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司法試験・ロースクールで役立つ基本書【刑事訴訟法編】

司法試験やロー入試、またはロースクールでの予習において欠かせないのが「基本書」です。しかし、いざ探してみると様々な基本書があって、どの基本書にしたら良いのか、それぞれの基本書にどのような特徴があるのか、よく分からないという方も多いと思います。

そこで、本記事ではロースクールに在籍中の筆者が、司法試験対策とロースクールでの予習の観点からそれぞれの基本書を分析し、自分なりの評価を述べていきます!是非参考にしてください!(ライター:長井/The Law School Timesライター


刑事訴訟法の基本書について

刑事訴訟法の基本書はとても充実しています。入門書から判例集、さらに問題を解く上でどのような思考過程を経れば良いのかという観点に着目した書籍まで幅広くあります。それ故にどの書籍を選べば良いか分からなくなることが多いです。

そこで、読者の方にピッタリな一冊が見つかるように、入門書から順に5段階の評価を踏まえて解説していきます!


入門書

池田公博・笹倉宏紀『刑事訴訟法』(有斐閣、2022年)【有斐閣ストゥディアシリーズ】
・司法試験役立ち度:★★★
・ロースクールでの役立ち度:★★★

皆さんご存知の定番入門書シリーズ、有斐閣ストゥディアシリーズ(以下「ストゥディア」)です。こちらの書籍はストゥディアの中では少し異色で、分かりやすい大半の記載の内に時折レベルの高い記載もあります。そのため、少しばかり入門書としては不向きで、刑事訴訟法が好きで余裕がある方にオススメです。

ロースクールでの予習においては、そこそこ役立ちました。本書のレベルが高いとはいえ入門書として一定の評価を得ているストゥディアであるため、正確な定義などの基礎知識の確認には向いています。

緑大輔『刑事訴訟法入門』(日本評論社、第2版、2017年)
・司法試験役立ち度:★★★★
・ロースクールでの役立ち度:★★★

こちらは隠れた名著の入門書として有名です。緑教授の書籍はどれも分かりやすく、後述の『基本刑事訴訟法』も緑教授が一部を執筆しています。入門書としてはストゥディアよりもこちらの基本書をお勧めします。各項目の冒頭に事例と会話形式の問題提起がされており、主要な問題意識を踏まえた上で読み進めることができます。とても通読向きの基本書といえるでしょう。

入門書に位置付けられる点から、ロースクールでの役立ち度はストゥディアと同じ評価です。


基本書・体系書

吉開多一ほか『基本刑事訴訟法I 手続理解編』(日本評論社、2020年)【基本シリーズ】
吉開多一ほか『基本刑事訴訟法II 論点理解編』(日本評論社、2021年)【基本シリーズ】
・司法試験役立ち度:★★★★★
・ロースクールでの役立ち度:★★★

司法試験界隈では圧倒的なシェア率を誇る基本シリーズの刑事訴訟法編です。司法試験対策の基本書に迷ったらこの2冊で問題ないと思います。基本シリーズは、司法試験や予備試験対策に注力されているため、過不足なく必要な知識を得られます。多くの基本書が1冊にまとめたり手続段階を踏まえて捜査と公判で2冊に分けたりしていますが、本書は手続理解編と論点理解編の2冊に分けられている点が特徴です。つまり、手続理解編を読むことで、まずは実際の手続に沿って概要を理解し、一連の手続の中で論点になる箇所を論点理解編で把握できるという構成になっています。また、論点理解編が別冊になっているため、論文対策としてかなり使い勝手が良いです。

一方で、ロースクールでの予習において本書はあまり効果を発揮しません。というのも、ロースクールの講義は深い学説の議論にまで触れることがあるのですが、本書は試験対策の観点から主要な学説のみに触れていることが多いため、ローの予習においては他の基本書を参照することが多かったです。

宇藤崇ほか『刑事訴訟法』(有斐閣、第2版、2018年)【Legal Questシリーズ】
・司法試験役立ち度:★★★★
・ロースクールでの役立ち度:★★★★★

司法試験対策としてはお馴染みのLegal Questシリーズの刑事訴訟法です。こちらも司法試験の対策のための基本書としてお勧めできます。しかし、Legal Questシリーズは学説の深い議論にまで触れていることが多かったり、内容の読解難易度が高かったりするので、本書を最初に通読するための一冊としてはお勧めできません。ある程度学習が進んだ上で読み進めると真価を発揮するタイプの一冊です。

ロースクールでの予習では、本書がとても役に立ちます。多くの学説に触れてくれていること、大体の事項は記載されていること、判例も事案の概要も含め簡潔に記載されていることから予習内容の大半は何とかなりました。

川出敏裕『判例講座 刑事訴訟法〔捜査・証拠編〕』(立花書房、第2版、2021年)
川出敏裕『判例講座 刑事訴訟法〔公訴提起・公判・裁判・上訴編〕』(立花書房、第2版、2023年)
・司法試験役立ち度:★★★★★
・ロースクールでの役立ち度:★★★★

司法試験界隈で一定の支持を得ている判例講座刑事訴訟法シリーズです。名前に判例講座とあることから「判例集なのかな?」と思いますが、判例のみでなく基本的な事項についてもしっかりと説明がされているため、基本書として用いることができます。特徴は、判例を軸として学説や制度に触れていくことです。刑事訴訟法において判例への理解は欠かせません。そこで、本書のように判例に対してどのような議論がなされているのか、判例の判旨はどのような解釈ができるのかについて詳細に触れている書籍は必須といえるでしょう。司法試験対策において個人的にお勧めの一冊です。

本書はロースクールでの予習においても重宝します。基本的な事項の説明に加えて、判例の判旨において重要な箇所のみを抜き出しているため、判例百選を参照する際にどの箇所が肝となるのかについて把握することもできます。

酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、第2版、2020年)
・司法試験役立ち度:★★
・ロークスクールでの役立ち度:★★

刑事訴訟法の体系書として有名な一冊の「酒巻刑訴」です。判例の詳細な分析や酒巻教授の自説の展開がなされている点が特徴です。確かに、刑事訴訟法の理解を深めるという意味では適している書籍なのですが、如何せん自説の紹介はあれど他説の紹介はなく、本書のみを読み込むと意図せず通説以外の説を採用していることになりかねない点が少し懸念点です。勿論、それが一概に良くないわけではないのですが、司法試験において通説を避けて通ることになるのは心配であるため、刑訴の基本書選びに困ったら、取り敢えずは上記の基本書3冊の中から選ぶようにしましょう。

ロースクールの予習でも酒巻教授の説を参照するときを除いては、あまり参照しませんでした。やはりロースクールの講義では通説の説明から入ることが一般的なことや、本書は初学者や基本的な事項を参照したい方向けに執筆されていないことから、ロースクールの予習で用いるには不向きだと思います。

おわりに

筆者が学部生の頃は、刑事訴訟法が複雑で難解な科目であると感じ、苦手だったのですが、基本書を用いてロースクールで学習していくにつれて理解が深まり、苦手意識がかなり払拭されました。「刑事訴訟法が苦手だ」とか「好きじゃない」という方は、自分に合った基本書が見つかると刑事訴訟法という科目が好きになれると思います。そして、基本書を選ぶ際に本記事を参考にしてくだされば幸いです。


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