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なかなか興味深い韓国の「姓氏」と「本貫」と「行列字」②~結婚できない⁉~

 前回の記事では、以下の事柄について触れました。

  • 「姓氏(성씨)」とは苗字のことで、日本と比べると韓国の姓氏の種類は非常に少ない。

  • 「本貫(본관)」とは家系の始祖の出身地を指し、姓氏同様、韓国の家族形成において非常に重要な役割を果たす。

  • 父系社会の韓国では、子どもは父親の姓氏と本貫に従うのが原則で、それらは結婚しても変わることはない。

  • 姓氏と本貫を共有する者は、父系血縁者とみなされる。

 今回はその続きです。


4.姓氏と本貫と結婚

 姓氏と本貫が同じ者(=同姓同本)は、父系血縁者とみなされる。

 そう言われても、日本人の感覚からするとあまりピンとこないのではないでしょうか。私は、遠い親戚がたくさんいるようなものかなと想像していますが、合っているのかよく分かりません。

 ただ、遠縁の親戚がたくさんいたとして、普段の生活に何か影響があるのでしょうか。

 実はあるのです。それも、かなり大きな影響が。それが、婚姻です。

 韓国では長らく、同姓同本者間の結婚を禁ずる「同姓同本不婚」の制度がありました。下記の<五大姓氏・本貫(2015年)>を見ても分かるように、姓氏と本貫を同じとする人口は決して少なくありません。というか、かなり多いです。

<五大姓氏・本貫(2015年)>
1.金海 金氏(김해 김씨)・・・446万人
2.密陽 朴氏(밀양 박씨)・・・310万人
3.全州 李氏(전주 이씨)・・・263万人
4.慶州 金氏(경주 김씨)・・・180万人
5.慶州 李氏(전주 이씨)・・・139万人

『한국 성씨 15년새 4800개나 늘었다는데...』より抜粋・作成

 もちろん姓氏と本貫が同じでも、すべての人と親戚付き合いをしているわけではありません。そのため学校や会社で出逢った人が同姓同本だったというケースは珍しくなく、その場合は好き同士でも結婚することは許されませんでした。血のつながりはないに等しいほど遠縁の相手でもです。

 これってなかなかですよね。

 同姓同本不婚は、1958年に制定された民法第809条第1項にも規定されていましたが、1997年7月に憲法裁判所が「同姓同本の結婚を禁ずるのは男系社会を優先するものであり、男女平等に反する」として憲法不合致の判断を下し、廃棄に至りました。それにより2005年には民法が改正され、現在では「8親等以内の親族との婚姻を禁ずる」となっています。

 制度が無くなったとはいえ、日本では4親等以降の傍系血族であれば結婚可能であることを考えると、現法でも結婚できない範囲は広い感じがしてしまいます。


◆いろいろ気になるから聞いてみた

 一昔前の韓国ドラマにありがちな、生き別れの兄妹とは知らずに出逢って恋に落ち・・・というストーリーは、このような歴史的背景に拠るところが大きいのではないかと、個人的には思っています。

 生き別れまではいかなくとも、大人になって知り合った相手が同姓同本であれば結婚できないわけですから。見方によれば、あれは現実問題だったわけです。

 私がこの事柄に一番関心を持ったのは、まさに自分が結婚する時でした。

 法律は改正されましたが、現在でも結婚届には本貫を記入する欄が残っています。韓国人の旦那の本貫を意識したのは、この時がほぼ初めてだったと思います。用紙に記入された本貫を見ながら、次から次に沸いてくる疑問を投げかけました。

「そもそも韓国人同士、本貫は尋ねるものなの?」

 この答えは、「Yes」らしいです。

 もちろん人や場面にもよりますが、特に同じ姓の場合は出逢った最初の頃の会話で、自然に聞くことになるらしいです。ある意味コミュニケーションの一環ですかね。

「姓と本貫が同じだと分かったら、恋愛感情は生まれないの?」

 はい、彼曰く「生まれない」らしいです。

 無論その答えに納得がいかなかった私は、「え”~タイプの相手でも? 」とか「人ってそんなに理性的じゃないでしょ」とか、さらには「(年が近い場合)じゃあ感覚としては、いとこが増えた感じ?」と、まくし立てて聞きました。

 その後、色々調べてみたのですが、やはりこの制度は社会問題を引き起こしていたようでした。

 同姓同本で恋愛関係に発展し結婚を望むケースが続出、特に子どもができた場合は婚外子として育てるしかく、韓国政府はそのような状況を受けて、78年、88年および96年のそれぞれ1年間限定的に同姓同本婚を認める内容の特例法を制定しました。このような背景の下、先ほどの97年の決定、そして2005年の民法改正へと至ります。

 それでも長らく続いた慣習だったため、裁判所の判断に違和感を持つ国民は今でも多いそうです。

 しかし、KBS Worldの記事によると、これら措置と改正によって救われたカップルは20万組以上にも上るとのことでした。この数字を見ると、同姓同本不婚の慣習は現代社会と乖離した制度だったのだと改めて感じます。

(つづく)


【参考資料】

・文慶喆:『韓国人の姓氏と多文化社会』


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