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私の感覚を理解するのは私だけ #18
太宰治『走れメロス』についてだけ #13
『走れメロス』は主人公メロスと王ディオニスだけでも個性が爆発しているのに、ヌメッと登場する竹馬の友セリヌンティウスもまた、刺激的だ。
セリヌンティウスについて早く話したいところだが、ここでも見逃せない『走れメロス』もしも劇場を開催したい。
もしも劇場、王の北叟笑み編。
それを聞いて王は、残虐な気持で、そっと北叟笑《ほくそえ》んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。(中略)…人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男を磔刑に処してやるのだ。
王が頭の中で、三日後の磔刑当日の自分の振る舞いを想像している。
わしはまた騙された…
かわいそうなわし、王ディオニス…
本当はこんなことしたくないのだが、奴が嘘をついたのだから仕方ないのじゃ…
信じたばっかりにわしは騙され、身代りは処されるのじゃ…
見よ、聞け、シラクスの民たちよ。
王はこんな風に、ああきたら、こう来る、こうきたら、ああする。
と色々思案しているのだろう。
ほんの数秒の想像だろうが、王はどんな表情をしているのだろうか。
もし、映画ならどんな角度から王を映すのが効果的だろう。
心の声はどうやって流そう
一瞬を伸ばして心を映すのはどうやってやろう。
これが舞台だったら王だけ動き、光を当て、周りの人々は固まらせよう。
この演出は私でも見てみたことがある。
いけるきがする。
『走れメロス』は文章を読みながら場面をはっきり、くっきり想像ができる。
メロスが激怒しているのも、文から鮮やかに想像できるし、王との場面、妹の結婚式、走るメロスも全てきれいに頭の中で躍動する。
だからこそ、読み手がそこに彩りをさらに加えて、一層の楽しみの時間を何度でも、いくつでも作ることができる。
太宰治の作品をたくさん読んでいないので、さすが太宰治、とは言えないが、さすが『走れメロス』だ。