パリのメトロ---サン・ジェルマン・デ・プレ駅

 パリのセーヌ左岸の6区に、パリで最も古い 教会がある。l’Église Saint-Germain des Présサン・ジェルマン・デ・プレ教会だ。6世紀から始まるサン・ジェルマン・デ・プレ修道院は紆余曲折を経て、現在の教会だけの姿となってしまった。それでも、教会の外観は往時を忍ばせ、内陣に至るやその美しさは中世の美意識を現代伝えてくれる。

教会の内陣、現代の技術で彩色を復元した。

 かつての修道院跡地は、長い時を経て、セーヌ左岸という地の利(ローマ時代からの歴史、パリ大学)を得て、発展し現代の文化的な街になった。教会の前庭に当たる、真正面にはCafé les Deux Magots (レ・ドゥー・マゴ)、その隣にCafé de Flore (カフェ・ド・フロール)がある。19世紀末は詩人のヴェルレーヌやマラルメ、1920年代はアンドレ・ブルトンを親分にしたシュールレアリスト達、30年代から戦後にかけて、ジャック・プレヴェール、アーネスト・ヘミングウェイ、サルトル=ボーヴォワールなど多くの作家・文人のたまり場となった(そのためにメトロ駅のすぐ上は「サルトル=ボーヴォワール広場」と名付けられた)。
 パリでは、特色ある街のメトロの駅は地上の街を反映するような装飾が施されている場合がある。サン・ジェルマン・デ・プレ駅の場合は、サン・ジェルマン界隈で 青春を送った作家や芸術家に オマージュが捧げられていて、見て歩くだけで楽しくなる。

Saint の «S» の上には若き日の Simone de Beauvoir シモーヌ・ド・ボーヴォワール
どういうわけか Jean=Paul Sartre サルトルの写真はなかった。かつて、カフェ・ド・フロールに一度だけ入ったことがある。2階のある席について、garçon に飲み物を注文した時、
彼はある隅っこの席を指差して「あそこがサルトルの席だ」と教えてくれた。
«M»にはMiles Davisマイルス・デイヴィス、
彼をじっと見つめているのはJuliette Grecoジュリエット・グレコ、
前者は伝説的なジャズ・ペッター(映画『死刑台のエレベーター』を思い出す)、
後者はサン・ジェルマンのミューズ(女神)と言われた歌手。
二人がサン・ジェルマンで出会った時前者が23歳、後者が22歳、
一瞬の火花のような恋だったのだろうか。
«D»にはMarguerite Duras マルグリット・デュラス
脚本デュラス、監督アラン・レネの傑作、映画『Hiroshima Mon Amour ヒロシマ我が愛』
小説『L'Amant 愛人』は映画共々日本でも爆発的な大ヒットとなった。 
«G»には小説家 Roman Gary ロマン・ギャリー
彼は覆面作家名 Émile Ajar としてもゴンクール賞をとったので、二度の受賞だった。
映画『Les oiseaux vont mourir au Pérou(鳥達はペルーで死ぬ)邦題『ペルーの鳥』を制作する。美しくも悲しい映画だった。主演女優は妻である、あの『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグだ。2人は離婚後、生涯を自死で閉じた。

 両側のホーム壁に写真はまだまだたくさんあった。今度パリに行けたらゆっくりと写真に収めたいものだ。
 この4号線のメトロは、このたび気付いたが自動運転になっていた(今年からのようだ)。14番線は25年前から、1番線は13年前から自動運転になっている。この自動化は順に進んでいくだろう。地下鉄の運転手の人たちは悔しい思いをしているだろう。というより、運転手がいらなくなってしまうではないか。
 ひと言 : もしパリで自動運転のメトロに乗ることがあったら、一番前の席を取ってください。運転席がなく、運転手がいないので車両はライトを点けることなく暗闇を走るのでスリルを味わえます。


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