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トランプ新政権③ イランを攻撃して原油価格を高騰させる

いま中国で最も人気のある金融・財政の評論家の一人、盧麟元氏がトランプ2.0を分析しています。
第三回目のポイントは次のとおりです。

米軍・米ドル・米国市場を崩壊から救うことがMAGA運動の柱である。
ベッセントの「三つの3」は、この柱に沿った政策である。
三つの3のうち、財政赤字の圧縮(2025年度にGDPの3%以下)は、失敗すると見る。経済成長率3%は達成が可能。
原油の300万バレル増産は、イランへの軍事作戦によりペルシャ湾を封鎖し、原油価格を高騰させる意図が読み取れる。警戒が必要。

本文より要約

2024年11月に配信された動画からの抄訳です。
分量が多いので、複数回に分けて掲載しています。


それでは、ベッセントの「三つの3」について見ていきましょう。
これはトランプ2.0における経済政策の主軸です。

トランプ2.0の経済政策:三つの3

ベッセントが掲げる「三つの3」というのは次の三つです。

  1. 財政赤字をGDPの3%以内に抑える。

  2. GDP成長率を3%以上に維持する。

  3. 原油生産量を300万バレル増加させる。

ベッセントは極めて聡明な人物ですが、これらをいち早く発表したのは失策だったかもしれません。
ベッセントはトランプ政権の行動計画を示したのです。

この発言で、北京の友人たちに伝えるべきことが判明しました。
彼らの標的は中国ではないということです。

MAGA運動のねらい:軍・ドル・市場の維持

同時に、ベッセントは、MAGA運動における柱を明らかにしました。
柱というのは次の三つです。

  1. 米軍を崩壊させない。

  2. 米ドルを崩壊させない。

  3. 米国の資本市場を崩壊させない。

米軍の崩壊を防ぐには軍事改革が必要です。
政治改革はきわめて困難ですが、軍事改革は成功するかも知れません。
現在の米軍は、小規模の戦術レベルの軍事行動にしか対応できない状況です。
戦役や戦略的な軍事行動には対応できないのです。

もちろん、アメリカの軍事理論は依然として世界最先端であり、米国のC4システム※は、中国で「千手観音」と言われる無敵の存在です。
※訳注:指揮、統制、通信、コンピュータを組み合わせた、統合指揮通信システムのこと。

しかし、アメリカの海軍・陸軍・空軍は、著しく劣化しています。
特殊部隊は強力ですが、戦術レベルでの行動に限られます。
戦役になると、中小規模の国が相手なら勝算があるかもしれませんが、大国相手では対応が困難です。
戦略規模の軍事作戦となると完全に無理で、さらに5年後には無力になるでしょう。

アメリカは今すぐこの問題に取り組む必要に迫られています。
米軍が崩壊してしまうと、それを支える他の基盤も全て失われます。

実のところ、アメリカにも唐代の李隆基や李林甫にあたる人物がいますが、ここでは詳しくは触れません。
※訳注:李隆基は唐の玄宗皇帝のことで、李林甫は玄宗皇帝の宰相。

現在の米軍は、「傭兵軍」のような状態と言えます。
戦闘能力ではワグネル(ロシアの民間軍事会社)に劣るかもしれません。

非常に深刻な問題で、軍隊が完全に資本化され、極めて不健全な状態に陥っています。
容認できないほどの腐敗行為がある、ということです。

腐敗行為があってはならず、立て直すべきです。
が、軍事改革には大きな困難が待ち受けています。

次に「米ドルを崩壊させない」という点です。
これには、債務を圧縮することが不可欠です。
「三つの3」の焦点がここにあるのは明白です。

債務圧縮が必要です。
私の個人的な見解では、国債規模は40兆ドルが臨界点になります。
この臨界点を超えると、ドルは歴史的な崩壊を迎える可能性があります。
もっとも、この崩壊はドル指数として現れるのではなく、金やビットコインとの関連においてあらわれるでしょう。

この問題は2028年まで引き延ばすことはできません。
2025年には具体的な行動を開始し、2026年には成果を見せ、2027年には安定化させなければなりません。
さもなければ、何が起こるか予測がつきません。

最後に、資本市場を崩壊させない、についてです。
資本市場は、米国を支える屋台骨です。
資本市場を崩壊させないためには、再びの工業化が必要です。

これで、ベッセントの「三つの3」を理解できるようになります。

財政赤字をGDPの3%以下に

財政赤字がGDPの3%を超えないようにする点について、ベッセントは、2024年から2025年の財政年度に赤字を1兆ドル規模に抑えると言っていますが、私は不可能と考えています。
2025年9月30日までに、アメリカの国債総規模は40兆ドルを突破すると見ています。
予算を大幅に削減する必要がありますが、マスクには対応しきれないでしょう。
連邦の税収で解決できないからといって、地方に手を付けるという訳にもいきません。

GDP成長率を3%以上に

次に、GDP成長率を3%以上に引き上げる点についてですが、これは可能だと思います。
むしろ、それ以上の成長率を達成することも可能です。
米国の資本蓄積率が6%以上になれば、3%の成長率は問題なく達成できるでしょう。
私が見る限り、ベッセントなら方法を見つけられるはずです。

この資本蓄積率の向上が、再工業化と軌を一にするかどうかについては、後ほどお話ししますが、ありえると見ています。

原油を日産300万バレル増産

では、「300万バレル」についてはどうでしょうか。
300万バレルというのは非常に重要な数字です。
なぜ石油を300万バレル増産する必要があるのでしょうか?
ベッセントのようなトップクラスの戦略家が数字を挙げるとき、その裏には必ず緻密な計算があるのです。

現在、OPECプラスの減産量は300万バレルです。
具体的には、サウジアラビアが約100万バレル、ロシアが100万バレル弱、その他の国々を合わせて約300万バレルに達します。
OPECプラスが減産している中で、米国が300万バレルを増産する意図は何でしょうか?
石油価格を20ドルに下げるつもりなのでしょうか?

もし石油価格が1バレル20ドル以下に下がったら、米国の石油業界はどうなるでしょう?
喜ぶどころか、大打撃を受けることになります。
なぜなら、アメリカのシェールオイルの採算コストは30ドルを超えるからです。

ベッセントが十分な熟考にもとづいて、この発言をしたのは間違いありません。
彼の計算では、石油価格が150ドルに達すると見ているのでしょう。
つまり、ベッセントは、米国がイランに対して軍事行動を起こす意図をほのめかしています。
イランを攻撃し、ペルシャ湾を封鎖することで、石油価格を高水準に保つ狙いがあると考えられます。

この300万バレルの増産は、単に米国のインフレを抑えるためだけでなく、経済成長をもたらし、巨額の収入をもたらします。
この300万バレルは日々の生産量だからです。

ベッセントはこの「三つの3」を公表すべきではなかったと考えます。
この発言によって、私たちは問題の深刻さを認識するにいたりました。
(第四回に続く)


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