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本を心に刻む1『螺旋じかけの海』

最近、いつも楽しみに見ているYouTubeチャンネル『積読チャンネル』で紹介されていた漫画『螺旋じかけの海』。その内容がとても心に響いたので、感想をNOTEに書き留めることにしました。

今回のようにコミックや本などを心に刻んで行くシリーズは『本を心に刻む』シリーズとしてやっていきたいと思います。『本刻シリーズ』です✨



この漫画には、二つの大きな設定があります。一つは、近未来に人の体から他の動物の遺伝子が発現してしまう病気が存在するというもの。
そしてもう一つは、気候変動により海面が上昇し、世界がスラム化した「水没都市」と、裕福な人々が暮らす「陸上都市」に分断されてしまったという設定です。

さらに、細かい設定も非常に練り込まれています。この世界では、体内の動物遺伝子が15%以上発現すると人権を失うという厳しいルールがあります。
また、意図的に子供たちに動物遺伝子を埋め込み、思春期にその特徴を発現させることで「商品」として売買する、人身売買の闇も描かれています。例えば、片腕が翼になった少女が金持ちのペットとして売られるという設定は、社会の不条理を強く感じさせます。


人々の抱える問題を可視化

この漫画を読んで特に印象深かったのは、「人以外の遺伝子が発現する」という現象が、その人個々の抱える問題を可視化しているように見える点です。
現実でも、人はそれぞれ様々な問題を抱えていますが、それらは表面的には見えません。例えば、海外と比べて日本の貧富の差は分かりにくいと言われますが、実際には満足に食事をとれない人や家庭内暴力に苦しむ人もいます。この漫画は、「みんな表面では問題がないように見せながら、実は様々な葛藤を抱えている」という現実を鏡のように映し出していると感じました。
陸上都市では、高い税金を払うことで遺伝子の変異を抑える薬が手に入ります。そのため、人々は「人間らしさ」を保とうと必死で働き、豊かさを得る安心感を求めています。一方、水没都市では薬を手に入れるお金がなく、いつ自分の遺伝子が15%以上発現して人権を失うか分からないという恐怖の中で暮らしています。

印象的なセリフと考察

作者である永田礼路さんは実際に医師として働いており、その知識や、人命に関わる仕事から生まれる苦悩や葛藤が作品に投影されています。深いテーマと提示される問題に触れるたび、何度も読み返し、内容を反芻しながら自分の思考を広げていく体験がありました。
特に印象に残ったのは、第四巻『千を視る蛇』の回でのセリフです。

感じ方が違えば 世界の見え方が 異なるのは 当たり前だが
共同体には 共通の価値観と 幻想がある程度 必要で
その方便に皆 同じ世界を見ていると 仮定しているだけだ
それが建前でなく 事実だと勘違いするから 厄介なことになる

この言葉は、現実の人間社会を的確に表現していると感じました。
例えば、「命は大切」「人には親切に」といった共通の価値観や、「人のために働くことは尊い」といった幻想があります。しかし、それらは時代や場所によって変わる曖昧なものです。それを「事実」として疑わないことで、他者を「間違っている」と切り捨てるのが人間社会ではないでしょうか。実際は、「違う価値観や幻想を持っているだけ」のはずです。
また、第五巻のラスボス的キャラクターのセリフも心に刺さりました。

生命は尊い だがそれは
理解できる 生命だけが 尊いのだ

このセリフを読むと、「理解できないものを切り離してしまう」人間の傾向が浮き彫りになります。極端な例ですが、凶悪事件の犯人に対して「同じ人間と思えない」と切り離す姿勢に、私は違和感を覚えます。例えば、「自分がその環境で生まれ育ったら、自分がその犯人だったかもしれない」という可能性を考えることも大切だと思うのです。

本当の悪とは?

この漫画を読みながら感じたのは、「本当の悪とは、行き過ぎた人の意識」であるということです。永遠の命を求めるラスボスに対し、主人公が放つセリフが印象的でした。

底なしの 生への希望は ただの暴力だ
いつか必ず 死ぬ運命を 抱えながら 認めさせないのは 呪いと一緒だ

この言葉は、「永遠の命」や「永遠の繁栄」が果たして本当に目標とすべきものなのか、問いかけているように思えます。自然の摂理に反する願望が強すぎると、それは不幸を生むだけでなく、社会全体をコントロール不能な巨大な悪へと導いてしまうのではないでしょうか。

最後に

この作品は、ただのエンターテインメントにとどまらず、私たちが日々どう感じ、考え、生きるべきかを深く問いかけてくれるものです。世間の目や内面から湧き上がる欲望にどう向き合うか。ぜひ、この漫画を通していろんなことを考えてみてはいかがでしょうか✨

この記事を書いていて『ぜんぜん咀嚼できてないなぁ、、、』どう直したらいいんだろう。。。と考えながら年末になってしまったので、もう投稿しちゃいます。。
よりよい完璧な状態を求めて、立ち止まって考え続けている状態って、、、
実はただの思考停止なだけ。。。ってよくありますよね。

皆様良いお年をお過ごしください。
来年もよろしくお願いいたします。

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