クイズ
中英語期に用いられた 文字に ȝ(yogh /yɔx/ ヨッホ)があります。次の単語は当時 ȝ を含んで綴られていました。ただし1つは違います、それはどれでしょうか?
「今使っていない文字など分かるか!」と言うそこのあなた、ちょっとお待ちを!これはクイズです。どこかにヒントはあります。
night
size
tough
year
X での回答
多くの方にご回答・リポストしていただきました。ありがとうございました。
クイズの答え
答えは2【size には ȝ(yogh /yɔx/ ヨッホ)が含まれていなかった】でした!
文字 G は中英語期に ȝ という字形をしていました。ȝ は /j/(硬口蓋摩擦音)と/x/(軟口蓋摩擦音)とを表す文字として使われました。この子音2つを当てた yogh /yɔx/ヨッホ がこの文字の名称です。つまり現代の英単語で/y/と/x/の音を含む語に、ただし/x/の音は消失したためその残滓である綴り gh を含む語に、かつてこの文字が使われていたと推定できるのです。正解のヒントは文字の名称にありました!
スッキリしていただけたことと思います。
ところがスッキリは ȝ の醍醐味ではありません。ここから幻惑の文字世界にお付き合いください。
ではまず ȝ 登場の前後を時間順に示します。
ȝ 登場前 : 古英語では文字 Ӡ(現代の g にあたる、頭が平たいのが特徴)が/j/と/g/音を表してました。
ȝ の時代:13〜15世紀に文字 Ӡ の変形である ȝ(頭が丸いのが特徴) が/j/音を、別の字体 g が/g/音を受け持ちます。さらに ȝ はそれまで h が受け持っていた/x/音も担います。
ȝ の退場 : ȝ に代わって y が/j/音を、gh が/x/音を引き継ぎます(/x/音はいずれ多くの語で消失することになりますが)
「わけわからん!」ですよね。推移を横に並べてみます。
文字の移り変わりに幻惑されます。ȝ はスペリング変化の十字路に浮かんだ抽象画でしょうか。移りゆく現し世の比喩、「所詮この世は ȝ のよう」にも見えてきます。
これらの文字変化を単語の語形変化に重ねてみましょう。なおクイズで 1. night と 3. tough のどちらかで迷われた方は最終段階の変化に注目してください。長らく同じ綴りと音を共有していたものが、後に分かれることになりました。
niht /x/ → niȝt /x/ → night /x/ →night /x/
size
toh /x/ → touȝ /x/ → tough /x/ → tough /f/
Ӡear /j/ → ȝear /j/ → year /j/
それでは最後にクイズの答えにした【ȝ の文字を含まなかった size】に関連した逸話です。
外見上の類似に混乱したスコットランドの人々は ȝ を間違って z(の筆記体を思い浮かべてください)と綴りました。例えば語形 zear(year のこと)などが存在した、ということです。幻惑されたのは私たちだけではなかったということです。
あれ、単語 size に ȝ は使われていなかった、で私は間違っていませんよね? 分からなくなりかけました。こんな時はえっと、ああ、文字 ȝ を読め、でした。
参考:『英語史入門』橋本功 (2005) pp. 47, 92-96、hellog #1914
hellog より
関連して、堀田隆一先生のブログ記事を紹介します。