マイベストアルバム2024年
なかなかここ数年は1年振り返って自分が好きだったアルバム何だったっけな?とあれこれ考えるタイミングが無かったのですが、不思議と色んな方と「今年好きだったアルバム何?」と話す機会が最近多かったので、今年は特に好きだった10枚について振り返りたい。
Romance / Fontaines D.C.
私の音楽の趣味嗜好の原点は間違いなく90年代00年代のUKロックで、現在進行系で掛け値ない愛情を注いでいるわけだが、一方でそんな90年代00年代の音楽に対して、ある種のコンプレックスも抱えていたりもする。それはその当時の熱狂のさなかにいられなかったことだ。きっと僕の好きな楽曲アルバムアーティストがとんでもない盛り上がりを生み出していたであろうリアルタイムを後追いで人づてに聞くことしか叶わず、それはとても羨ましい限りだった。
だからこそ2018年12月1日LIQUIDROOMでceroのライブを観てそのまま夜行バスに乗り、眠れない中聴いた、当時リリースされたばかりの”A Brief Inquiry Into Online Relationships“が世界を揺るがす瞬間に居合わせることができたことは一生の思い出だし、そして2022年に見た来日公演以来魅了されぱなしだった私のヒーローのごときFontaines D.C.がこの”Romance“という、ド真ん中から風穴空けるような渾身の一撃を世の中に繰り出したことが、私にとって大きな出来事だったのだ。大胆不敵な"Starburster"から、一生愛するキラーチューン"Favourite"までつまった大好きな一枚。
来年のライブがとにかく楽しみ。
Imaginal Disk / Magdalena Bay
音楽は聴覚で享受する芸術、であるはずなのに、まるで異世界に誘われたかのように五感全てを使って空想の中で楽しめるところが、音楽の好きなところの一つ。
Magdalena Bayはこれまでも楽曲・アルバム・ライブのステージに至るまでその世界観やコンセプトを大事に表現するアーティストだというイメージを持っていたが、今作はその極地に至っているような作品だ。
歌詞をしっかり読みこんだり、アーティストのインタビューを追えていないので、アーティストが具体的にどんなコンセプトを持ち、この作品で描いているものは何なのか、正直理解できていないのだが、でもそんなことを知らなくたって、このアルバムを聴いている間はこのアートワークにも描かれているような、美しくてどこか不思議な世界にいられた気がする。
そんな非現実に誘ってくれるアーティストが、私は大好きなのだ。
Prelude to Ecstasy / The Last Dinner Party
出会いは決して印象良かったわけじゃないんです。どこから情報掴んでくるの?みたいな耳の早いリスナー達からの評判を聞いて、”Nothing Matters“を聴いてみるわけじゃないですか。曲のかっこよさ、バンド自体の世界観含め、いやいや新人の完成度じゃないじゃんって。嫉妬とかではないんですが、ちょっと複雑な気持ちになりました。
この感情と似たようなものを抱いたことがある、あれだ。
小学生時代。そこそこ勉強できてテストの点数はクラスでトップの方だったのに、あるとき転校してきたあの子は勉強もできて走るのも泳ぐのだって速かった。僕なんか25m泳げないのに。
当然あっという間にクラスの人気者になるわけで、嫉妬するというよりは、そのあまりの完全無欠さに、ああこの人は自分とは別の世界の住人なんだなと。幼心で何となくそう思ったわけです。
けれども、たまたま席替えで隣の席になって、一緒に課題をやったり他愛もない話をしたりして過ごしていると、意外とくだらない話題で笑うんだとか、好きな漫画一緒だとか、水泳選手になりたくてスクールで毎週練習してるんだとか、そういうことに気づけて、決して別の世界の住人なんかじゃなくて、自分と同じ世界で頑張っているのだ、輝いているんだって気づいたころには好きになっていたり…。
そう、日本でライブをしてくれることが決まり、アーティストのことをいろいろ知り、アルバムを何度も何度も聴きこんで魅了され、そして来日公演での圧巻のライブ(BLEACHの扉絵か?って思うくらいステージでの佇まいも凄かった)で恋に落ちたのでした。ほかでもない今年あのタイミングでアルバムを聴いてライブを見られて本当に良かった。
Where we've been, Where we go from here / Friko
理屈じゃなく本能で燃え上がれるような瞬間、というものはかけがえなく尊いものだと思う。
このアルバムは、アーティストからの愛情や真心や魂を打ち込められ鍛え抜かれた、刃のような作品だ。余分なものを含まない、ピュアな熱情こそが私の心を打ちぬいたのだ。
だから、その熱情が満を持して苗場に宿った瞬間、"Crimson To Chrome"のイントロが鳴り始めた瞬間から、その光景を前にして私は顔面をぼろぼろにして涙を止めることができなかった。一生こんな音楽を愛していこうと何度も心でつぶやいた。
こんな素敵な作品を通じて、デビュー時点から日本の音楽ファンとアーティストとの愛情がつながっていく場にいられたことも嬉しかったな。
Only God Was Above Us /Vampire Weekend
Vampire Weekendは元々3rdアルバムがとても好きで、4thアルバムもちょこちょこ聴いてて、でもフジロックで聴いた“A-Punk”はかっこよくて、という感じで、なんとも緩く繋がりを感じていたバンドなのですが、今作が一番好き(またライブ見られたら変わるかもしれない)。
バンドのストレートな初期衝動!って瞬間もあれば、蕩ける夢の中みたいな瞬間も、激しい感傷に浸る瞬間もあるような。リスニングイベントで初めて聴いた時点でかっこよかったし、でも何度聴いても発見があったり違った感想が浮かんできたりと一発で掴みきれてないところがとても好きなのかもしれません。
PRATTS & PAIN / Royel Otis
Frikoに並び今年最も心躍ったRoyel Otisのデビューアルバム。Frikoとツーマンでツアー回ってるの見て、日本にもそのまま来てくれよと祈った頻度は数知れず。
思わず走り出したくなる冒頭2曲から、一転クールなイントロが飛び出してくる序盤が特にお気に入り。来年サマソニに来てぶっかまして欲しいな。
御託は良いから一緒に聴こう。
Charm / Clairo
四季というものがこんなに好きなのはどうしてだろう。今や年がら年中暑い気がするし気づいたら今度は震えながら朝を迎えるし、1年がだいたい春夏夏夏夏秋冬冬くらいの気持ちだが、それでも四季の移ろいには親近感を持っているし、季節ごとの違った匂いが好きだ。
Clairoの前作"Sling"はアートワークの影響もあってか冬のイメージだけども、今作はリリースタイミングも相まって、夏の終わりから秋にかけての私の日常生活のサントラだった。
地元に帰ったとき、夕方散歩していた時、夕日をバックに大空を駆け巡るトンボの群れを眺めながらこのアルバムを聴いてて、もう少し年老いた後でも同じように散歩しているときにこのアルバムは変わらず馴染んでくれそうだなと感じた。ネットのどこかで見かけた、このアルバムに対する「時代を超越した普遍の魅力」というような感想が、私の中で言語化できた瞬間である。
桜が咲く頃か、強い日差しに目を細める頃か、紅葉や銀杏を踏みしめる頃か、はたまた雪がほんのり道端に積もったりする頃か。どこか季節を深く感じれるような頃合いに、日本でもライブしてほしいな。
VIVA HINDS / Hinds
年末滑り込みで聴いてめちゃくちゃハマりました。12月特有のやること盛沢山てんやわんやな日々を共に駆け抜けてくれたカンフル剤。
大人になり社会人になり年を重ねていくと、年々心身が軽やかさを失っていくというか、当然日に日に背負うものは増えていきますし、何も考えずに思いついたことをそのままやっていた学生時代とは違うわけで。
最近はようやくそういった面を受容しつつ、そんな中で自分のやりたいことを意識的に選び抜きながら重くなった心身のままにきもちよく踊り回ってやろうじゃない、という気持ちになったりなんかしてたのですが、このアルバムを初めて通しで聴いたときは、全身からあらゆる重みが吹き飛んでどこまでも飛んでいけるような浮遊感疾走感に全身が包まれたのがほんとに気持ちよかった。
Yard Actの来日公演に行ったときにも感じたことだが、昔より音楽に身を委ねて踊ったり飛び跳ねたりがほんとに楽しい。きっとこのアルバムを引っ提げたHindsのライブもすこぶる楽しいに違いない…というところで幸運にも来年来日公演があるなんて!
CHROMAKOPIA / Tyler, The Creator
こうしてお気に入りのアルバムを並べていくと、自分の生活への結びつきだったりが自分にとって大事な要素なんだなと改めて気づく。
それでいえば、このアルバムは全く真逆で、ただただかっこよくて、異質で、圧倒的な作品だった。自分に寄り添うというよりは、とんでもないものを披露されて放心するような。
特に音楽的な素養だったりヒップホップの文化や本作がリリースされるまでの道筋背景なども特に明るくないのだが、それ故にこのアルバムのかっこよさ、Tyler, The Creatorのかっこよさの正体を全く言語化できずにいる。
だからこそ、その真髄を掴むためにも、満を持して日本の音楽フェスでもヘッドライナーとして出演する姿を見たいと、願いは増すばかり。
see you, frail angel. sea adore you. / Homecomings
京都に住んでいた頃の自分にとって、Homecomingsは地域を通じて繋がれる稀有な存在だった。田舎町出身である私は自分の住む地域を活動拠点として日本全国で(あるいは時に海外でも)音楽活動をおこなうバンドという存在がそれまでなく、京都にあるキャンパスや歴史的な施設などでライブをしてくれるのも初めての体験だった。
そもそも住む前から思い入れのあった京都の街により愛着を深めていった日々だったが、そんな日常生活に最も寄り添ってくれたアルバムのひとつがHomecomingsの"WHALE LIVING"だった。
Homecomingsはその後活動拠点を東京に移し、一方で私自身も関東に移り住むこととなり、このあたりから新曲は変わらず聴いていたものの以前ほど足繫くライブに訪れることも無くなってしまった(好きじゃなくなったとかじゃなく、環境の変化だったり)。
今年1月に新代田FEVERであったライブに2,3年ぶりくらいに足を運んだ。そこには以前好きだったHomecomingsの、より魅力的でかっこいい演奏が、音楽があった。そうして長年ドラマーを務めていた石田成美さんがメンバーを卒業し、新体制となって初のアルバムである今作を聴いて、"WHALE LIVING"に感じていた感情が蘇った。と、同時に、東京に移ってからの数年でどのような歩みを進めてきたのか、うっすらと思い浮かんだ気がして、自分も東京に移り住んでこれまでいろいろあったな、Homecomingsもきっといろんな出来事を経てこのアルバムを届けてくれたのだなと、旧知の友人に久しぶりに再会したような気持になったのだ。"WHALE LIVING"と同じように、このアルバムもきっと永くいろんな場面でこれからも聴くんだろうな。
その他好きなアルバム
もっともっと素敵な作品を多く聞くことができた1年でした、一部ご紹介。
MADRA / NewDad
Underdressed at the Symphony/ Faye Webster
Your Favorite Things / 柴田聡子
Bleacher / Bleacher
Bright Future / Adrianne Lenker
I'M DOING IT AGAIN BABY! / girl in red
This Could Be Texas / English Teacher
Radical Optimism / Dua Lipa
HIT ME HARD AND SOFT / Billie Eilish
Midas / Wunderhorse
Flood / Hippo Campus
Songs About You Specifically / MICHELLE