カサンドラが自らの力で幸せをつかむまで〜ASD夫との10950日②
ASD夫との出会い
もう30年近く前になる。
福岡市内のとある女子大に通う私は、父、母、兄、弟と暮らしていた。
父親は厳格な、よく言われるタイプの九州男児であったと思う。(九州に住む男性の全てがそうではない)
父は若い頃からよく働く人で、福岡に本部がある全国チェーンの洋品店の店長を歴任し、この時はすでに役員を務めていた。
母は、父から2歩も3歩も下がっている専業主婦。
長男である兄は特別に大切に育てられ、弟は奔放という当時ではありふれた家庭だったと思う。
大学2年の夏。
私の通っていた大学は近くの九州大学と交流がよくあるのだが、その大学との合同ゼミにある男性が潜り込んでいた。
確かとは言えないけれど、地元の人ではなさそうな雰囲気。
チラチラとこちらを見ながら、楽しそうに参加している。
(誰だろう?)と思いながら発表を終えると、休憩時間に話しかけてきた。
「君の考察は掘り下げが浅いんじゃない?良かったら教えてあげようか。」と。
「つまらない絡み方をしてくる」と思いながらやんわりと断っていると、
「僕、K大卒なんだよね。⚪︎⚪︎勤務。黙っていようと思ったけど。」
私を気に入って、気を引こうとしていることは恋愛経験の少ない私でも分かった。
連絡先のメモはその時、渡されたような気がする。
でも、そう言えばと思い出しあとで確認しようとすると、そのメモを挟んだはずの本のページにそれはなく、すぐに無くしてしまっていたようだった。
数日後、知人を通して彼から連絡が来た。
「そっちから電話来るはずなのに、来ないからかけてしまった。」と。
尊大な言い方をする人だと思いながら、軽い気持ちで一度会ってみることにした。
当時私は、8歳上の社会人の彼との仲が、行き詰まっていたのである。