中国物の創作における主な呼び名の解説と使用方法
この記事は中国物の創作しようと考えている人だけでなく、中国の小説を読む際に、どうしてこのように呼んでいるのか?なぜあんなに別名が多いのか?などの疑問に答える記事にもなっている。
乳名(小名、幼名)
日本語でいう所の「○○ちゃん」にあたる。家族やとても親しい幼馴染など、かなり狭い範囲でしか使われない。古代では身体的特徴を付けることが多く、のちの時代ではとても良い意味の名前か、逆にとても悪い意味の名前が付けられることが多かったよう。創作物では「阿〇」や「〇児」、「小〇」「〇〇」(〇には名が入る)などで済ませている。中国物っぽい創作物で幼馴染がいるなどの設定ならば、幼名を付けるといい。
名(諱)
日本語でいう「○○(呼び捨て)」にあたる。歴史の記録に残るのはこの名。士大夫層では名で呼ぶのはとても失礼なことだった。庶民にとっては名で呼ぶのは失礼ではなかったようだけれども、幼名のままや愛称、兄弟の順で呼ぶことも多かったよう。地域差が大きいので士大夫層以外ははっきりとこうとは言えないと考えられる。
現代中国の創作物では、現代の呼び方に合わせて、名で呼ぶのは別に失礼ではないという感じで扱っている。もちろん、ガチの歴史物では名で呼ぶのはとても失礼である。
字(表字とも)
日本語でいう所の「○○さん」にあたる。少なくとも紀元前まではかなり敬意のある呼び方だったけれども、時代によっては字で呼ぶのもなんか馴れ馴れしいのではといった感じで、使われる範囲が結構バラバラ。さらに、士大夫ではない一般庶民にはあったりなかったりしたようで、中国の創作物で字を付ける作品は少数派。ガチの歴史物以外には必要はないと思っていい。
字と幼名についてはこちらの記事にもう少し詳しく書いている。(書いたよ)
フルネーム呼び
歴史物以外ではとてもニュートラルな呼び方。ニュートラル過ぎて、親しい人(主に親)が、𠮟責や突き放す際にフルネームで呼ぶことがある。
フルネーム呼びについては、名が1文字の場合と2文字以上の場合とで扱いが違い、現代物や仙侠物、武侠、古代風のファンタジーなど、ジャンルによっても違うので、中国の文化にある程度詳しくないとなかなか難しい。ちなみに歴史物の場合は「○○ぶっコロす」の○○は概ねフルネームか蔑称が使われる。
号
日本語でいう所の「○○さん」や「○○殿」、「○○様」にあたる。唐から宋の時代に大流行し、一般化した。現代でも残っている。元々は君主などから送られる地位とは関係のない美称だったと言われている。孟嘗君や信陵君みたいな封号もそれに近い。雅号などは公的なものではないのだけれども、字より敬意がある。
中国の創作物の中で武侠や仙侠物、ファンタジーなどでは道号がつけられていることが多い。名(諱)や幼名以外のかっこいい名前が欲しいと思ったら号を付けるといい。本名と関係なくていいというのも付けやすい。
愛称&蔑称
実は古代からある。人によって違うので、詳しく書くことができない。
基本的には日本人の感覚と同じなんだけれども、違う所は夫婦や恋人同士でお互いだけの特別な愛称があることが多い。これについては書いたら長くなったので、別記事にしました。(書いたよ)
姓+身分
姓+将軍や姓+丞相みたいな呼び方である。これは現代日本での「○○社長」や「○○課長」などと同じなので、とても分かりやすい。偉い人や偉そうな人、そこらへんお店の店長など、名前がないと困るけど名前を考えるのが面倒なキャラは、姓+身分で誤魔化すとよい。また、「将軍」や「丞相」など、ただ身分だけで呼ぶ場合もある。
親しさの順と注意点
ざっくりと分けている。実際にはもっと細かい。本当は敬意があるか無いかの軸も必要なのだけれども、とても複雑になるのでやめた。
歴史物など
←親しい 親しくない→
幼名、(愛称)、名(フルネーム)、(愛称)、字、号、姓+身分
※何度でも書く。名で呼ぶのはとても失礼である。「○○ぶっコロす!」などの殺伐とした呼びかけでは○○に諱(フルネーム)や蔑称が入る。
中国ファンタジーや仙侠物、武侠物など
←親しい 親しくない→
幼名、(愛称)、名、(愛称)、フルネーム、(愛称)、号、姓+身分
※見た目は〇〇時代を舞台にした作品でも、名を呼ぶのは失礼にならない。殺伐とした呼びかけには蔑称やフルネームを用いることが多い。
現代物、SFなど
←親しい 親しくない→
(愛称)、諱、(愛称)、フルネーム呼び、(愛称)、姓+身分
※現代人でも幼名がある場合、一番左の愛称に含まれている。殺伐とした呼びかけには蔑称やフルネームを用いることが多い。
という感じになる。
しかし、これらの呼び名については日中の親しい人との距離感の違いや重視する物事の違いがあるため、日本人の感覚で考えてはいけない。
日本では他人をどう呼ぶかについては、知っての通り人格(キャラ)によって変わる。それなりに仲良くなっても、真面目な人ならば「○○さん」と呼び続け、軽い感じの人ならば初対面でも「○○ちゃん」と呼んでいるといったふうだ。この人物はどういう人格(キャラ)なのかを表現していると言っていい。
中国では他人をどう呼ぶかは、人との距離感を重視する。人格も影響するのだけれども、真面目な人でも仲良くなれば気軽に「○○ちゃん」と呼ぶし、軽い感じの人でも初対面ならば失礼のないように「○○さん」と呼んだり、「私のことは(あなたと仲良くなりたいので)△△ちゃんと呼んで欲しい、あなたの事はどう呼べばいいのか?」と尋ねたりする。相手をどう呼んでいるかによってその人物との関係性や親密さが分かるのだ。(ちなみにヤバイ奴は初対面でも親しくなくても「○○ちゃん」と呼んでくる。)
よって、日本のように初対面から仲が良くなってもずっと呼び方が同じという事はないと考えていい。特に、現代を舞台にした創作物の場合はかなり複雑に呼び方が変わる。これは創作物は現代人の肌感覚で正確に書かれているので当たり前の事だ。また、歴史物や中国ファンタジーでも、親密さが変われば呼び方が変わるし、恋人や夫婦になると特別な呼び方をすることも多い。それについては(特別な愛称についての記事)で詳しく解説している。