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東大が医学部に勝っている点を考えてみる

 前回の記事では東大より医学部のほうが圧倒的にメリットが多いという事実を解説した。しかし、東大のほうが勝っている点だってあるじゃないか?というツッコミをする人もいるだろう。結論から言うと、東大が医学部に勝っている点はたくさん存在する。むしろメリットのほうが数は多いかもしれない。しかし、それらのメリットには、ある1つの落とし穴があり、それが東大の市場価値を狂わせているのである。

1.18歳時点での学力

 東大VS医学部の記事では大半が偏差値的な次元の考察に留まっている。しかし、これに関しては明確に結論が出ている。東大と医学部では明確に東大の方が学力が上である。これに関しては「よはし」さんが詳細な考察記事を書いてくれている。

 共通テストの得点率は東大のほうが圧倒的である。比較的難関と言われる千葉大や大阪公立大の医学部ですら東大には及ばない。東大に匹敵するのは旧帝大の医学部など一部に限られるだろう。医学部のほうが共通テストの比重が高いことを考えると、この差は一層際立つ。

 議論あるところではあるが、国立医学部の難易度は東大というより一橋が比較対象としては的確だ。国立医学部の学力レベルはだいたい京大〜東工大くらいのところが多い。早慶旧帝よりは勝っているが、東大には遠く及ばないという水準である。

 その上、東大の際立った点は学力レベルが青天井のところだ。医学部は学力のレンジが狭く、浪人してなんとかという層が多い。一方、東大は上位層が凄まじく厚く、日本トップクラスの天才が集中する。両者の学力レベルは見かけ以上に差がある。

2.ブランド力

 東大と医学部、一般に「すごい」と言われやすいのは東大である。これは東大王のような番組を見ても判る。やはり地元で突き抜けて頭の良い人間の進学先と言えば東大であり、多くの日本人は東大生の圧倒的な学力を目にしている。その上、東大出身者は日本を支えるようなエリートや成功者が多い。

 これらの事情を踏まえると、学歴ブランド力は圧倒的に東大の方が上である。医者ですら東大に学歴コンプを持つ人間がいるくらいだ。医科歯科や千葉大の医学部の難しさを一般人にわからせるには難しい。はっきり言ってブランド力で東大を上回っている医学部は東大理三と京大医学部くらいではないか。日本社会において東大卒であることは知的能力において一定の水準をクリアしたという強力なステータスになる。地方の医学部が東大に相応する学歴ブランドを持つとは思えないし、もしかしたら早慶にも劣るかもしれない。

3.立地

 東大の立地は非常に良い。都心の一等地である。したがって、電車に乗れば簡単に渋谷の繁華街に遊びに行けるし、何かとバイト先も多い。

 一方、医学部はこれでもかというくらいに立地が悪い。確かに医科歯科や大阪公立大のように立地の良い医学部もあるが、多くは地方に存在したり。首都圏であっても外れにあったりする。若い時期を都心ではなく、地方の僻地で過ごしたいという若者は多くないだろう。

4.キャンパスライフ

 東大のキャンパスライフは大変充実している。総合大学なので学びの選択肢も多いし、学生も多様だ。サークルは無数に存在し、駒場と本郷で別のサークルに入る人もいる。この点、医学部の多くは人数が少ない上に固定的で、6年間自称進学校のような環境で過ごすことになる。学科内の人間関係に悩む人も少なくないようだ。

 東大は日本中から天才が集まるので、相互の刺激も多い。筆者も東大で数々の人生において尊敬できる人を見てきた。彼らは博識で、努力家で、創造性に富んでいた。そういった人たちと交流できた(現在もしている)というのは人生においてかけがえのない財産である。地方国立医学部は学力レンジが狭い上に堅実なタイプが多いので、どうしても東大に比べれば人材の面白さという点では劣ってしまう。

5.アカデミックな学び

 学べる学問の幅は言うまでもなく東大の圧勝である。東大は最先端の研究に触れることができる一方、その気になれば無限にサボることもできる。学べる学問の幅は圧倒的に広い。その上同級生が神がかり的に優秀なので、学術的な刺激という観点では申し分ないだろう。

 医学部は全科目が必修であり、テスト地獄の6年間だ。医学は無味乾燥な詰め込み勉強が多く、あまりおもしろくなさそうである。医学生の多くは「専門学校」として自嘲することが多い。

6.キラキラ感

 これらの項目と関連するのだが、東大は圧倒的なキラキラ感がある。都会に位置し、あらゆる人から一目置かれ、キャンパスライフも大変豊かだ。地方国立医学部はブランド力も無ければ立地も僻地で、その上連日のテスト地獄である。何かの収容所に入れられているような感覚に陥ってもおかしくない。

 就職先も基本は東大のほうがキラキラしていると思う。東大卒の就職先とされるのは、中央省庁や外資系コンサルティングファームなど、常にエリートとして羨望の的になるような場所である。そうでなくても、総合商社などキラキラしているような就職先は多い。これは東大が東京に位置しているという事情が多きいのだろう。上位層は日銀総裁や国会議員になるので、そういう意味でも東大卒は日本社会の中枢のような雰囲気を帯びる。エリートとは言えないかもしれないが、レールを外れた一部の東大卒は作家やクイズプレイヤー等として存在感を示すので、やはり東大卒は目立つ。

 一方、医者は地味な専門職であり、国家や社会を大きく動かすような仕事は難しい。医学部も研究は可能だが、総体としては東大には敵わないだろう。そもそも優れた医学研究者の多くは薬学部や農学部の出身である。

何がダメなのか

 冒頭で述べたように東大は医学部に対して勝っていることがたくさんある。大学という観点ではほぼすべての医学部より勝っているだろう。それではこれらの何がダメなのか。

それはこれらの要素が全て「学生時代」に偏っていることである。

 1から5までの要素は全て学生時代の話だ。社会人になってからは関係ない項目である。6に関しては卒業後の進路も含んでいるが、これに関しては以前の記事で解説したように、東大に入ればこれらの進路が自動的に付いてくるという間違った想定によって作られている。もし東大に入れば研究者になれるのであれば、東大より医学部が勝っているという筆者の主張は怪しくなる。しかし、実際は東大生で研究者になれるのはほんの一握りだ。いくら東大の研究力が優れていようとも、サラリーマンとして就職した東大卒にとってはどうでもいい話である。むしろ東大での学びが魅力的すぎたために新卒カードを逃して高学歴難民になっていく院生は珍しくない。

 東大の一番のデメリットは価値が凄まじい勢いで下落することである。偏差値が示す通り、東大生は18歳時点では医学部に圧勝している。しかし、22歳時点では医学部に劣後するようになる。確かに東大卒の新卒カードは強力だが、それでも東大生の半分程度は就職活動に失敗したり、不本意な就職を余儀なくされるからだ。そして30歳時点だと、医者には到底叶わなくなる。東大卒の価値は事実上新卒でしか有効ではなく、この時点で東大卒を売りにしても「学歴に拘る人」として怪訝な目で見られてしまうだろう。東大卒であっても、サラリーマンになってしまえばただの人であり、その価値は大企業の中でのみ発揮される。辞めてしまえばもはや手元には何も残らない。最近は転職市場が活況なので、なおさら東大卒の価値は希薄化している。

 この点、医学部の場合は18歳時点での優位性が国家資格という形で生涯引き継がれるので、圧倒的に保存期間が長い。東大卒と違って転職も復帰もしやすいし、バイトや開業もできる。正直、社会人としての「格」は圧勝である。平凡な医者が患者の命を救って感謝されている時に、平凡な東大卒は社内でしか通用しない書類仕事のテクニックばかりを磨いていく。世間では東大の方がグローバルに活躍できそうに見られるが、どう考えても医者のほうが勝っている。社内でしか通用しない文系総合職が海外でやっていけるとは到底思えない。

 そういった意味では東大生はパパ活女子よりも下落が早い。対応するものとしてはアイドルだろうか。アイドルはだいたい25歳が寿命で、それを過ぎると一部のスキルを持っている者を除いて落ちぶれてしまうからである。確かに東大時代は医学部よりも遥かに輝いているのだが、卒業後はプライドを捨て、「ただの人」となった自分と折り合いを付けていくことになる。就職活動がうまく行かなかった場合は、輝かしい学生時代と現在の落ちぶれた状態を比較し、劣等感と挫折感を死ぬまで抱え続けるだろう。このギャップが受け入れられない場合、いつまでもセンター試験の点数を自慢し、周囲から敬遠される東大卒が生まれる。それでも再就職に苦労する元AKBの窮状と比べれば恵まれているのだろうが。

 こうした構造により、「東大までの人」が生まれやすい。東大は確かにキラキラしているのだが、それは刹那的な輝きであり、持続困難である。東大生がチヤホヤされるのは学生時代までであり、多くの人間は18歳が人生のピークになってしまう。東大生は、例えるならば、打ち上げ花火のようなものだ。一瞬の輝きで人々を魅了したあと、急速に光を失っていく。社会でうまく行かない東大卒は、花火が消えた後の燃えカスのようなものなのかもしれない。



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