「サラスポンダ」聖歌説
1990年代にサラダスパゲッティーのCMソングになった、「サラスポンダ」という歌があります。もともとは子どもの遊び歌で、それを替え歌にしたのが、このCMソングです(↓)。
(懐かしい…)
調べてみると、「サラスポンダ」は歴史のある歌で、日本では1950年代くらいから知られていたようです。今知ってる人は少ないかも知れませんが、一度聞いたら忘れられない意味不明の歌詞(↓)で有名でした。
1950年代当時の日本の歌集をよく見ると、「サラスポンダ」には「Dutch Spinning Song」と注釈がついていました(高橋四郎 等編「あそびの本 (学校図書館文庫 ; 21)」、牧書店、1952年)。
この歌はオランダの紡ぎ歌だったようです。へ~、そうだったんだ。
Wikipediaによれば、1940年代のアメリカの歌集に同じ記録があるそう。日本にはアメリカを経て渡ってきたのでしょう。
Googleで検索してみると、Wikipedia同様、「サラスポンダ」はオランダの紡ぎ歌で、意味不明な歌詞は、糸紡ぎの音を模したものだと書いてあるサイトがほとんどです。
ところが、ミステリアスなのは、それを裏付けるオランダ側の文献資料が全く出ていないこと。「文献はないけどオランダ人の間でめっちゃ有名」みたいな証言も見当たりません。
逆に、「オランダ人に尋ねたけど知らないって言われた」という話はぽつぽつあるし、何なら、「インドネシアで知らないって言われた」という証言まであります。(インドネシアはかつてオランダの植民地でした。)
なので、本当のところは分からないというのが現状のようです。
こうなってくると、アメリカで創作された可能性も捨てきれません。(その場合、オランダ紡ぎ歌説がどこから来たかということになりますが、例えば「Sarasponda」を「Sarah spun the…」などと解釈して、紡ぎ歌といえばオランダに違いない!!とか、考えた人がいたのかもしれません。あくまでただの想像ですが。)
さて、ここからが本題です。ちょっと面白いのは、1940~50年代のアメリカの歌集に載っていた「サラスポンダ」を見たであろう、日本のおそらく教会関係者の方が、これを聖歌と解釈してクリスマス歌集に載せているんです(共同音樂編集部 編著「クリスマス名曲集」、共同音樂出版社、1953年)。
しかも、ちゃんと日本語の訳詞らしきものを付けているんです!
その訳詞をそのまま載せたいのですが、著作権的に大丈夫かどうか分からないので、ざっと説明すると、歌の前半は原文のままで、後半のサビ以降だけ日本語になっています。その趣旨は「主の声を讃えよ」です。
「主の声を讃えよ」がどこから来たのか想像すると、おそらく、サラスポンダを、Sa responda、サビを、Adora-o! などと解釈したのかなと思います。ラテン語なのか、ポルトガル語なのか、分かりませんが。それだけの内容では、幾ら引き伸ばしても1曲分にならなかったので、歌の後半だけ日本語にしたのではないでしょうか。
しかしながら、その後はやはりオランダ紡ぎ歌説が優勢になったのか、紡ぎ歌としての訳詞が改めて付けられ、聖歌バージョンはフェードアウトしてしまいました。
「サラスポンダ」聖歌バージョンは今となっては忘れ去られてしまった謎訳ではありますが、とはいえ、最有力とされてきたオランダ紡ぎ歌説に何も証拠が見つかっていないのだから、ひょっとしてひょっとすると最初の和訳をした方の直感が当たっていた可能性もあるかもしれません。そうだったら面白いよね。
以上をまとめると、「サラスポンダ」の起源は
1,オランダ紡ぎ歌説 最有力とされてきたが証拠がなさすぎる
2,アメリカで創作された説 1じゃなければ多分これでしょう
3,その他いろんな珍説の中に
謎の聖歌説もあり 1950年代、日本で聖歌として解釈されたことがある
という内容でした。