チェコ民謡「お猿と鏡」(NHKみんなのうた)のルーツはアメリカの合唱曲?
童謡のルーツ探しが最近の趣味です。
今回は、1963(昭和38)年にNHKみんなのうたで流れた、「お猿と鏡」について調べてみました。
「お猿と鏡」(1963)
「お猿と鏡」は、NHKによれば、作詞:宮林茂晴、作曲:チェコ民謡。「世界の民謡・童謡」さんによれば、原曲は分かっていないようです。メロディーは「うたごえサークルおけら」さんに楽譜が掲載されています。4分の3拍子、ハ長調。
歌詞
「一日馬で」(1960)
「お猿と鏡」より少し前の1960年、合唱曲として歌詞違いバージョンが発表されていました。タイトルは「一日馬で」。4分の3拍子、ニ長調。
歌詞
YMCAとの関わり
チェコ民謡とされる同一メロディーに、2つの歌詞がついていました。「お猿と鏡」は作詞、「一日馬で」は訳詞。歌詞の内容は全然違います。
作詞の宮林茂晴さん、訳詞の津川主一さんの経歴を見ると、2人ともYMCA(キリスト教青年会)に関わりがあるという共通点がありました。
YMCAに親しまれた歌であれば、もともとチェコ民謡だとしても、アメリカを経由して日本に来ているかもしれません。
というわけで、探してみたら、同じメロディーの合唱曲がアメリカにありました。
Came a-Riding (Zum ta di ya)(1938?)
タイトルは「Came a Riding (Zum ta di ya)」。
4分の3拍子、ハ長調(Singing America Song and Chorus Book, 1941)。
ネットで見つけた一番古い歌詞はこちら。
意味はだいたいこんな感じかと。求婚の歌です。
3曲の関係性
「一日馬で」は、「Came a-Riding」と、タイトルも歌詞もよく似ていました。「Came a-Riding」を邦訳したのが「一日馬で」と考えて良さそう。
「お猿と鏡」も、作詞者とYMCAのつながりを考えると、「Came a-Riding」「一日馬で」いずれかを参照して作詞されたのではないかと思います。
まとめると、↓のような流れでしょうか。
原曲はチェコスロヴァキア民謡
英語版の訳詞をされたMartha C. Ramseyさんは、アメリカの移民を対象にした福祉活動組織「全米セツルメント連盟」の音楽部門を受け持っていた方で、チェコスロヴァキアで一冬を過ごし、現地の民謡収集&英訳をされたそうです(The Mount Holyoke News, Feb.1, 1938)。
そういう事情なら、原曲はチェコスロヴァキア民謡で間違いなさそうだし、もしかしたら忠実に訳されているかもしれません。
チェコ語・スロヴァキア語が得意な方、ぜひ探してみてください。
まとめ
1963(昭和38)年にNHKみんなのうたで流れた「お猿と鏡」は、同じメロディーに別の歌詞を付けたものが、1960(昭和35)年に「一日馬で」として発表されていた。この元歌は、アメリカ人音楽家&福祉活動家のMartha C. Ramseyさんがチェコスロヴァキア民謡を英訳した「Came a-Riding (Zum ta di ya) 」だと思われる。原曲の民謡は分からない。