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序数詞【日曜英語史クイズ9】

クイズ

英語の序数詞は今の形に定まるまで変化がありました。下に古英語期の序数詞の様子を説明しました。ただし誤っているものが1つあるのですが、それはどれでしょうか?(綴りは現代英語式にしてあります)

  1. first
    foremost も使われていた

  2. second
    other が使われていた

  3. third
    i と r の順序が逆で今より three に近かった

  4. twenty-first
    first and twenty だった


X での回答

ご回答、リポストのご協力ありがとうございました!


クイズの答え

 正答は4【twenty-first は古英語期には first and twenty ではなかった】でした!

 では順に見ていきましょう。

1. first
 「foremost が使われていた」は事実です。
 古英語期に1の序数にあたるものは複数の語が使われており、first や foremost などがありました。それが中英語期に序数としては first だけが生き残りました。
 ここで連想されるのは first and foremost「まず第一に」という成句です。

First and foremost, I'm an actor, not a politician.
まず、私は俳優であって、政治家ではない。

『ウィズダム英和辞典』2018

 学習辞書の中には「first of all と同義」としているものもあります。
 この成句を少し掘り下げます。

 さて序数の座を追われた foremost ですが、語形の興味深い変化がありました。古英語では formest でした。これは fore「前に」に 最上級接尾辞 -m と、さらにもう一つ最上級語尾-est が付いた二重最上級です。それが15世紀に most の影響を受けて foremost になりました。せっかくの二重最上級が、言わばただの最上級になってしまったのです。
 念のため、普通の意味の最上級(語尾-est を付ける、もしくは前に most を置く)ではありませんよ。ちなみに、utmost「最大限の」なども同様の変化をしました。

 一方、first も fore の最上級です(hellog #68)。ということは first and foremost は、そうですね「姉妹最上級」と呼びましょうか。

 最後に成句 first and foremost の過去を洗ってみました。すると1400年頃に初出とあります。つまり foremost に語形が変わる以前、 first「最上級」 and formest「二重最上級」 の記録を発見したのです。

 この頃の姉妹には、何と名前を付けましょうか?


2. second
 「other が使われていた」は事実です。
 second は13世紀にフランス語から入った語で、それまで2の序数として使われていた other を置き換えました。

 every other day「一日おきに」の other に「2番目の」の名残があるという、垂涎のうんちくが hellog #67 に紹介されています。


3. third
 「i と r の順序が逆で今よりも three に近かった」は事実です。どなたも選ばれなかったので、この4つの中では割と知られた事実なのかもしれませんが、一応簡単に触れます。
 今の語形になる前は thrid だったのですが、r と i の音が前後で入れ替わって third になりました。このような現象を音位転換といい、強音節で /r/ と母音の間に生じます。16世紀までは前の thrid が一般的だったとのことです。
 他の「3」ファミリーも同様に three を保持していましたが、thritene > thirteen、thrity > thirty と変化しました。

 「音位転換」の話題ももちろん hellog #60 にあります。


4. twenty-first
 天地反転しますので近くの柱につかまってください。いいですか?
 正しくは「古英語では first and twenty ではなく one and twentiethだった」のです!

 耐えてください。 
 この衝撃が読者の方を直撃するようなことがあってはならないと危惧し、緩衝材としてクイズの誤り選択肢(=正答)を作った次第です。

 twenty-first 現代英語
 first and twenty クイズの誤り選択肢(a. 桁の順序が逆)
 one and twentieth 古英語の事実(a. 桁の順序が逆、b. -th の位置が逆)

 つまり現代英語から見て古英語には「倒錯」点が2つもあるのです。

OE 同様 MEでは 21-99 までの複合数は 10 台の前に 9 までの単位数を置いた .. 序数詞の場合も同様である。

中尾俊夫『英語学大系9 英語史II』(1972) 7 5 1.2

 「複合数」とか「単位数」とか、見慣れぬ術語が並んでいますので表にしました。

 今の形になったのは、17世紀初頭のフランス語 vingt-et-un のなぞりによるとのことです。なお and とハイフンについては考慮に入れていません。すいません。

 「倒錯」の一つ目「a. 桁の順序が逆」について。1桁目を先に言っていたとは、いったいどんな世界認識だったのでしょうか?3桁以上は見えていなかったのでしょうか、見えてはいたのに別次元扱いということなのでしょうか?
 二つ目「b. 序数詞マーカー-th の位置が逆」について。20以上は個よりも◯十台という集合が上回っていたのでしょうか?それとも逆に、序数詞マーカーより個が重要ということだったのでしょうか?

 目まいが止みません。
 異世界です。分からなくなってきました。いっそのこと、あちらの世界に住んでしまえばこの目まいは止むのでしょうか。
 いや、そんなわけありませんよね。この数学的な現代英語、現代社会にどっぷり浸っている私など、1日として耐えることなどできないでしょう。

 なお、heldio #419 もこの話題を扱っています。


参考:宇賀治正朋『英語史』(2000) 5.2.5.

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