略奪された美術品、カンボジアに戻る

ニューヨークタイムズに、「何年にも渡る捜索の末、カンボジア、神々の帰還をお祝い」というニュースが出ていました。詳細はこちら。

Cambodia Celebrates the Return of Its ‘Gods’ After Years of Searching - The New York Times (nytimes.com)

最近、カンボジア、ネパール、アフリカ諸国などは、自国から略奪された美術品を、徐々に取り戻しつつあります。

略奪された美術品は、アートディーラーなどを通じてコレクターや他国の美術館に売られたのですが、近年、「略奪された美術品は、元の国へ返還すべき」という気風が高まり、被害国の長年の努力もあって、美術品は徐々に元の国へ返されています。

記事によると、2012年以来、200点以上の美術品がカンボジアに返還されています。

カンボジアの場合、多くの美術品は1970年代、クメールルージュによる市民虐殺が行われた混乱期に略奪されています。略奪の首謀者だったのはアートディーラーのダグラス・ラッチフォード。彼は長年タイにおり、1990年にカンボジアのお寺の敷地に埋められていた10~11世紀の仏像を発見し、略奪。1992年にメトロポリタン美術館に売り、つい去年までこの仏像はメトロポリタン美術館に展示されていました。

今回、メトロポリタン美術館はこの仏像の他、13点の略奪品をカンボジアに返還したようです。また、アメリカの他の美術館も同様に、ダグラス・ラッチフォードが関与した略奪品をカンボジアに返しています。

しかし、メトロポリタン美術館はこれで全部の略奪品をカンボジアに返したわけではありません。もう、早く返してあげてよー…という気持ちになります。

すぐ返さないのは、その美術品が「目玉」となっておりお客さんを呼べるから=美術館が儲かるからですが、略奪品は即刻本国へ返すべきです。基本的にその国で作られたものは、その国が所有するべきである、と私は考えています。現代アートの場合、アーティスト本人が納得して他国へ売ったのならいいですが、それ以外のものは、自国が所有し、管理する必要があると思います。

カンボジアでは、仏像などは神やクメールの祖先の魂が宿る、と考えられているようです。返還された美術品は首相官邸で展示され、「お帰りセレモニー」の後、プノンペンのカンボジア国立博物館に展示されるようです。

美術品がトラックにのせられて首相官邸へ運ばれる様子の動画がありますが…なんと仏像むき出し!き、貴重なものなのに大丈夫か?!という気持ちに😅割れなかったかな、大丈夫かな…ここで損傷したら、もう泣くに泣けへんよねえ…

ともあれ、返還された美術品を運ぶスタッフも首相も嬉しそうで、あー、良かったな、と温かい気持ちになりました。

私は「略奪された美術品の返還」について、強い興味を持っています。そのきっかけは、大英博物館に行ったとき、一番見たかった古代ギリシャのパルテノン神殿の彫刻、「エルギン・マーブル」を見たときです。

その美しさに圧倒されて、「古代にこれほどの美術品を作れた国なら、今、国が破産しても、ヨーロッパで大きい顔できるよなあ」と謎の納得をしたんですが、「けど、なんでギリシャの貴重な彫刻がイギリスにあるんだろう」とふと思ったのです。

調べてみたら、このエルギン・マーブルはイギリスのエルギン伯爵が、彫刻を削り取って略奪したものだった、ということが分かりました。

そして、この略奪品を返還せよ、と最初に声をあげたのが、ギリシャ人女優のメリナ・メルクーリ。「日曜はダメよ」という映画で1960年にカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞し、その後政治家として活躍したという、李香蘭を彷彿とさせるキャリアの女性です。

彼女について興味を持ち、彼女の自伝、『ギリシャ、わが愛』を読みました。この本の感想はいつかまた書きたいです。とにかく激動の時代を生きた女性で、彼女の人生のスケール感に圧倒されます。ちなみに、李香蘭の『李香蘭 私の半生』という自伝も素晴らしいので、ご興味ある方はぜひ…

メリナ・メルクーリの必死の政治活動、そして現ギリシャ政府の必死の働きかけにも関わらず、エルギン・マーブルは今もギリシャに返還されていません。イギリスはのらりくらりと、返答をさけているようで…

美術品を略奪された国にとって、美術品の返還は、奪われたアイデンティティを取り戻すようなものではないか。今回のこのカンボジアの記事を読んで、その思いを強くしました。

各国、略奪した美術品は最後の一つまで元の国に返してほしい、と願わずにはいられません。





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