つぶやき物語【淡想1~淡想45】のまとめ(冒頭に中書き⑧追記)

【淡想46】~は、1/20(月)スタート(o^-^)b ※物語の最初からお読みの方は【中書き⑧】を、初めてお読みの方は【前書き】から、ご一読頂けると大変嬉しいです。

【中書き⑧】
 衝動的に初告白をしたものの、そのお陰で悶々とする週末を迎え、5日間だけ喋ったに過ぎないくせに行動してしまった、自分の浅はかさに後悔の念が湧き上がる。
 そして殆ど眠れず目覚めた月曜の朝、学校では上の空で過ごすが、放課後の塾ではいつもと変わらぬ風を装うと、運命の瞬間を告げる合図の如く、鳴り響く終業のベル。
 逸る気持ちを抑え、先に退出する彼女から少し時間を空け、焦りながら例の交差点へ駆け付けると、誰も居らずで呆然としたが次の瞬間、酷い勘違いに気付く。
 そこで慌てて、少し先に有る信号の所まで辿り付くと、自転車に跨った彼女が呆れた醸で、軽く文句を言ったが暫し見詰め合うと、我慢出来ずに噴き出した。
【淡想46】へ続く。
~・~・~
【前書き】
 将棋のプロ棋士になる夢を諦めるも、悔いが残る中で作った将棋部だった筈。
 それなのに何故か、音楽に惹かれて行ったのは、TVの音楽番組が全盛だった時代背景のお陰だったのか、若さがなせる業だったのか……。
 それまでは余り話す機会が無かった級友と急接近する事で、将棋一色の青春が違った色合いを帯びて来る。
 そしてこれがキッカケで、男子校で灰色気味の風景に、華やかな光が差し込む未来の訪れを、この時の私はまだ知らずにいました。

淡想1【旋律の訪れは突然に】
毎週火・木曜は、私が創設を熱望した将棋部の活動が有り、食堂2階の一室へ集まる。
昨年出来たばかりでも新入生が仲間入りし、鼻高々の私は当時アマ三段。
その日もすぐに対局を開始すると、駒音を掻き消す様に突然、荒々しい響きの激流が壁の向こうから押し寄せた。

淡想2【本物が有する魔力】
対局を中断して部屋を飛び出すと、騒がしく鳴る場所へ到着。
壁際の黒い箱と戯れる男子が居て、軽音楽同好会の一員だった筈と気付き、ここで弾く理由を尋ねる。
「古くてもグランドピアノは音が違うからね」と、恋人とのお惚気を語るかの様に彼は呟き、静かに微笑んだ。

淡想3【音楽の吸引力】
学校が片隅に追いやった古いピアノを彼が見付け、使用許可を取ったらしい。
先程の曲について尋ねると、「ビリー・ジョエルのマイ・ライフ」と答えた後、再び鍵盤を叩き始めた。
弾む様に指が躍る印象的なイントロの旋律が、いつしか私の心を鷲掴みにして離してはくれない。

淡想4【若さ故の過ち】
部活の日は隣の方へ入り浸る様になった私は、仲間たちから酷く罵られる。
しかしグランドピアノから溢れ出るポップな曲の響きは、新鮮な驚きを与え続け、その世界へ引き摺り込んだ。
アリスの『遠くで汽笛を聞きながら』等の流行曲も披露してくれて、次第に彼とピアノの虜。

淡想5【媚薬の果てに】
「弾いてみる?」と声を掛けた彼は、簡単な和音進行から丁寧に教えてくれた。
部活の時間はまるで煙の如く消えて無くなり、気付けば我々とピピアノだけがいつも置き去り状態にされている。
この頃の私は遂に仲間から見放され、長に有らずの大きな烙印を背中に押されていた。

淡想6【掃き溜めに鶴】
私の親は単車屋を営んでいたが、父は出掛けると鉄砲玉で、仕方無く母は朝から晩まで店番の日々。
男ばかり3人の子供たちは、整理や片付けが好きな筈も無く、家の中はいつも散らかり放題だった。
だがそんな惨状でも、燦然と輝く漆黒の箱入り娘が、何故か鎮座ましましする。

淡想7【淑女の来歴】
口八丁で目立ちたがり屋の父は、何の車種でも大量発注する手法で、地元の営業所で有名人。
在庫は山積みで借金塗れなのに、表彰式に出たいが故の所業で、その場限りの背広を新調三昧。
そこで贔屓にしていたメーカー系列の楽器会社の製品が、副賞として我が家へお嫁入りした。

淡想8【裕福な家庭の象徴】
母が教室に通い始め、ピアノを弾こうとしたが、店番で時間が取れなくなり断念したらしく、蓋は閉じられたまま。
私が使いたいと言い出したので、母は調律を依頼したが、その費用は私の小遣い2ヶ月分。
「今回限り」と言われ、結局は『ご令嬢の嗜み』なんだと思い知る。

淡想9【稀代の虚け者】
家でも触れる様になると、凝り性の私は毎日3時間以上、ピアノと戯れ続けた。
初心者用に編曲された流行歌の楽譜集を古本屋で集め、熱心に眺めていると上手く弾けるつもりになる。
学校でも机に鉛筆で書いた鍵盤に指を這わせ、音楽の甘美な世界に、思う存分呆け捲っていた。

淡想10【遂に大山鳴動】
友人に教わる事が週2回、熱心に練習したところで、所詮はお飯事に過ぎない。
だから低音量であっても、毎日聞かされる家族にとっては騒音公害だったのは間違いない。
そこで母に頼まれたのか、普段は顔を合わさない父から「話が有る」と、呼び出しを喰らう窮地に陥った。

【中書き①】
 凝り性の私は、将棋の修行に打ち込んだ時と同様に、勉強もそっちのけで、ピアノの練習に明け暮れる日々。
 もちろん家に存在していた事は知っていて、何度か触れた事も有りましたが、すぐに飽きていた様でした。
 たぶん『マイ・ライフ』との出会いが鮮烈だったからだと思いますが、結局はこのt時まで弾こうとしなかったのですから、不思議なものですね。
 そしてついに、幼少の頃から私を嫌っていた父から呼び出される事態になり、雷を落とされる覚悟で父の元へ向かうのでした。

淡想11【渡りに舟】
「ピアノを習いたいか?」、父が放つ言葉に我が耳を疑い、恐々と聞き直してしまう。
実は何軒か有る支店の一つ、大家さんのご令嬢が自宅で教室を開いているそうで、それが事の発端。
その噂を掴んだ彼が、いい格好しいの性格を発揮させたお陰か、私に白羽の矢を立ててくれた。

淡想12【予期せぬ物言い】
原付を走らせ、支店の裏側に併設された煙草屋を訪ねると、人の良さ気なご婦人が迎えてくれた。
2階の部屋に通されると、学校の片隅の物とは見紛う程に、輝きを放つピアノが佇む。
すると扉が開き、「本当に来たのね」と、想像より遥かに若い女性が微笑みながら現れた。

淡想13【免疫無き若輩者】
「だって、父親に命令されただけで、断ると思ってたのよ」と、第一声の理由を明かす。
通っている最年長は中学生だが女性、男子は小3で、私の扱いに困っている様子。
先生が22歳と知れば、戸惑いも当然だとは判るけれど、それ以上に思春期の心臓は破裂寸前なんだよ。

淡想14【誘惑の甘い罠】
「真面目に通う気は有るの?」と訊かれ、最近の稽古に明け暮れている状況を訴える。
そこで提示されたのが、まずはバイエルから始めて、毎回5曲を練習して出来栄えを審査する案。
「完璧に弾けたら、君の希望を叶えてあげる」と、悪戯っぽい笑みに意味深な台詞を重ねた。

淡想15【頂戴し御褒美】
それから毎日、課題の練習に大半の時間を割き、気分転換に流行の曲。
1週間後に満を持して先生の元へ赴き、特訓の成果を披露するも緊張で普段の様に弾けず。
「懸命に努力した事は伝わったわよ」と、下駄を履かせた採点ながらも合格し、目の前での生演奏をお強請りした。

【中書き②】

 怯えながら父の呼び出しに応えると、言い渡されたのは『親が月謝負担のピアノレッスン』の紹介で、私はすぐに飛び付く。
 気が変わらない内にと、支店裏に有る煙草屋へ向かうと、姿を現したのは長い黒髪のご令嬢。 
 しかし彼女が口にした言葉に一瞬耳を疑ったが、自分と5歳しか離れていない男子高校生の扱いに戸惑っていたらしい。
 そして私の本気度を試す為に与えた課題に、大甘ではあるが合格して、レッスンが始まるが破天荒な展開へと続くのでした。

淡想16【怪しき熱視線】
「高校生だから夜でもいい?」と訊かれ、承諾すると開始は平日午後8時と決まる。
通常は30分で終わる筈が、毎回その4倍にも及んだのは、共学経験の無い同士が故に弾むお喋りが原因。
或る稽古日、扉を薄く開けて覗き込む瞳が、背を向けて座る私へ照準を合わせていた。

淡想17【疑心も止む無し】
「何してんのよ」と先生は椅子から立ち上がり、扉の方へ走る。
犯人は3階へ逃げた模様で、彼女は追いかけて行き、暫くして「信じられないわ」と戻って来た。
だが防音完備の部屋に、男子高校生と二人切りで長時間は、一人娘の父親として不安になるのは想像に難くない。

淡想18【何方もどっち】
或る稽古の日、ピアノの部屋で待っていると、「お好み焼き食べない?」と先生が顔を覗かせ尋ねた。
同意すると、「夕食まだなのよ」とホットプレ-ト持参で降りて来たので、まずは二人でご会食。
「実は僕も」とドーナツを差し出したものだから、この夜も長居してしまう。

淡想19【若き姫ご乱心】
数ヶ月経過し、夏休みだからと午前中にピアノの部屋へ入ると、先生はまだ居なかった。
すると「おはよう」と現れた彼女に一瞬、私の目は釘付けとなるが、我に返ると視線を逸らす。
その出で立ちは、タンクトップにホットパンツ姿で、スラリとした生足が露わになっていた。

淡想20【翻弄されし純情】
何事も無く私の横に座った先生が、「さあバイエルから始めるわよ」と促した。
だが腰掛けると余計に強調される太腿が眩しくて、普段の様に弾けない。
更に「こうでしょ」と彼女が指を重ねて来るもんだから、「今日はどうしたの?」って言われても、こっちが訊きたいよ。

【中書き③】
 先生との鮮烈な出会いから始まったレッスンは高校生だからと夜になったが、異例だったのはその時間の長さ。
 いつも終わりは夜の10時頃で、今改めて思い返すと、先生のご両親、特にお父さんからすれば迷惑だったに違いないと感じます。
 あの当時、先生にとって私はどういう存在だったのか、今となっては判りませんが、先生自身は少し天然気味の箱入り娘だったんでしょうね。
 その証拠に、あんな薄着の格好で、男子高校生の横でレッスンをすれば、どんな状況になるのか、少し考えれば、簡単に気付いたと思うからです。

淡想21【音を立てて崩れてく】
実は私がレッスンに通いたいと熱望したのには、別の動機も存在。
心惹かれる女性が居て、幼少の頃からピアノを習っていると噂を聞き付け、話の切っ掛けにしようと目論んだ。
だが経験の差が歴然で、所詮バイエル如きでは太刀打ち出来ないと、厳しい現実を思い知る。

淡想22【望外なる囁き】
この頃、巷ではイージーリスニングが流行っていて、至る媒体で多様な曲が流れていた。
ピアノ界では貴公子と呼ばれる男性が凄い人気で、甘い風貌が金髪に映えて、私でさえも憧れる様な状況。
すると先生から、「チケット貰ったけど、一緒に行く?」とのお誘いが舞い込む。

淡想23【垣間見えし光景】
アイドルのコンサートしか行った事が無い私は、精一杯の大人っぽい服装を心掛けた。
先生は渋い色合いのワンピースを身に纏い、以前の薄着とは別人のお嬢様振り。
更に演奏前の静寂に終了後の拍手が繰り返される様は、男子校生活とは縁遠い煌びやかな世界を展開させる。

淡想24【お供のお披露目】
この時代は秋に向け、情報雑誌で組まれる恒例の特集が人気だった。
「卒業した音大の学園祭に行くけど、一緒にどう?」と、誘う先生は何か企んでいる様子。
当日は彼女の同窓生たちが集まっていて、『変わり者の生徒』として紹介する彼女は、終始ご満悦の上機嫌である。

淡想25【謳歌し青二才】
先日お出掛けしたお祭りで、大学生活の華やかな一面に触れ、自分は高2だったと思い出す。
だが付属校の為、内部入試の安全な道筋が敷かれていた私は、まあ呑気と来たもんだ。
だから春が来るまでの間、5歳年上のお姉様との奇妙で心ときめくお稽古は、変わらずに続いた。

中書き④】
 この物語を書き始めて、高校時代に憧れの女性が居て、話すキッカケを求めて、悪足掻きをしていた事を思い出しました。
 ところで当時、ピアノ界ではリチャード・クレーダーマンが流行っていて、先生に誘われてコンサートへ行くと、魅了されたのは初めて聴くプロの奏でる旋律。
 そして秋になると学園祭のシーズンとなり、先生の母校に連れて行ってもらうが、まるで変わったペットでも紹介する様に、彼女が終始ご機嫌だったのが懐かしい。
 しかしながら40年以上前の学生時代を振り返ると、5歳しか離れていない御姉様と戯れる毎週2時間のお稽古は、男子高校の生活に華やかな色合いを与えてくれて、本当に楽しかった。

淡想26【覚醒せよ我が大志】
高3になり、中1からの旧友2人が国公立大を目指していると知り、降って湧いた様に火が付く私のお尻。
それは数学が好きなので理系を選んだが、具体的な将来像は考えていないと不安に陥ったから。
そこでピアノにばかり呆けている場合じゃないと、己を叱咤し鼓舞し始めた。

淡想27【暗闇に差し込む光】
理系志望なのに高1の三角関数で躓き、得意分野を一転して苦手にしてしまう。
だが翌年の選択科目でやり直そうとして、出会った先生の授業が明快で、習熟度は一気に躍進。
この経験と、遠くは無い所に国立の教育大が有った事も影響し、教師になる夢が少しずつ膨らみ始めた。

淡想28【動機不純も極まれり】
受験となれば塾へ通う必要が有るが、見つからずに困っていると声が掛かる。
「俺の行ってる所は少人数だから、お前も来いよ」と、誘ってくれたのは入学当初からの悪友。
「女子もたくさん居て、楽しいぞ」との言葉が決定打となり、一も二も無く彼の術中に填まるのだった。

淡想29【期待を凌駕せし楽園】
申し込み手続きをする為に塾へ赴くと、出迎えてくれたのがここの経営者だが、怪しげな風貌でいかにも胡散臭い。
授業へ参加すると、男は私と友人に有名進学校へ通う秀才のみ。
その他は公立高の女子ばかりで、まるで共学の様相を呈していて、夢見心地の世界が展開された。

淡想30【安易な二足の草鞋】
塾へ通い始めたけれど、ピアノは変わらずに続けたいと、私の願いを訴え出る。
少し考えた後に先生は、「ハイエルは免除にして、好きな曲だけの練習でいいわよ」との優しい提案。
こうして素敵なお姉様と戯れ、同い年の女子達に囲まれる、両天秤を掛けた生活に溺れて行った。

【中書き⑤】
 有名私大への内部進学の道が有り、それで良いかとぼんやり過ごしていたら、国公立を目指す友人が数人現れて、呑気な私も焦り出す。
 では何になりたいかと考えた時、
数学が好きだから理系を選んでいたし、高2で尊敬出来る先生に出会った経験から、目指す国立の教育大。
 そこで塾探しをしていると近付いて来たのが中学からの悪友で、「女子か多くて楽しいぞ」との甘い誘惑に、簡単に転んでしまう。
 塾へ行くと、胡散臭い風貌の塾長に、エリート然とした優等生も居たが、確かに複数の女子高生が存在し、楽しい疑似的共学生活の扉が開いたのでした。

淡想31【何をしに通いし塾】

友人はお目当ての女の子を見付けた様で、学校でその思いを熱く語り掛けて来る。
「邪魔するなよ」と私に釘を刺すが、ジャガイモみたいなニキビだらけの丸顔で、ピクリとも動かぬ我が触手。
呑気な口調で、お前はどの娘が好きなんだよ」と彼に訊かれたが、流石に呆れ果てた。

淡想32【意識し始めし存在】
塾では友人と横並びで座り、彼の前にはお目当ての女子が居て、休み時間にちょっかいを出す。
最初は「止めてよ」と言っていたのに、諦める事無く繰り出すパンチが遂にクリーンヒット。
学園ドラマの1シーンみたいな光景を側で見ながら、私は左前方へ熱い視線を送っていた。

淡想33【意表突きし贈り物】
体調を崩して休んだ為、その日は久し振りの塾だが、着くと1人の女子が私の元へ駆け寄る。
「先週の授業で大事な所だから」と、恥ずかしそうに渡されたノートのコピー。
「ありがとう」と受け取るとすぐ、複数の生徒が入室したので、急いで左前方の指定席へと戻って行った。

淡想34【風の様に消え行く】
塾終わりにお礼を言おうとしたが友人に捕まり、気付くとあの子の姿が見当たらない。
慌てて教室を出て、原付に跨り辺りを探すと、自転車に乗り信号待ちをする彼女を発見。
近付き「今日はありがとう」と伝えると、「気にしないで、じゃあ」と答えると、爽やかに走り去った。

淡想35【言葉交わし束の間】
翌日も塾終わりに彼女の姿を求め、交差点でやっと追い付くと、「ちょっと待って」と呼び止めた。
「これ、ノートのお礼」と言いながらし出すと、遠慮がちに受け取るお菓子の包み。
「少し歩きながら話さない?」と誘うと、「次の信号までなら」の返答、何かが動き始めた。

【中書き⑥】
 悪友の誘いで通い始めた塾では、彼がある女子に夢中となり、諦めないちょっかいが遂に実を結ぶ一方、私にも気になる人が現れる。
 それは体調を崩して休んだ翌週に、ノートのコピーを渡してくれた女子で、彼女は見るからに大人しそうなタイプなので意外だった。
 それまで気にする存在では無かったのに、その振る舞い以降は彼女が座る左前方の指定席を意識し始め、心は上の空。
 そして翌日の塾終わりに、足早に教室を出た彼女に追い付くと、お礼のお菓子を渡した勢いで、束の間ではあるが2人きりの逢瀬を初めて経験した。

淡想36【気脈通じし予感】
翌週の月曜、塾の授業が終わると少しだけ時間を置いて、お礼の品を渡した交差点へ急いで向かう。
すると先に着いていた彼女は自転車に跨ったままで、「待ってた訳じゃ無いよ」との思いを演じる佇まい。
私も偶然を装った風な芝居を打ちながら近寄り、原付のエンジンを切った。

淡想37【色染まりし風景】
私は原付を、彼女は自転車を押しながらの為、2人の距離は全く縮まらないまま並んで進む。
次の信号まではどんなにゆっくり歩いても僅か数分、そこで交わされる他愛の無い世間話。
それでも華やかなさとは縁遠い、男子高校に通う我が身にすれば、夢の様な時間を味わっていた。

淡想38【壊れ易き宝物】
告白に成功して有頂天の悪友は学校で、その武勇伝を自慢気に披露してご満悦。
しかし私は塾帰りに交わされる睦言を、子供じみた飯事かもしれないが、とても大切に捉えていた。
だから授業終わりには少し時間をずらし、彼女が周りから囃し立てられない様にと、細心の注意を払う。

淡想39【昂りし鼓動】
塾終わりに行われる密やかな逢瀬は、互いにとって交わす事も無いままの約束となっていた。
それから数日が過ぎて迎えた週末、このまま休みに入れば束の間会えないと、改めて気付く辛い現実。
そして別れの目印となる信号まで辿り着いた時、「おやすみ」の言葉を飲み込んでしまう。

淡想40【投げられし賽】
「僕達は受験生だけど……」、勇気を振り絞った声は上ずって震えていたと思う。
「付き合ってもらえませんか?」と、つい改まった表現になり、暫し沈黙の後、「もしOKなら次の月曜、ここに来て欲しい」とお願い。
コクリと頷いた彼女は、自転車に跨って闇の中に消えて行った。

【中書き⑦】
 お菓子を渡した翌週の月曜、塾終わりにその交差点へ向かうと、先に着いて待っていた彼女と合流し、次の交差点まで2人並んで歩く。
 この睦事を大切に捉えていた私は、お調子者の悪友には内緒にし、彼女が居辛くならない為に塾内でも悟られない様、心掛ける細心の注意。
 そしてこの密やかな逢瀬を週末まで毎夜重ねると、改めて土日は会えない辛い現実に気付き、その淋しさに耐えかねた私は思い切った行動に出る。
 初めての告白は声が震え、続く言葉は変に改まった表現になり、遂に核心の思いを伝えると、コクリと頷いた彼女は無言で去って行った。
淡想41【砂上に建ちし楼閣】
逢えなくて寂しいからと行動に及んだが、逆にその結果の行方に惑わされ、悶々と悩む土日を迎える。
恋愛に免疫が皆無の男子高校生は狼狽えるばかりで、早まった事をしたと湧き上がる後悔の念。
ほんの1週間で築いただけの積み木のお城は、耐久性の低い代物に過ぎなかった。

淡想42【高鳴りし鼓動】
眠れないまま目覚めた月曜日、学校での時間を何とかやり過ごし放課後を迎える。
塾ではいつもと変わらぬ平静を装うが、頭の中を巡る初告白の返答は、糾える縄の如く点滅する禍福。
そして授業の終わりを伝える先生の声さえ、聞き落としそうになる程、緊張感は極地に達していた。

淡想43【脆くも崩れし希望】
授業終わりはいつも通り、彼女は先に部屋を出て行き、じゃれ合う悪友カップルを尻目に、私は少し間を置いて後を追う。
原付に跨り、焦りながら発進させると、遅ればせながら辿り着く例の交差点。
だがそこに人影はおろか猫1匹さえも居らず、ただ信号機が静かに佇んていた。

淡想44【甚だしき錯覚】

自信が有った訳では無いが、駄目であっても取り敢えず、来てはくれると期待していた。
原付のエンジンを切り呆然としていると、「やっぱり焦り過ぎだよな」と、漏れ出す後悔の溜め息。
だが改めて先週の告白場面を思い返した瞬間、酷い勘違いをしでかしていた事にやっと気付く。

淡想45【悲哀転じし破顔】

「OKならここに来て欲しい」と伝えたが、この交差点では無い。
慌てて先に有る信号の所まで辿り付くと、自転車に跨ったままの彼女が、呆れた雰囲気を醸しながら悪戯っぽい視線。
「おっちょこちょい」と軽く罵られるが、お互い真剣に見詰め合うと、我慢出来ずに噴き出した。

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