「破壊も再生も今となっちゃあ全てが愛おしい。」その5.〜宿る。
その5.〜宿る。〜
子どもは好きよ。
母性本能も随分と強めじゃないかしらね。
この歳になっても赤ちゃんなんて見ちゃったら
あたし母乳出そうになるくらいよ。
「赤ちゃんは難しいかも知れない。」
それをお医者から聞いたのは19の時だったわね。
卵巣が少しばかり悪くってね。
赤ちゃんは産めないのかも知れないって思ってたわ。
その頃は正直ピンとこなかった。
「そおなのねぇ・・」くらいで
重く受け止めちゃいなかったわ。
それが19歳ってもんなのかしらね。
「子を産みたい。」
旦さんと出会ってそう思ったとき、
初めて向き合ってしまったわ。
とても悲しかったのを覚えている。
旦さんは大して気にもせず
あたしを妻にしてくれて、
旦さんのご両親も
二人が幸せならええんじゃないかってね。
救われたわ、
ええ、
とても救われた。
対して避妊もしなかったわ、付き合っていた頃から。
結婚するしいいかなってね。
そんでもやっぱり出来やしなかったから、
あたし、すっかり諦めてしまってたのよ。
そして、晴れて夫婦(めおと)となって
その時は呆気なく訪れたわ。
「4週目くらい・・かなぁ?」
赤ちゃん出来てたの。
What‘s?
家族の誰もがそう思ったに違いないけど、
あたし、実は何となくわかってたのよ。
セックスをして丁度48時間くらい経った時、
あたし、突然の吐き気に襲われたの。
「赤ちゃん・・」すぐそう思ったわ。
母ちゃんの勘というやつは
とてつもなく凄いのだと思うわね。
そこから人知れず
お腹を大切にしていたの。
体調は見る見る変化してった。
具合が悪いにも程があるってくらいだったのよ。
今までに味わったことがないような怠さ。
夜中に息苦しさで目が覚めた時
旦さんに打ち明けたわ。
普通はもっと週が経ってから受診するもんだって産科の先生に言われた。
まだあんまりはっきりわからなかっったのよね、きっと。
結局、また来週もう一度って話になったのよ。
でも、あたしにはわかってたの、
〜赤ちゃんがいる。
それからしばらくは、とんでもなく悪阻も酷く
貧血とか何とかで
何度も倒れちまったわ。
喉が切れて血が混ざるくらい吐いた。
"トツキトオカ"の長い旅だった。
10ヶ月と10日、
違う命が下っ腹にずっと在るのよ?
自分とは違う心臓が自分の中で動いているの。
そして、あたしの身体の中で一丁前になって行くのよ。
女って凄いわよね、やっぱり。
産むときは皆んな命懸けで産むのよね。
母ちゃんは強いのよ。
娘は安産で生まれてきてくれた。
その頃から親孝行だったのね、彼女は。
可愛くて
可愛くて
可愛くて
どれだけ愛しても足りないくらいだわ。
彼女をこの世に生み出すために
あたしは生きてきたのかもって思うくらいよ。
そんな彼女も今では母ちゃんよ。
今でもあたしを幸せにしてくれるわ。
かけがえのない存在よ。
次回〜
その6.〜離婚はある日突然に。
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