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 歩道の上には布団の中身みたいなちいさな綿毛がいくつも風に転がって白い。あさ、ゴミステーションの脇でからすが何かつついていた。それは鳩だった。まだ生きていた。からすから逃げようとする脚は片方が折れているみたいだった。羽も不自然に曲がっているからきっと飛ぶこともできないんだろう。私はゴミステーションの隙間に重なるようにしてあった段ボールを抜き取って組み立てて鳩のそばに置いた。段ボールは四角い筒状だったから鳩はすぐ入った。段ボールの形状のおかげで、空を飛ぶからすにも見つからずに済みそうだった。からすはしばらく私のことを見ていたけどそのうちいなくなった。鳩はこめかみから血を出して震えていた。鳩を人目のつく安全そうなところに置いて私はそこから離れた。からすはもういないようだった。
 年末年始に傷病鳥獣救護は受け付けていない。携帯で、〈鳩 怪我〉と検索をかけて出てきたサイトには〈人が介入することは野生動物のためになりません。自然の営みに任せましょう〉と書かれている。他のサイトをあたろうとして検索候補をスクロールしたら〈怪我した鳩 スピリチュアル〉と浮き出た文字に意識に引っかかってそのままざらざらした跡がついた。
「中途半端なことするなよな」電話越しに友人はそう云った。彼の家はヤギ農家だったから、そういうことにも詳しいと思ったのだ。
「いやだって、仕方ないよあれは」と私は言った。
「仕方ないって、そういう中途半端が一番残酷なんだからな」
「ごめん」
「俺に謝んなよ」呆れともつかない声で彼は云った。
 半日経ち、やはり気になり、鳩を置いた場所にもう一度行ってみた。鳩はいなくなっていた。段ボールごとなくなっていた。
 鳩がどこに行ったのか、私はもうそれを知る円のなかにはいなかった。し、円のなかに入る隙はないように思えた。

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