イスラエル選手の五輪出場問題について
オリンピックはアマチュアスポーツの祭典であり、どうしても国威発揚と切っても切れない関係にある。五輪の商業化が批判されてはいるが、これはアマチュアスポーツという本質が存在するからだ。国家ぐるみで支援するからにはやはり国家のためのスポーツという背景は拭えないだろう。筆者が地政学的な視点でオリンピックを見ているのも、こうした背景を踏まえたものである。
さて、しばしば上がる声として、イスラエル選手を五輪から追放しろというものである。イスラエルがガザ地区で激しい戦闘を行っていることが根拠ということだ。これがオリンピック停戦に反するからということである。イスラエルへのイスラム世界からの反感は激しく、今大会でもアルジェリア選手がイスラエル選手との対戦を拒否したらしいという疑惑によって処分されそうである。イスラエル選手との対戦拒否は珍しいものではなく、イスラム教徒はしばしばイスラエル選手と対戦することよりも敗北を選ぶ。それほどイスラム世界においてイスラエルは嫌悪されているのである。
イスラエル拒絶問題はイスラム世界で国際大会を開く上での重大な障害になっている。イスラエル選手の入国が拒否されたりするからだ。イスラエル選手との政治的な理由による対戦拒否も横行しており、しばしば国家ぐるみである。競技団体はこのような行為を防ぐために罰則等を作っているが、なかなかこのような行為はなくならない。イスラエル選手との対戦を拒否した選手はしばしばメダリストのように英雄視されることがある。その逆のイスラエルがイスラム教徒との対戦を拒否するという例は聞いたことがない。国際スポーツの場でこのような行為が堂々と行われるのは嘆かわしいことである。
一方、今回のパリ五輪ではロシアとベラルーシの選手は出場権を剥奪されている。一応個人資格での出場はできるのだが、ロシアの軍事侵攻を認めない等の条件付きである。これが西側によるダブルスタンダードではないかという意見がある。
個人的にはロシアが禁止され、イスラエルが許される背景はいくつか考えられると思う。
2022年のウクライナ侵攻ではロシアは一方的にウクライナを侵略した形となった。一応東部の紛争で虐殺が行われた等の主張をロシアはしているのだが、、どうにも国際社会は懐疑的だし、一方的にウクライナが被害を受けたという認識が一般的である。もしウクライナがロシア国内に奇襲攻撃を欠けて数万人の民間人を殺害・拉致したことが戦争の原因であれば、国際社会の反応は全く違ったはずだ。
一方、ガザの戦争はハマスによる「アル=アクサの洪水作戦」が原因であり、奇襲攻撃によって1200人ものイスラエル人が殺害された。現在も多数の人質が監禁されており、帰還の目処は立っていない。この問題において、パレスチナが自分たちをウクライナと同列の被害者だと主張するには最低でも人質を返還する必要があるだろう。
ロシアがオリンピックにおいて「問題児」として扱われていたことは、理由には含まれていないものの、実際は意思決定に影響を与えたのではないかと思われる。ロシアは以前から国家ぐるみのドーピングに手を染めており、多数のメダルを不正にもぎ取ってきた。2014年に亡命者の告発でドーピングが発覚してから、ロシアはオリンピックから追放され、ROC資格での参加となっている。それでも2022年の北京五輪ではワリエワのドーピングが発覚した。正直、ロシアの存在はオリンピック競技を根本から歪めるような問題を起こしており、断固たる措置を取る必要があるだろう。
あまり判断には影響していないかもしれないが、パレスチナが1972年の五輪を血に染めた民族であることも忘れてはならないだろう。ミュンヘン五輪ではイスラエル選手団が襲撃され、選手が一人を除いて全員殺害されてしまった。犯人は黒い9月を名乗っていたが、アラファト率いるPLOが背後にいることは明らかだった。イスラエルは即座に報復作戦を取り、事件に関わったPLO幹部を徹底的に暗殺した。東京大会ではこの事件の追悼が公式に行われた。
これらの事情を考えると、オリンピックにおいてイスラエル選手団がロシアやベラルーシと同列に扱われる可能性は低い。イスラエル選手団への嫌がらせは耐えないし、イスラエル選手団の存在を否定するような言説も多い。パレスチナは排除を要求しているが、彼らはイスラエルへの抵抗を主張するばかりで、ハマスに人質を返還するように働きかけようという動きは見られない。残念ながらオリンピックという文脈においてはテロは起こすわ対戦拒否を繰り返すわでパレスチナ側の方がトラブルメーカーということになってしまう。
というわけで、オリンピックにおいてロシアとイスラエルが同列に扱われる可能性は低い。これはイスラエルが西側で、ロシアが西側と敵対している、という事情を除いてもである。個人的には政治性の強い軍事侵攻よりも、ドーピング問題について切り込んでほしかったのだが・・・
ちなみに今までドーピングが発覚したオリンピック選手の国のトップ5はロシア・ウクライナ・ベラルーシ・ウズベキスタン・アメリカである。旧ソ連諸国に根付くドーピング文化の深刻さが浮き彫りになるだろう。
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