。オーストリアまで含めてしまえばマリア・テレジアということになるが、どうにもワルプルギスの夜との繋がりは見えてこない。ドイツ圏の歴史で著名な女性とえば本当にこれくらいである。プロイセンや「第三のドイツ」の歴史には女性の影は本当に見えてこない。世界史の教科書に出てくるのはローザ・ルクセンブルク辺りだろうが、彼女は実はポーランド人である。

 では方針を変えてみよう。キュウベエが思春期の少女をターゲットにしている理由は思春期の少女の感情エネルギーが非常に莫大だからである。見方を変えれば感情エネルギーが膨大であれば実は思春期の少女に限る必要は無いのではないだろうか?実際、クレオパトラや卑弥呼は少女という年齢でもないだろう。彼女らは何らかの方法で魔法少女の力を保持し、強大な影響力を誇ったわけである。更に言うと、実は女性である必要すら無いのではないだろうか。男性であっても思春期の少女のような豊かな感性を持っているフェミニンな人物であれば、魔法少女になることも可能ではないだろうか?

 ワルプルギスの夜の候補となる人物はドイツの人間で、何らかの要素で異教の祭りや4月30日という日付に関係している。そしてその人物はフェミニンな特徴を持ち、常人離れした魔力的な感性を持っている。そして今まで上げた強大な魔法少女を更に上回る世界史規模の存在感を放っている。該当する人物はただ一人である。それは・・・

 アドルフ・ヒトラーである。

 20世紀の魔王とも言うべきこの男が自決した日は1945年4月30日、まさにワルプルギスの夜だ。ワルプルギスの夜とは世界の王を目指したヒトラーの壮大な野望が潰え、すべてが絶望に変わった日のことだったのである。筆者は当初はエヴァ・ブラウンが該当人物だと考えていたのだが、どうにも物足りない。やはり女性という条件を妥協すればすべてがしっくり来る。

 ヒトラーの魔力的な演説の才能はよく知られている。ヒトラーはもともと芸術家崩れだったのだが、真の天職は役者だったのではないかと思われる。ヒトラーは一度もまともに働いたことのない人間だったが、総統としての役柄を演じることにかけては天才的だった。すべてがヒトラーという芸術家の表現力の賜物だったということだ。ヒトラーの得意な存在感は異様なカリスマ性にあるのだろう。第三世界の独裁者にありがちな権力愛好者でもなければ、民主主義国の既成政治家とも全く違うところから出てきた。同じ独裁者と言ってもヒトラーはかなり特殊なのである。ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女とも言われるが、このあたりも関連性がうかがえる。

 ヒトラーは異教にも興味を持っていたようだ。ナチス幹部の一部はそうだった。未だに第三帝国関係のオカルト話では異教が持ち出される。ヒトラーの生きた時代はヨーロッパの伝統的な価値観が崩壊した退廃の時代だった。欧州の歴史と文化に深く根を下ろしたキリスト教は形骸化し、その穴はナショナリズムで埋められた。ヒトラーはキリスト教を否定し、ゲルマン民族が古来持っていたとされる、異教的な価値観に魅力を覚えていた。

 また、ヒトラーはフェミニンなところがあった。英雄色を好むというように、政治権力者の殆どは妻帯者であり、しかも愛人が大量にいることも珍しくない。女の影がない政治的英雄は本当に珍しい。ホーチミンは生涯独身を貫いたと言われているが、ベトナムの第6代最高指導者はホーチミンの隠し子らしい。この点でヒトラーは際立つ。一応色恋沙汰の話はあるのだが、どれもこれも中学生レベルだ。総統になってエヴァ・ブラウンの交際するまではまともな女性経験は無かったと言われているし、エヴァとの交際後にあったのかもわからない。

 ヒトラーの人間性を見ていても、どうにも伝統的な「男らしさ」に繋がる要素は見えてこない。というか、むしろバカにされる方のタイプだったのではないかと思う。ヒトラーの青年期のエピソードを見ていると、本当にひどい陰キャである。盟友レームを見ての通り「男らしさ」の追求が女性への興味に繋がるかは別問題なのだが・・・

 更に言うと、ヒトラーには第一次世界大戦の負傷で「取れちゃった」という噂がある。これに関しては当時から検証しようがなかったが、替え歌で揶揄されてもいたようで、結構有名な話だったようだ。ナチ党第二の男であるヘルマン・ゲーリングも同様の噂があったのだが、この噂を払拭すべく45歳にして子宝に恵まれている。(当時妻は44歳であり、かなり奇跡的だ)ヒトラーは同様の行為はしていない。

 ヒトラーの下半身の異常に関しては、先天的だという説の方が有力のようだ。ヒトラーの体型はどこかふっくらしていて、女性ホルモンの分泌が多いのではないかとも言われていた。ただし声は第一次世界大戦で毒ガス攻撃を受けたことによって嗄れ声である。ヒトラーは同性愛者という説もあるが、遍歴を見ているとどうにも誤りではないかと思う。ひどく内気で気難しい性格と、本当かどうかはわからないが身体的な劣等感が影響してあのようなプラトニックな恋愛観が生まれたのだろう。

 エヴァとの性生活が通常のものと異なったものだったとしても、あまり不思議には思わない。ヒトラーという人間の悪魔的な魅力を考えれば、奇妙だったとしても、彼に深い興味を持つ人間がいてもおかしくないだろう。エヴァはそこまで政治に関心がある女性ではなかった。ヒトラーユーゲントを視察した際も冷めた感想を抱いていた。ただし、人間としてのヒトラーにはそれなりに愛着を抱いていたのだろう。エヴァが戦後に逮捕される可能性は考えにくく、望めば戦後も生きながらえることもできたはずだが、そうしなかった。あくまでヒトラーと共に死ぬことを選んだ。二人が総統地下壕で自決した1945年のワルプルギスの夜の午後、エヴァの心境はいかほどのものだっただろうか。

 ヒトラーの恋愛の話はここまでとして、男性であるという一点を除けばヒトラーはワルプルギスの夜にふさわしい特徴がかなり備わっていると思う。ヒトラーの天才的な挙動は歴史上にもあまり類例がない。あのレベルの政治的カリスマは世界史に照らしても預言者ムハンマド以来なのではないかとも思われる。そう考えればヒトラーの魔力が魔法少女由来であっても全くおかしくないだろう。第一次世界大戦から帰還した失意のヒトラーの前にキュウベエが現われ、契約する。魔力を手に入れたヒトラーはすぐさま力を発揮し、驚異的なカリスマ性を発揮する。やがてヒトラーの狂気はドイツに見ならず世界をも巻き込む形で増殖していく。そんな光景が思い浮かぶのである。

 だとすれば、キュウベエは多分こいつである。

 ヒトラーはブロンディという愛犬を飼っていた。ヒトラーは人間嫌いだったが、ブロンディとは親密だったようである。他の人間の目には犬にしか見えにが、実はヒトラーにはキュウベエに見えていたのではないだろうか。ブロンディはヒトラーが自殺する前日に青酸カリで殺害されている。ほむらがそうしたように、ヤケになったヒトラーによって殺されたのかもしれない。「全くいきなり青酸カリを呑ませてくるものだから、困ってしまったよ」などとぶつくさ言っているキュウベエの姿が思い浮かぶ。

 これはあくまで一考察なのだが、魔法少女が女性に限られるという制限を緩和すれば結構いい感じになるのではないか。ヒトラーの人間性を考えるのなら、この芸術家気質の男が思春期の少女のような多感なメンタリティを持っていたも全く不思議ではない。ヒトラーのメンタリティは政治権力者のそれというよりも、繊細な芸術家のようだ。ヒトラーの希望が絶望に転じた時のエネルギーたるや、凄まじいものだっただろう。何しろ1933年には失業者が溢れる脆弱国家だったドイツが、1942年には欧州を統一する大帝国にまで急成長した。しかし、転落もあっという間で、1945年には無条件降伏している。ここまで転落が急速な帝国は他に例が無い(あるとすれば大日本帝国である)。

 この説の弱みを挙げるとすれば、ヒトラーがあまりにも強大すぎたことだ。ワルプルギスの夜は強大とは言え、あくまで見滝原市を台風で壊滅させる程度である。ヒトラーの引き起こした災厄はこんなものではない。ヒトラーの誇大妄想によって4000万人以上が殺害され、欧州は焼け野原になり、世界文明の中心という誇りある立場を永遠に失ってしまった。ヒトラーが人類史上最大最悪の人災を引き起こしたことは疑いようがない。これと比べるとワルプルギスの夜はスケールが小さいと思う。

 こんな妄想もできる。ヒトラーは珍しく魔法少女に適合した男性だったため、キュウベエも面白がってアシストしていたのだが、次第にキュウベエでもコントロールできないほどに強大化していったのではないか。男性は女性に比べると振れ幅が極端になりがちである。魔法少女に適合可能という条件さえ満たせば、男性の方が巨大な力を手にしたり、はるかに過激な行動に出るのかもしれない。キュウベエが思春期の少女に対象を限っているのは、彼女らしか力を使えないからではなく、キュウベエが比較的コントロールしやすい相手だからという可能性も無視できない。思春期の少女は逸脱といっても、せいぜい自殺する程度だ。成熟した男性の場合は違う。魔法少女の力で違法ビジネスを始めたり、テロ行為に明け暮れたり、徒党を組んでキュウベエに歯向かってくる可能性すらある。男性の場合はあまりにも振る舞いが予測不能なので、ヒトラーの件で痛い目を見たキュウベエは男性を勧誘するのを控えているのかもしれない。冒頭に述べたCLAYMOREがまさにそういう設定の漫画だった。作中に登場する戦士は皆女性なのだが、男性は戦士になれないのではなく、あまりにも早く覚醒してしまうため、作られなくなったのだ。

 今回はほぼ私的な妄想になってしまったが、魔法少女が歴史上の重要人物に関係しているという設定は存在しているため、あながち荒唐無稽とも言えないのではないか。外伝ではフランス王妃として王国を支配する魔女も登場しているようだ。もしヒトラーが魔女だったのなら、その影響力は歴史上でも類例が無い水準になるだろう。まさに最強の魔女の名にふさわしい。魔法少女だったのか、魔女化していたのかはよくわからないが、ヒトラーの演じた舞台によってドイツ国家は結界に飲み込まれ、ついには欧州全体を飲み込むどす黒い嵐となって絶望を撒き散らしていったのである。

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