理学の合言葉 2 私達は「わかる」かどうかで全てを見る―情報
表現は、私達の頭やコンピュータの中のものです。
なので、内容はどうこう言いませんが、基礎の思考プロセスは人の頭やコンピュータにあったものでないといけません。
そして、人やコンピュータは「わかる」かどうかを基準に思考していることが殆どです。
それ故、表現は「わかる」かどうかを基準に行いたいものです。
この特徴は、表現が形式的な場合において顕著に現れます。
今回は、理学を学ぶために必要な「わかる・わからない」などについて説明していきます
1 「わからないこと」はどんなもの?
数学や科学では「わからない」がめちゃくちゃ現れます。
数学では変数、未知数などがあります。
しかし、こういった「わからない」は4種類に分類できます。
見てもらえれば分かるように、下に行くほど複雑で、より深い「わからない」になっています。
1.隠れていてわからない
これは、それがどうなのかはこの時点で決定されているけど、私達は知ることができないという意味があります。
「目隠ししてサイコロを振って出た目」のイメージです。
〈例〉古典的確率混合、量子論的な粒子の確率混合、未知定数(意味による)
2.決まっていなくてわからない
これは、それがどうなのかこの時点で決定されてすらいないため、私達は知ることができないという意味があります。
「サイコロを振る前の出る目」のイメージです。
〈例〉純粋状態の量子論的重ね合わせ、未定定数(意味による)
3.二重にわからない
これは、それがどうなのかこの時点で決定されてすらいないし、別の意味でも私達は知ることができないという意味があります。
「目隠しをした上での、サイコロを振る前の出る目」のイメージです。
目隠しを取るだけ、サイコロを振るだけではわかりませんね。
〈例〉混合状態の量子論的重ね合わせ(≒量子論的な波動の確率混合)
4.どれかの理由でわからない
1〜3の「わからない」は実際に起っていることは違えど、私達は同じ「わからない」状態であり、その度合いに差は殆どありません。
裏を返せば、私達はこの状況だけから、今1〜3のどの状況か判別できないわけです。
今1〜3のどれなのか判別できないが、兎に角わからないという意味です。
「目隠しをされているのかいないのか、サイコロはすでに振られたのかいないのかわからない上での、サイコロの出る目(出た目)」のイメージです。
〈例〉未知数、変数
ちなみに、実際に何が起きているかは意味論の範疇で、形式的な立場からは扱えないので、形式的な理学の「わからない」は殆ど4の場合のものになります。
2 「わかること(情報)」はどんなもの?
では、「わかる」ことはどんなものでしょうか。
今日は晴れた、x+1>3だ、この水は20℃だ
って感じの「それぞれの場面で正しいとされる、わかること」があります。
これが「情報」です。
この「情報」には、ある情報からそれ以上の情報は得られないという至極当たり前な性質があります。
情報は増えることはなくどんどん弱くなり、わからないことが増えるのです。
例…
・10℃の水50mlと20℃の水10mlを混ぜて落ち着いたらどうなるか簡単に分かるが、12℃の水60mlだけ出されてそれが何を混ぜてできたかは分からない。
・x=1,y=2からx+y=3は簡単に分かるが、x+y=3だけからx,yの値は分からない。
「私達が本を読めば情報が増えるじゃないか!」と思うかもしれませんが、本と私達という全体で見れば、情報が私達の手に渡っただけで情報は増えていません。
「私達が考えれば情報が増えるじゃないか!」と思うかもしれませんが、
それで出てきたものは、本人の脳内にあった情報から導かれたもの、または定かではない推測なので、情報は増えていません。
このように、導出や証明や帰結などの「情報の流れ」は一方性があります。
そして、数学や理学が私達の頭やコンピューターの中のものである以上、
この「情報」という概念と「情報の流れは一方的で情報は増えることなく一方的に減っていく」という大原則がついてまわります。
3 「わかる・わからない」に関する概念
次に、私達が扱っていく「わかる・わからない」に関する概念は大きく3つに分かれます。
1 同異の区別(アイデンティティ)
一つ一つの存在が周りと区別され、入れ替わることができない時、「その存在は周りとは違うんだ」という情報を持っています。
2 性質、状態、種類
0以上のいくつかの存在がグループに帰属される時、「それらの存在はそのグループに属しているんだ」という情報を持っています。
3 情報の流れ
いくつかの情報から新たな情報を導出することが出来ます。
4 数学の色々な分野はこれらにどうアプローチする?
3で話した概念などは直感的どころか一種の直感なので、抽象的すぎてそのままでは厳密に扱いにくいです。
そこで、これから話していく集合論、圏論、論理、”世界”論、再帰理論、証明論などを使い、こういった直感を表現するのです。
集合論では集合で、圏論では圏の射や関手などで、論理では記号の組み合わせと公理で、”世界”論では”組み合わせ”と”分類”で、再帰理論ではプログラムで、証明論では命題と証明で、これらの概念を私達が理解できる範囲に持っていってくれます。