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伝説の舞台

先日テレビかCMか忘れたが、久しぶりに香取慎吾が「おっはー」とやっている姿を見て、中学時代の文化祭の、伝説の舞台を思い出した。

私達のクラスは出し物として「演劇」をやる事になり、演目は「白雪姫」になった。
そして肝心のキャスト決め。実行委員の子がまずは主人公の立候補を募ったところ、普段教室の片隅でずーーーっと絵を描いている自他ともに認める「絵・漫画を描く事が大大大好き」でありBL大好きのごっりごりの腐女子、いわゆるオタクど真ん中の女の子がまっさきに手を上げたのである。
普段下を向いてずっと漫画を描いている彼女が堂々と顔をあげ、
「できれば白雪姫か、女王様のどちらかをやりたいです」と。
…え??
私はざわついた。周りもざわついたのを覚えている。
そしてなんやかんやあり、結局彼女は女王様をやる事になった。

そこからの彼女の演技のこだわりぶりは凄かった。練習の時からすごい声量と演技力。
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ??」
「白雪姫め…!!!!」
「おーーーほっほっほっほ!!!」のものすごい高笑い。
着飾る事には一切興味がなく容姿はかなり地味な彼女であるが、実はよく見ると切れ長のきれいな目をした美人顔。女王の黒いドレスっぽい服が似合っていた。「当日は私、母親のハイヒールを持っていきます!!コツコツならした方が臨場感でるので!」と意気込んでいたのを覚えている。

さて、当日。私達の舞台は、彼女のおかげで大成功だった。あちこちから「白雪姫が色んな意味で忘れられないw」と聞こえてきた。
ちなみに女王が変身した姿である「りんご売りの老女」は別の女の子が演じたのだが、なんせ中身があの女王という設定である。別人に見えてはいけない、との事でその子もフルパワーで頑張ってくれていた。それもあって本当にインパクトのある伝説の舞台になったと思う。

私はというと、完全に裏方で(表に出たくなかったので私にとっては最高である)、普通に背景の絵を描いたりしていた。
だが、その舞台、普通の白雪姫じゃつまらないという理由で舞台の終盤はキャストも裏方も全員舞台に立ち、当時流行っていた「慎吾ママのおはロック」を振り付きで歌わなければならなかったのである。そして、最悪な事に舞台に出た時に「もっと前、つめてつめて」の流れに流れついたところがど真ん中で、わりとセンターあたりで踊る羽目になってしまったという苦いオチとセットで、記憶に残っている。

例の女王様を演じた彼女とは、特別に仲良くはなかったが、何度か一緒に絵を描いた事がある。当時、「絵を描くのが好き」というだけで「暗い」「オタク」「ダサい」と位置づけられ、実際私もクラスの今で言う陽キャたちに絵を描いていただけでディすられた事もあった。
が、彼女はそんなのもろともしなかった。クラスの壁に張り出す為に書かされた自己紹介文にも「三度の飯よりも絵を描く事が大好きです!!」と堂々とイラスト付きで貼り出していた。当時の私は正直、少し引いてしまっていた。でも、今考えると、彼女はとてもかっこよかったなと思う。本当に絵に向かってまっすぐだったし、将来は絶対に漫画家になると言っていたし、それが少なくとも中学の三年間、ブレる事が一切なかった。
今、どこで何しているのか全くわからないが、きっと、なんらかの形で絵を描き続けているんじゃないかな、と思っている。もしかしたら知らぬ間に彼女の絵をどこかで見ているのかも。

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