テレビのつまらなさは、カット割りの多さ!③
すべては視聴率から
海外と比べてもカット数が多い日本のテレビドラマ。なぜこんなにカット数が増えてしまったのでしょう。
1977年頃からテレビ業界に視聴率が導入され、以後、視聴率争いが過熱していきます。
しかし、90年頃から段々と視聴率は下がっていきました。
業界はどうにか視聴者の気を引こうといろいろと工夫を凝らし、今ではおなじみのワイプやテロップ、CMまたぎの引き延ばしもだいたいこの頃から始まりました。
そして、起きてしまったのが「ポケモンショック」
テレビアニメ『ポケットモンスター』で強い光が点滅するという演出がされたところ、一部の視聴者が吐き気や失神などで病院に運ばれる事件が起こりました。
この事件は世界的に注目され、再発防止のガイドラインが作られました。
バラエティー番組への規制
同じ頃、バラエティー番組への規制も強まっていきます。
今はあまり見かけませんが、一時期、食べ物を使った罰ゲームなどに対して「あとでスタッフがおいしくいただきました」というテロップが出されるようになりました。
食べればいいってもんじゃありませんが、テレビ側としては苦肉の策かやけっぱちの対策だったと思います。
また、子供が真似をするとして体を使ったバラエティーが次々に姿を消していきました。
パソコンや携帯電話などの普及によっても、業界はさらに追いこまれていきます。そんな中で、バラエティーほど凝った演出ができないドラマ班がすがりついたものがカット割りだった、かどうか……。
当時の業界人たちが、もし監督や脚本家の育成、最新機材の導入へと目を向けていたら、今よりテレビはおもしろかったかもしれません。
けれど、今だって「テレビがおもしろい」と言う人はいます。テレビが最大の娯楽だった時と比べて、他の娯楽もずいぶんと増えました。
離れてしまった視聴者を取りもどすことは難しいですが、今いる視聴者をつなぎ止めることはどうにかできるかもしれません。
テレビドラマの復活はあるか
では、どうすれば日本のテレビドラマがおもしろくなるか。いくつか提案をしたいと思います。
提案①役者とカメラを動かそう
これは、最近のドラマがつまらなくなったと私が感じた原因の逆ですね。
カット割りは10分間に150カット前後にして、あとは役者とカメラを動かして見栄えのあるシーンを作るのがいいでしょう。
提案②エキストラ、効果音を有効に使おう
以前、演出とカメラワークのおもしろい例として『ショムニ』と『TRICK』をあげました。
この2つのドラマには、効果音をうまく使っているという共通点もあります。
例えば、『ショムニ』では何か事件が起きた時に流れるお決まりの短いBGMがあります。そのあとに誰かが見当違いなことを言うと、そのBGMが逆再生で流れます。
まるで今の発言を聞かなかったことにしたいというキャラたちの心情を表しているようです。
『TRICK』では、主人公などがボケたことを言うと、「ちりん」と鈴の音が鳴り、ツッコミやすべった雰囲気を意味する「しーん」の役割をはたしています。
提案③人間を知ろう
役者が動かなくなると、どうしてもキャラクターの心情は態度ではなく言葉で表現されます。
よく独り言の体で自分の悩みや葛藤を独白する場面が出てきますよね。キャラクターの心情がよくわかりますが、正直、退屈です。
どうして、こんなに言葉を多用するようになったのか。
原因の1つに、制作側の人たちが人間を見なくなったのではないかと思いました。
人はどういう時にどんな動きをするのか。きっと想像よりも思いがけない行動を取るはずです。そして、その態度が100の言葉よりも饒舌にその人の心を語ることがあります。
やればできる!
以上、提案させてもらいましたが、そうは言ってもカット割りが多いのに見慣れた視聴者にとって、少ないカットのドラマは退屈に見えるんじゃ……という不安もあります。
2020年に放送されたドラマ『トップナイフ』は10分間に91カットと、極端にカット割りが抑えられていました。でも、特に古くさいとか退屈だとかいった批判も受けていなかったと思います。
やればできるんです!
カット割りを抑えたからって、すべてのドラマがおもしろくなるわけではありませんが、カットは多い方がいいという業界側の凝り固まった頭を解すところから始めてみてはどうでしょうか。
おまけ
カット割りの他にも最近のテレビドラマの変化に気づきました。
それは、ドラマ冒頭です。
最近は、ナレーション、イメージ映像、フラッシュバック、人物紹介のシーンで始まるドラマが多く見られます。これらは単独ではなく、2つを組わせて使用されます。
例えば、医療ものだと冒頭にエキストラ患者の顔が次々と映し出され、「人が生まれ、死んでいく。その全てに関わるのが病院だ」などのナレーションが入るというような感じです。
監督は走るのがお好き?
2022年夏クールドラマの冒頭を調べてみると、おもしろいことがわかりました。
『競争の番人』 犯人を追いかけて主人公が走る
『純愛ディソナンス』 学校に忍びこんだヒロインが走る
『ユニコーンに乗って』 大学講義に忍びこんだ主人公が走る
走ってますね~。
他にも『六本木クラス』はナレーションと字幕、『新・信長公記』はナレーションで始まります。
落ちないジェットコースター
新ドラマの1話冒頭は、ジェットコースターでいう最初の頂上に当たります。1番盛り上がるところです。
そんなところで、役者がひたすら走るシーンを見せられたら、視聴者はどう思うでしょう。
頂上で落ちると思ったら、その先は平らでしたって感じですよね。この肩透かしを食らった視聴者の心を、その後の展開でひきつけることは容易ではありません。
それなのに、なぜイメージ映像やナレーション始まりが多くなってきたのか。
おそらく「雰囲気」が重視されてきたからでしょう。SNSに投稿されるおしゃれな写真は、中身よりも雰囲気が大事です。
さらに、原作にもなる漫画や小説は近年「キャラで読む」傾向にあります。中身よりもいかに「キャラ立ち」しているかに重きが置かれる。それを元に作ったドラマも当然、中身より雰囲気が強くなる。
でも、雰囲気でドラマはおもしろくなりません。「なんかいいなあ」とは思っても、それは一瞬のこと。雰囲気で30分も1時間も持たせることはできません。
もっと飢餓感を
何なら視聴者はついてきてくれるのか。
それは「飢餓感」です。今、何が起きているのか。このキャラはなぜこんなことをやるのか。
視聴者はその世界に途中参加した観察者です。それゆえに圧倒的な「飢餓感」によって、その後も見たいと思う。
最近は何でもかんでも説明してくれるので、この「飢餓感」が不足しています。作り手側はもう少しだけ視聴者を信用してみてはいかがでしょうか。
ありがとうございました。
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