健康診断における胸部X線検査とAIの可能性
みなさんこんにちは。エルピクセル株式会社 RA/QA室の龍です。
RA/QA室では薬事・品質保証を担当しており、私は主に品質保証の部分を担当しています。また自社製品に限らず、製薬会社・医療機器メーカー、アカデミア等との協業における薬事・品質保証の支援も行っています。
ここでは日頃の業務から少し離れて、健康診断における胸部X線検査とAIの可能性についてふれたいと思います。
健診における胸部X線検査の役割
まず、ここでは「健康診断」を労働安全衛生法に基づく「一般健康診断」としてお話をいたします。社会人が勤務先で “受けてください” と言われて受けるアレをイメージしていただければ良いと思います。
また、健康診断だけではなく個人で受診する人間ドックにも胸部X線検査が含まれていると思いますので、これも含めて、健康診断・人間ドックで行なわれる胸部X線検査の役割について考えていきます。
(本記事では、これ以降「健康診断」としているところは人間ドックも含めたものとしてお読みください。)
胸部X線検査の歴史
皆さんは、健康診断で胸部X線検査(いわゆる「胸のレントゲン」)は受けていますか?
胃の検査は「バリウムか胃カメラか、それとも受けないか」といった話題が出ることがありますが、胸部X線検査はあまり悩まずに受けている方が多いのではと思います。
さて、この胸部X線検査ですが、何を検査しているものかご存知でしょうか?
まず歴史的な経緯ですが、健康診断は「労働安全衛生法(66条)」および「労働安全衛生規則(44条)」に基づいて行われており、胸部X線検査は1972年の制定時から健診の項目に入っています。当時は結核の罹患率が高かったため、その早期発見のための検査として入れられたものといわれています(*1)。
ご存知のとおり、現在の日本では結核の罹患率が低くなっている(*2)ことから、「結核の早期発見のために胸部X線検査をする必要はもうないのでは?」といった意見も出てきているようです。
結核と肺がんだけを見つけているものではない
では実際のところ、胸部X線検査では何を調べているのでしょう?
指摘される異常のイメージとして「肺に影がある」といったワードが浮かぶかなと思うのですが、健康診断結果では「結節影」等と指摘されることが多いです(*3)。
日本人間ドック・予防医療学会の健診マニュアルによると、これ以外にも「無気肺」「石灰化影」といった肺に関するものだけではなく、気管、肋骨、大動脈といった部分も含めて70以上の所見項目が挙げられています。肺以外の異常も見つけうる検査である、ということがおわかりいただけるかと思います。
胸部X線検査の現在地
健康診断に関する厚生労働省の検討
上記のような経緯を経て、現在も健康診断で胸部X線検査が実施されているわけですが、厚生労働省では「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」が実施され、健康診断の内容について継続的に検討されています。
胸部X線検査については第3回の検討会資料の中でふれられており、地域差はあるものの結核の蔓延率は低下していること、40歳以上の胸部X線検査に対する適正な精度管理(撮影精度と読影精度)の必要性、等が示されています。
CT検査との比較
一方で、肺がんに関する画像診断法としては、CT検査もよく知られており、肺にがんを疑う病変がないか調べる方法としては最も有力とされています(*4)。特に日本ではCT装置の普及率も高く、比較的容易にCT検査を受けることができます。
ここで、CT検査との比較によるX線検査のメリット・デメリットについてあらためて考えてみると、X線検査では、
・検査時間が短い
・撮影した部位を画像で比較的すぐ確認することができる
といったメリットが考えられます。また、保険診療の際の点数での比較になりますが、検査コストとしてはX線検査の方がCT検査よりも低いです。
その一方で、画像から得られる情報量を比較すると、X線に比べてCTの方が圧倒的に多いことは否定できません。これは、体の中を一方向から1枚の画像として撮影するX線に対して、CTではいろいろな方向から体にX線をあてて、体の断面を連続した画像で立体的にとらえることができるため、当然生じる差ではあります(*5, 6)。
肺がんの早期発見に対する有用性については、画像の情報量以外にも様々な条件(疾患としての有病率や、被験者がハイリスク群であるか、等々)を含めて判断すべきものであるため、ここで明確な判断を示すことは難しいです。
また肺がん以外の検査を含めて考えても、健康診断でどんな異常を発見する必要があるのか、そのためにどんな検査が適切か、といったことから総合的に判断する必要があることだと思いますので、この記事で結論をお示しするのは難しいです。
とはいえ、胸部X線検査は肺がんの検査のみを目的としたものではないことは前述の資料にもありますし、検査時間や費用といった点も含めて考えると、少し前の厚生労働省での「労働安全衛生法における胸部エックス線検査等のあり方検討会」(第3回)でも述べられているように、胸部X線検査はまだ「その役割を終えた」と考えるまでには至らないと考えています。
画像診断AIの普及と発展
健康診断における胸部X線検査の位置づけや精度管理への要求、CT検査との比較等をしてきましたが、ここからは画像診断AIを扱うLPIXELとして、胸部X線検査に対して現在起こっていることをみていきたいと思います。
まず、画像診断AIが普及しはじめていることが挙げられます。医療機器に関する広告規制の関係で、ここでは薬事承認等を取得している製品にふれることはできませんが、「胸部X線 AI」等で検索していただくと、健診施設を含む医療機関で画像診断AIが導入されてきていること、胸部X線画像を対象としたプログラム医療機器が複数の企業から提供されるようになってきていること、等をご覧いただけるかと思います。
こうした普及の背景には、医師の負担軽減や見落とし防止などの期待に加え、AIソフトウェアの管理について一定の施設基準を満たす医療機関に対する診療報酬の加算が行なわれるようになったことも後押ししていると思います。AIソフトウェアに対する診療報酬については、先日の薬事担当の大竹の記事もどうぞご参照ください。
また健康診断とは異なりますが、がん検診における胸部X線検査については、厚生労働省の局長通知で以下のように示されています。
読影の際に2名の医師が必要なわけですが、画像診断AIを開発する企業としては、読影医の負担軽減に貢献したいと思っていますし、将来的にはこの2名の医師のうちの1名の役割をAIに担わせていけたら、という期待をもっています。
胸部X線画像診断に関する研究
また、胸部X線画像による診断を対象とした研究も複数行なわれており、肺がんや肺結核以外にも、心臓弁膜症の検出や血管影を利用した診断等、簡便に撮影できる胸部X線画像からより多くの情報を得ようとする動きがあります。
おわりに
「胸部X線検査でわかること」を増やしたい
健康診断における胸部X線検査の意義と今後の可能性についてみてきましたが、LPIXELとしては医療画像やAI開発に関して蓄積した知見を活かし、さらに高効率・高精度な診断に貢献できる製品・サービスを開発していきたいと思います。開発に興味を持ってくださったり、製品の上市に向けてのサポートを必要とされていたり、といったことがありましたらお気軽にお問い合わせください。
文:龍 玲子