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父、豆柴を所望す。
「豆柴が飼いたいねん」
脂の乗ったテッチャンを網の上で転がしながら、表情を緩めてニヤニヤとつぶやく父。
父、母、ぼく、弟、妹。家族5人そろって外食するのは、ほんとうに久しぶりのこと。
妹とぼくは、地元を離れて大阪で就職しました。その大阪に2021年1月14日に出された、2度目の緊急事態宣言。「山と山の間の凹んだ部分に村作りました」と言わんばかりのド田舎の地元には、ここ1年ほど帰省できていませんでした。
そんな今日は、還暦を迎えた父の誕生日。弟・妹とLINEでお祝いする日を決めて、父の欲しいものを母というSPYから聞き出し、準備は万事OK。
帰省することを伝えると「夜は焼肉やな!」と、自ら食べたいものを宣言してくれた父。そんな父が今、テッチャンをかみしめながら、「豆柴が飼いたい」と言っている。
「豆柴」、それは、日本原産の日本犬の一種。柴犬の中でも小さいものがそう呼ばれており、柴犬の平均体高36.5〜39.5cmに対して、豆柴は31〜33cmほど。かわいいやつだ。
晩酌には必ずワンカップ大関を飲んでいた、昔の厳格な父はどこへやら。今や梅酒ロックを片手に、あの「豆柴」を欲しています。
以前我が家には、アメリカン・コッカー・スパニエルがいました。とはいえ父は溺愛していたわけではなく、散歩はいつもぼくか妹だったし、そもそも飼うことになったのも、母と妹が半ば強行して決めました。
そのワンちゃんが一昨年、20数年の人生に別れを告げて旅立ちました。
ベーコンエピのはしきれ、りんごをむいた皮、そしてティッシュを好んで食べる犬でした。
ドッグフードに飽きた彼女にこれらを与えた犯人は、ベーコンエピは父親、りんごの皮は母親、ティッシュはスコッティです。春は鼻セレブ。
「豆柴が飼いたい」と言った父。ぼくは少しだけ、しんみりとしてしまいました。さびしかったのかな、帰ってきて欲しかったのかな、ほんとは話し相手が欲しかったのかな…。
母の日はプレゼントを送るのに、父の日は何にもしない長男。帰省すると伝えるときの、LINEの相手はいつも母。2台の車でどこかへ行くとき、乗るのは決まって母の車。
子どもってそんなものかもしれないけど、なんだか少し申し訳なくて、しんみりとしてしまいました。
今年の春、ぼくは、「豆柴」を探します。トリマーの従姉妹に連絡をとり、ツテを当たってもらい、父のお眼鏡にかなう「豆柴」を探します。
そして、「豆柴に会いたくて」と理由をつけて、実家に帰ります。ニヤニヤする、父が待つ家に、
とびきり美味しい梅酒を持って。
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![ともきち|165cmのホテルマン](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/44330187/profile_867450897478276b84b0834d9f99ea4c.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)