王様はいじめられっこ その2

「私には善も悪も理解は出来ぬ。善し悪しとは、個人の好きか嫌いで異なるのだから。皆が皆、善と悪が違うのならば法律は単に多数決でしかない。少数派はいつしか多数派によって悪と呼ばれるようになった。こうして、世界に法律が生まれただけである。だから私には善も悪も全くもって理解が出来んのである。
悪をなくするために世界の法律が作られたと言うが、私はそうとは思わぬ。むしろ悪人のおかげで世界の法律が作られたと解釈する。言うなれば悪人がいないと世界は変わろうとしないということだ。悪人がきっかけを作り、初めて人々が動き出し、初めて人々に平和が訪れる。その繰り返しが現在なのだ。悪人がいないと世界に変化は起きない。過ちを犯し正解を見いだすように。反省して経験を積むように。悪があって善があるように。この世界には悪が必要なのだ。
この国にも悪人がおろう。今悪人が皆の前に立って演説をしておる。私の政治が善と出るか悪と出るか、今の国民に理解してもらうつもりはない。数年先の未来に生きる、国民に判断してほしいのだ。よって私は今の国民の声を本気で受け止めるべきではないのだ。善し悪しとは、好きか嫌いかで異なるもの。皆の声に耳を傾けてしまっては迷いが起きる。だから私は信念を貫くのみ、決して迷ってはいけない。
私が1日100円、国民から幸せ募金をしてもらう理由だってそう。国民からは悪だ悪だと罵られるが、私も1人の人間、私にとっての善なのだ。国民よ。これまで生きてきた中で、募金箱にお金を入れたことはあるのか?食べ物でもほしいものでもなんでも良い。一度でも我慢してお金を入れたことがあるのか?一握りの者しかいないはずだ。世界には一欠片のパンさえ食べられない人間もいることを知っておるか?それを見て見ぬふりなのか知らないふりなのか、遠い国で起きてることだから自分には関係ないのか。はたまた自分が普通に生きられればそれでいいのか。私からすれば、あなたたちが悪にしか思えんのよ。あなたたちが自らお金を寄付するのならば、私は国民に幸せ貯金させる必要など全くないのだ。この世界は5分に1人が死んでおる。1時間で12人、1日288人もだ!それを救えるのに救おうとしないあなたたちが、本当の悪ではないのか?今一度考えておくれ。
1日100円、月にして3000円、年間36000円、掛ける今を働く者の数。国民よ。これで良いのだ。これでまた、世界の恵まれない者たちを救うことができるのだから。食べ物、毛布、薬、教育の場、子どもだって産める。そんな環境を作った私達を、世界のどこかで救世主と呼ぶ国もある。これまで何千人の命を救ってくれたあなた方に心から感謝を申す人間がたくさんおる。そんな恵まれない者たちを、これからもどうか救ってくれ。私を悪と呼ぶのは構わない。いっそ殺してくれたって構わない。でも、私がいなくなっても幸せ貯金は続けてほしい。よろしく頼む」
 演説を終えると無数の小石が投げつけられた。
「俺等だって必死に生きてるんだ!」
「世界のどこかじゃなくこの国を救え!」
「国民を救えないやつが、ほかの国に手を出すな!」
 いつも通り、王様の気持ちは国民に届かなかった。
「ワカンナイ、ワカンナイ」
 ぴーちゃんはいつもより弱々しい声で王様に訴えた。
「あーそうだ。人と人もまたわかりあえないものよ。人間はな、自分の幸せすらわからない欲深きものである」
「オーサマ、カナシーカオ、シナイデシナイデ」
 王様は力なく微笑んだ。
「人はな、人を救うことを忘れてしまった。思い出すには悪人が必要だ。世界を救うにはどうしても悪人が必要なのだ」



善と悪とは、1人1人で異なります。世界のどこかでは王様を善と呼び、この国では悪となるから。とっても皮肉な物語。
でも、人は人を救うことを思い出す、良いきっかけになったらいいね。おしまい。

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