おすすめの調べものツールについて
前回に引き続き、勉強していく上で参考になるサイトや役立ちそうなツールを紹介していきたいと思います。
何か気になる人や思想が見つかった時にまず確かめるのがお勧めなのはコトバンクに収録されているニッポニカです。コトバンクにはブリタニカ国際大百科事典と世界大百科事典も収録されているので、併せて読むことをお勧めします。ニッポニカの特徴は押さえておくべき事実を中心に第一線で活躍する研究者が自らの名前でそれぞれの項目を執筆していることです。大きな項目であれば簡単な参考文献も付されており、執筆者の論文や研究書を手掛かりに深掘りすることができます。具体的な項目を挙げれば、加藤信朗氏のプラトンやアリストテレス、坂部恵氏のカント、宇都宮芳明氏のハイデッガー、飯田隆氏のウィットゲンシュタインといったところでしょうか。なお、世界大百科事のウィトゲンシュタインの項目は黒田亘筆のもので、それぞれに叙述の奥行きが異なり、コトバンクに入っている項目を眺めるだけでも総合的な理解を深められると思います。というより、これらの情報を図書館で得ようと思えば数十冊の一巻を取り出してその項目を探すということにもなるので、何ともありがたいツールです。試しにコトバンクで「良心」と「形而上学」を挙げておきたいと思います。
ニッポニカと世界大百科事典に書かれている内容はそれこそ『岩波 哲学・思想事典』に迫る内容かと思いますが、複数の辞書を読み比べることで立体的な理解が得られるサイトです。項目によっては何十冊もの本を読んで理解するような内容が書かれていたりするので、非常に頼りになります。
次に論文を探すときにまずお勧めなのはサイニーというポータルサイトです。こちらは全国のリポジトリを一気に検索できる論文ポータルサイトです。例えば「リーゼンフーバー」と検索欄に入力し、本文ありのチェックを入れると上智大学のリポジトリーへの案内がいくつも出てきます。総合検索だとご本人の執筆論文ではないものも拾いますが、より詳しい検索は任意の検索欄をご使用ください。サイニーとの連携がうまくいっていない場合もあるので、論文提供元の所属大学のポータルサイトで再検索するとサイニーで拾えなかった論文が見つかることも多々あります。数週間前のnoteでも言及したフィチーノ論のオリジナルを見つけたのでご紹介します。
大学の紀要に掲載され登録されたものがすべて検索できるものであるため、様々な論文が登録されています。もし信憑性に不安がある方はその執筆者の他の論文を検索し、それまでの研究を確かめる必要があるかもしれません。論文の質といったことが時々問題になりますが、論文を読むことの意味はそれを手掛かりにその分野についての見通しを得ることがまず第一の目的になるのではないでしょうか。それにまるっきり乗っかってしまって何かを論じるというのは非常に危険な行為に思われます。全体像を得て、自らの目で言及される研究を確かめていくことが求められるであろうことは言うまでもありません。
ポータルサイトへの登録などが追い付いていない宝物の宝庫のような学会サイトをいくつか紹介したいと思います。まずは中世哲学会の『中世思想研究』のアーカイブ。こちらは山田晶氏や稲垣良典氏を始めとした日本における西洋中世思想研究の始まりを垣間見れるものですが、2号に若き日の川中なほ子氏のアウグスティヌス研究が載っていたり、3号に井筒俊彦の啓示についての英語論文を見つけたりと、目次を眺めているだけでも幸せな気分になります。
次はギリシャ哲学セミナーのサイトです。こちらは古代ギリシャ哲学研究の学会発表を掲載してくれているものですが、毎号気になる発表者とテーマで、よく名前を見かける有名な方々の最新の研究に触れられるサイトです。古い号に今活躍されている方の名前を見かけたりして、今では当たり前になっている研究の土壌がこのような発表の場によって耕されてきたのだなということを感じさせられます。
最後にハイデガー・フォーラムを紹介したいと思います。創刊号に貴重なリーゼンフーバー氏の巻頭言があり、森一郎氏のハイデガーやアーレント研究に結びついていく論をいくつか見出すことができます。ハイデガーを自体的な研究としてではなく、批判をも含めてどう読み解いていくかという傾向が近年の号には見られるように思います。
毎年膨大な量の論文が世に出て発表されているわけですが、以上に紹介したサイトのものはどれもその分野を切り開いてきたものばかりで、全く古びていません。先に紹介したサイニーなどでの検索ができるようになれば良いのですがそれにはだいぶ時間がかかりそうです。サイニーの検索では日本哲学会や西洋古典学会などの論文もヒットしますのでご自身の関心に合わせて検索していくと思わぬ論文と出会うこともあります。サイニーや検索先のJ-Stageなどでは、論文の号を丸ごと見れたりもするのでその号を通して研究の動向を知ることもできるかもしれません。