ウィークエンド
仕事を終えて乗り込む電車の中の人はみんな生気のない表情をしていて、ああ私もこのなかの一人なのだと思うと悲しいような嬉しいような、なんともつかない気持ちになる。今日は同僚のワイシャツの袖に血がついていたことを見つけて、そのちっちゃなバイオレンスがなぜ同僚の身に起こったのか聞いて見たのだった。それが分かんないんだよね、コピー紙で切ったんだと思うんだけど。と同僚は指の腹に巻いた絆創膏を見せた。彼の色の黒い指は絆創膏をきつく巻いたせいで鬱血しそうに見えた。
景色をすごい速さで流していく車窓は暗くて、その奥でウキクラゲの群れが青い落ち着いた光で空に浮いているのが見えた。この街でウキクラゲの群れを見れる機会は滅多にないから、私はその綺麗をよく見ようとした。すると反射した自分の顔の目の下に隈があるのを見つけた。急に冷めた。私もいつの間にか歳をとった。今朝のうちに巻いた髪もすっかり元に戻りかけていているし、これからも続く生活の枠組みに私は大きくはみ出すこともなく年老いていくのだと思うと、うっかりみじめになりかけた。
老いていく、私も、彼氏も、絆創膏の同僚もみんな老いていくのだ。いつか頗る賢い人が不老不死の技術を完成させる未来が来るだろうとは思うけれど、その頃私たちはもうとっくに寿命で死んでるだろうと思う。だからせめて健康で死にたいし、いつかこんなばかみたいな日々の繰り返しが死ぬほど欲しくなっちゃう時が来るだろうけれど、その時はその時でどうにかなるだろうと思った。生きていたら割となんとでもなるのだ。明日の帰りはハーゲンダッツを買おうと思った。明日は金曜日だから。