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fun の品詞【日曜英語史クイズ12】


クイズ

名詞 fun 「楽しみ」は形容詞的に使われることがあり、次の4つの使用法が観察されています。
さてコーパスで2000年以降の使用件数を調べた場合、このうち最少数のものはどれでしょうか?

  1. 冠詞+fun+名詞

  2. very fun

  3. funner

  4. funnest



X での回答

回答、リポスト、ありがとうございました!


クイズの答え

 正答は3【funner の使用件数が最も少ない】、正解率57.9%でした!

 fun「楽しみ」は名詞だと思って生涯を送ってきました。
 生徒には「とっても楽しかった!は "I had a lot of fun!" です、 "It was very fun." ではありません」と教えてきました。
 もちろん教育的には問題なかったと思います。しかし「形容詞でいいのに」という心の声もありました。心の声は出すことなく密かに押し込めてきました。

 先日、Merriam-Webster の記事 "Fun! Funner!! Funnest!!!"を読み、funner [funnest] が使われていると知りました。記事は「funを形容詞と認める人でも more [most] fun を好む人が多い、しかし funner [funnest] はインフォーマルな場面で実際に使われている」という内容でした。
 fun の形容詞化だ!と、長年押し込めていた声が出ました。more [most] fun よりも funner [funnest] のほうが形容詞的だろう、と思ったのです。

 「fun が形容詞らしい振る舞いをし始めたということなのだろうか?」と興味が湧き、funner [funnest] を含め、他にも様々な形容詞的用法の使用件数を比較してみました。

表① COHA (Corpus of Historical American English)


 表の右、枠で囲った所が2000年以降の使用件数になります。2、3、4を使ってクイズを作りました。funner が最少ということが分かります。
 私は少し落胆しました。というのは「比較級語尾-er、最上級語尾-est が付けば形容詞化している証になる」と思っていたのですが、コーパスでは期待していたほどの数の funner [funnest] が得られなかったからです。

 果たして、fun は形容詞化していると言えるのでしょうか?この問題意識を、クイズを通して共有していただくことができるのではないか考えました。いったい、形容詞とは何なのでしょうか


形容詞らしさ

 「fun の形容詞的用法の数は多いのか、少ないのか?」つまり他の語と件数を比較しないことには多いとも少ないとも言えません。まずはここから始める必要があります。
 そこで比較の対象としてeasy, stone, joy を加えることにしました。選考理由は私のカンです。形容詞鑑定の初心者です。大目に見てください。開き直っているわけではありません。
 easy は「真正形容詞」として、stone は「半分形容詞」として、joy は「真正名詞」として選びました。

表② COCA (Corpus of Contemporary American English, 1990-2119) 検索式はCOHAと同じ

 fun は 半分形容詞に選んだ stone よりも、 真正形容詞に選んだ easy に近い件数が出ているということが分かります。

 とはいえ、さらに次の疑問が湧きます。「1〜4のどの項目が多いことが形容詞の証なのだろうか?」
 この疑問には Quirk et al. CGEL (A Comprehensive Grammar of the English Language) が答えてくれました。形容詞の特徴は A.「叙述用法」と B.「限定用法」を有していることである、そしてこの2つの両方とも満たすものは中心的形容詞、片方だけ満たすものは周辺的形容詞である、とされています(CGEL 7.1-4)。
 なお、 C.「very の後にくる」、と D.「比較級・最上級を作る」は、副詞と区別がつかないため判定基準にはならないと述べられています。
 おや、そうですか。比較級・最上級は度外視していいんですね。ひとまず、良かった!

 表①②でいうと1番が叙述用法に、2番が限定用法に当たります。
 改めて表の数字を眺めてみましょう。おお、fun は中心的形容詞に向かって間違いなく進行していると、言えますよね?!


 最後の疑問です。「なぜ叙述用法と限定用法の両方を兼ね備えていることが、形容詞らしさの証しなのだろう?」
 この疑問には「形容詞は名詞、動詞と連続している」という考え方をヒントにして取り掛かりましょう。
 これは、名詞と動詞という品詞分類は知覚の両極である、知覚の一方に不変の対象があり他方には変化する過程がある、不変の対象を担うのが名詞で変化する過程を担うのが動詞、そしてその間にあって連続するスペクトラムを担うのが形容詞である、という考え方です。

形容詞のスペクトラム

形容詞は修飾的用法(例:「赤いリンゴ」)と叙述的用法(例:「リンゴは赤い」)を両方もっており,前者は対象の特定を通じて「名詞らしさ」の側に,後者は(行為ではないが)性質についての叙述を通じて「動詞らしさ」の側に近づく.. 

大堀壽夫『認知言語学』2002

 目下の問題意識に引き付けてまとめてみます。形容詞らしさとは名詞らしさと動詞らしさの共存である。名詞らしさとは限定用法によって表される静的なものの知覚であり、そして他方、動詞らしさとは叙述用法によって表される動的なものの知覚である。従って、限定用法と叙述用法の両翼を広げることこそ中心的形容詞の証である、と。


補足

 今回1番目の基準とした叙述用法「be動詞+fun」については、私が使った簡単な検索式 "[vb*]+fun ."は、名詞 funと形容詞 fun を区別せず抽出してしまう、という問題点があります。鑑定人の限界です。ただしそれだけでなく、ここに名詞と形容詞の連続性が顔を出してるとも言えます。例えば OED は、 「be動詞+名詞 fun」の後期は形容詞の叙述用法かもしれないとし、かつ、形容詞の叙述用法の初期は名詞の叙述的用法かもしれない、としています。

 また fun の語誌は、動詞は1685年頃に「だます」で初出、名詞は1699年に名詞「だますこと」で初出、そして1726年「楽しみ」となっています。形容詞の初例は1827年とされていて、品詞転換を繰り返しています。

参考:hellog #3533「名詞 -- 形容詞 -- 動詞の連続性と範疇化」




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