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ばあちゃんの話#02~じいちゃんの話~
私の知っているじいちゃんは、手先が器用で、物を作ることが大好きな人でした。裏庭からはのこぎりのギーコギーコという音や釘をトントン打つ音が、毎日のように聞こえてきました。
祖母とじいちゃんが暮らしていた家を増築したのも、じいちゃんでした。他にも、食器棚、鉢植え置き、将棋盤と囲碁盤、孫の手、杖など、家にあるあらゆるものがじいちゃんのお手製でした。孫の私たちにも、それこそ伝統工芸品店で売られていそうな木製ゲームを作ってくれました。
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1.じいちゃんと求人と英語
そんなじいちゃんですが、何だかんだ面白い人でした。
ーー遠い昔、じいちゃんがまだ若い頃、ある求人広告を見掛けます。その募集要項には、条件に「英語ができる人」と書かれていました。じいちゃんは英語が一切話せません。しかし、こう思ったのです。
「必要とは書いてあるけれど、使う機会なんてほとんどないだろう。それに英語ができるかどうかなんて、確認できる人はいないはず・・・」
いやはや・・・昭和の時代だからこそ、出てくる発想です。
結局、面接でも英語を話せるふりをして、見事に合格します。
そして、思った通り英語を使う仕事は全くなく、実は話せないと職場の人にバレた時にはすでに何年も働いていたことから、笑い話で終わったそうです。
うん、今じゃ考えられない話だねえ。
2.じいちゃんとバスとまさかの事態
じいちゃんは、よく日帰りで温泉に行っていました。
ーーその日も、いつものようにバスに乗り温泉に向かいます。温泉街までの道のりは長く、バスは途中で10分程度の休憩を取るのが決まりでした。
休憩の時間、じいちゃんは外に出て、いつものようにタバコを吸います。当時のバスには運転手の他にも添乗員がいました。この日は、添乗員の方とバス停下の河原まで降り、話をしながらタバコを吸っていたのです。
しかし、その会話は、弾み過ぎました。
気づいた時にはバスは出発し、ふたりは置いて行かれてしまったのです。
真相はこうです。
じいちゃん:添乗員と一緒にいるのだから、置いて行かれるはずがない。
添乗員:お客さんと一緒にいる添乗員を置いて行くはずがない。
運転手:出発時間になっても添乗員が乗っていないはずがない。
結果、置いて行かれるーー。
確認って大事ですね。
世の中、絶対なんていうものはないのですよ、ええ。
3.じいちゃんとパチンコと長生き
じいちゃんは昔、パチンコと競馬が好きだったそうです。特にパチンコに関しては、祖母にも隠れて通うほどに大好きだったとか。
ーーある日のこと、祖母の実家で親戚の集まりがあり、じいちゃんも行くことになりました。
じいちゃんは家に上がった途端、曾祖母にこう言われます。
「今日もパチンコに行っとったとね?」
曾祖母は霊感がある人で、まさに、つい先ほどまで隠れてパチンコに行っていたじいちゃんは、「バレた!!」と思い恐怖したそうです。
曾祖母はさらにこう言います。
「長生きしたいとなら、パチンコはやめんね。長生きできんばい」
この日以降、パチンコは一切しなくなったそうです。
祖母曰く、「じいちゃんは長生きしたかったとやろうね」とのこと。
曾祖母の言う通り、そのままパチンコを続けていたら、じいちゃんは早くに亡くなっていたかもしれませんし、そうでなかったかもしれません。そんなことは、誰にも分かりません。
ただ、今考えると、ひょっとしたら曾祖母は、祖母のことを想って言っただけなのかもしれないとも思うのです。「大事な娘に苦労を掛けるんじゃないよ」という、親心から来た、戒めの言葉ね。
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◆◆◆
じいちゃんは、96歳まで生きました。
大往生です。
パチンコやめて、大正解。
祖母は、じいちゃんが入院するときには一緒に病院で寝泊まりし、本当に最後の最後まで、じいちゃんの側に居続けました。
仕事をしながら病院に泊まって看病をするなんて、体力的にも精神的にも大変なはずなのに、疲れた素振りは一切見せませんでした。
ただただ、じいちゃんのために自分の役割を果たすという感じーー。
じいちゃんよ、
ばあちゃんと出逢って、
長生きできて、
最期まで、
隣に寄り添ってもらってさあ・・・。
まったく、
幸せ者だったねえ。
(つづく)