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韓国美術館#03. 煥基美術館~抽象画家の金煥基の作品と画家としての進化を垣間見れる美術館~

 数年前から西洋画に興味を持ち始め、そこから韓国の現代美術も少しずつですが観るようになりました。

 その中から今回は、金煥基(キム・ファンギ)と彼の作品を楽しめる煥基美術館についてご紹介したいと思います。

 金煥基は個人的にも大好きな画家で、韓国現代美術に大きな影響を与えた抽象画家です。



煥基美術館(환기미술관)

 煥基美術館(환기미술관)はソウル市鐘路区(종로구)付岩洞(부암동)に位置します。地下鉄は通っていないため、バスでのアクセスになります。最寄りの停留所は『付岩洞住民センター(부암동주민센터)』で、バス停からは徒歩5分で到着します。

 また、煥基美術館から10分程度歩いたところにソウル美術館があります。煥基美術館に行かれる際は、こちらの美術館にも行かれることをおすすめします。

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 煥基美術館は名前の通り画家・金煥基の作品を展示している美術館です。その他の作家の作品も観ることができるため、行かれる際は前もって特別展の情報をご確認されると宜しいかと思います。

 美術館の最新情報や予約方法は以下のサイトでご確認いただけます。


金煥基(キム・ファンギ)

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<金煥基 Hansung University Digital Wikiより>

 金煥基(김환기/キムファンギ、1913~1974)は韓国の抽象美術における第一世代として知られています。洗練され昇華した造形言語を用いた韓国的叙情主義を基に固有の芸術世界を確立し、韓国を始め現代美術の中心であるパリやニューヨークでもその名を馳せました。

 1930年代中頃からは当時最も前衛的な活動の一つだった抽象美術に励み、韓国のモダニズムをリードします。そして50年代には現代的で単純化された造形言語を基に、叙情的世界を形造りました。この頃の作品は、山、川、月などの自然を主な素材とし、より密度の高い豊かな表現を用いて韓国特有の叙情を美しく創り出しています。

 煥基は56~59年の約3年間のパリ時代とサンパウロ・ビエンナーレで受賞した63年から亡くなる74年まで滞在したニューヨーク時代に最も旺盛な活動を見せました。

 パリ時代とソウル時代を含む50年代まで、彼の芸術は厳格で単純化された造形性の中に韓国固有の叙情世界を具現化しました。その後、60年代後半のニューヨーク時代には、点、線、面などの純粋な造形的要素を用いて、より普遍的で内密的な叙情の世界を深化させていきます。

「煥基美術館ホームページ」より翻訳)


◆煥基と日本

 煥基は日本とも所縁のある画家です。

 金煥基は1935年に日本大学芸術学院美術部に入学し、藤田嗣治と東郷青児に師事します。二人はヨーロッパから帰国したばかりだったので、煥基は自然とキュビズムや未来派の画風に影響を受けるようになりました。
「煥基美術館ホームページ」より翻訳)

 35年当時に描かれたのが、この『雲雀の歌を歌うとき(종달새 노래할 때)』という作品です。

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<『雲雀の歌を歌うとき(종달새 노래할 때)』1935年、178 x 127cm Naver知識百科より>


◆韓国特有の叙情的抽象画

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<『梅とハンアリ(매화와 항아리)』1953年、53 x 38cm>

 これは煥基の代表的な作品の一つで、月、空、梅、そしてハンアリ(항아리)と呼ばれる壺をモチーフにして韓国の叙情を表現しています。シンプルですが、自然と季節、そして、人々の生活を感じさせる暖かい印象を受けます。

 煥基はこれ以外にも、壺と月を描いた作品をたくさん残しています。


◆自然を用いた造形言語

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<『1-Ⅷ-1967』1967年、177 x 127cm Naver知識百科より>

 この地図記号のような絵は、木、林、山などの自然を表しています。これが煥基の表現する造形言語です。

 煥基の芸術はニューヨークに移った後もさらに進化していきますが、解説していただいた学芸員の方曰く、その大きな理由の一つが「ニューヨークという都市に暮らす人たちにとって、煥基が表現する『自然』や『韓国的な叙情』を理解するのが難しかった」からだそうです。それでも、煥基はこの状況を嘆き落ち込むのではなく「ここの人々に受け入れられる芸術の形とは何なのか」と、さらなる活動に打ち込んだそうです。


◆点と線で作り出す新たな芸術の世界

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<『春の音 4-I-1966』1966年、178 x 128cm Naver知識百科より>
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<『10‐VIII-70 #185』1970年、292x216cm>

 そして創り出したのが、この線や点で表現する芸術世界です。

 初期の頃のような、(東洋人にとって)分かりやすい暖かさはありませんが、単純であるものの奥深いインパクトを与えます。

 学芸員の方曰く、「一見すると以前の絵画とは全く違う作風に思えるが、この一つ一つの線と点の中には、煥基が今まで追求し続けていた技術が確かに含まれている」とのことでした。

 煥基にとってこれが進化、洗練された芸術の形だったのでしょう。


◆煥基史上最大かつ最高傑作

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<『Universe 5-IV-71 #200』1971年、2.45m×2.45m Naver知識百科より>

 年を追うごとに煥基の芸術表現は単純化される一方で、作品の規模は大きくなっていきます。この『Universe』は細長い二つの作品を並べたもので、2.45m×2.45mの大きさになります。煥基にとっては最大規模の作品です。

 点と線でこれだけ大きな作品を仕上げたなんて、本当に「すごい」としか言いようがありません。美術館で実物を見ましたがかなりの迫力で、『Universe』という題名にふさわしく、深い宇宙の中心に吸い込まれていくような錯覚に陥りました。


◆高額で取引される煥基の抽象画

 『Universe』は2019年にオークションに出品されて8,800万香港ドルという高額で落札され、韓国史上最高額で取引された作品として知られるようになります。また、これにより韓国国内競売落札額ランキングで上位1~6位を煥基の抽象画が占めることになりました(한겨레 ”김환기 〈우주〉 132억원 낙찰, 짜릿하면서도 씁쓸한 뒷맛”より)。

 しかしこの結果、『Universe』は煥基美術館を出て、現在は香港において展示されているそうです(※)。

 オークションの結果は、煥基が韓国の美術史史上最高の人気と評価を得た画家であるという証拠だとも言えるのかもしれません。

 ーーが、『Universe』が韓国から去っていくのは非常に残念に思います。煥基の最大で最高の傑作が、煥基美術館にないなんて、ねぇ・・・。

 特にバスで行ける距離の美術館にあったせいか、韓国で展示されている間にもう少し観ておくんだったと、今更ながらに後悔しております。 

※その後『Universe』は再び韓国へ帰国。2022年10月~12月までは江南の S2A にて公開されました。

◆煥基にとっての美術とは

 最後に、煥基にとっての美術とは……

"미술은 철학도 미학도 아니다. 하늘, 바다, 산, 바위처럼 있는 거다. 꽃의 개념이 생기기 전, 꽃이란 이름이 있기 전을 생각해 보라. 막연한 추상일 뿐이다."
(1973년 10월 8일 김환기 일기)

「美術は哲学でも美学でもない。空、海、山、岩のようにあるものだ。花の概念が生まれる前、花という名前が付けられる前を考えてみるといい。漠然とした抽象に過ぎない」
(1973年10月8日の日記より)


 自然のようにただ存在するだけのもの、ただそれだけだそうです。


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◆◆◆

 金煥基の作品と画家としての進化が見られる煥基美術館ーー。
 ご興味のある方は是非一度お越しください。


 ではでは😊

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