つぶやき物語【相続1~相続60】のまとめ(冒頭に中書き⑨追記)
【相続61】~は、11/11(月)スタート(o^-^)b ※物語の最初からお読みの方は【中書き⑨】を、初めてお読みの方は【前書き】から、ご一読頂けると大変嬉しいです。
【中書き⑨】
従兄弟が高額の保険金を受け取ると知った時から抱いていた不安が、不動産管理をしたくないとの意思表示で露わになる。
代わりを探す為に私は憤りの感情を抑えつつ、存命の伯母に無心をする程、お金に困っているとの噂を聞き、叔父への白羽の矢を立てた。
意を決して彼の家へ電話でお願いすると、上乗せ金額追加の要求もされず、「お前らに任せる」と快諾してくれたお陰で、固まった分割協議の骨子。
そしてそこへ税理士から届いた農地関係の算定額は固定資産税の評価を大きく上回り、納付無しとの思惑は水泡に帰す結果となった。
【相続61】へ続く。
~・~・~
【前書き】
私の母には、夫に先立たれた上に子供の居ない姉が2人、居る事は以前から知っていました。
母は生前、「私が姉たちより先に亡くなったら、迷惑を掛けると思う」と言っていましたが、それか現実となったのです。
その結果、この相続問題と長期に渡り携わる事になったので、その経緯を纏めたいと考えました。
そこで、『note』への投稿を始めた事が契機となり、『つぶやき物語』として連載する事を思い付いたのです。
相続1【降って湧いた相続案件】
「相続なんて私には」と思う方も少なくないと思うが、結婚はしていなくても親が居る筈だから、必ず関わりを持つ。
私は父と母、2回に渡り相続を経験したので、当分は無いだろうと考えていたら、従兄弟からの電話で私が相続人とする案件が突然、目の前に現れたのだ。
相続2【従兄弟からのSOS】
亡母に子供の無い姉が居て、彼女が施設に入ったと従兄弟から電話が鳴った。
同じ県内に住む彼は、以前から伯母の世話をしている。
彼女には弟が居るが、高齢で遠くに住んでいて当てにならず、私へ助けを求めたのだが、「結構、貯金が有る」と、私の気を引こうとした。
相続3【相続人を特定したら9人】
伯母が施設に入ると、近い将来に発生が予想されるのが相続で、私はまず相続人を特定。夫は亡くなり子供の居ない彼女の相続権は、親が亡くなっている為、5人の兄弟姉妹へと移る。その内3人は亡くなっていたので、その分は子供へ代襲され、結果的に9人と判明。
相続4【不動産は負の動産】
伯母は専業主婦て、数十年に渡り独りで暮らし、自宅は夫の父名義の土地に夫が建てたが未登記。
更に夫は田舎で生まれ育った関係で、夫名義の田畑が有り、固定資産税は叔母が払っているが、相続登記は放置状態。
従兄弟から聞いた情報で、とても嫌な予感が脳裏を過った。
相続5【ここで私の経歴を少し】
かつて法律事務所で10年、順に土地家屋調査士、司法書士、社労士、行政書士の補助者として勤務。
登記法や民法等を学び、実務で相続~帰化と多岐に渡った。
相続案件では最多17人の相続人を扱ったので、「身内9人なら楽勝」と思ったがそうは問屋が卸さない。
相続6【従兄弟の頑張り】
叔母が施設に入るに際し、その世話や保証人となったのが、唯一同じ県内に住む従兄弟。
彼は以前から彼女の外出時には車を出し、彼の母に代わりお世話役。
その母も数年前に亡くなり、叔母の弟は他府県に居て、彼とは不仲。全てがのし掛かる彼を、私は助けねばと思った。
相続7【預金情報】
伯母の施設入所費用の支払いは、JAの担当者が来て、自動引き落としにしたとの事。
ただ彼女は他3行にも預金口座を持っていたが、全てキャッシュカードを有していない為、本人以外はお金の引き出しが困難。
私は従兄弟が経費の肩代わりをしない様にと策を練る必要性を感じた。
相続8【相続と士業】
本編と離れて、相続案件が発生した際の依頼先について少し分析。
遺産分割で揉めたら弁護士、相続税が発生する程の遺産なら税理士、不動産の相続登記なら司法書士、余り用が無いのが社労士。
相談料や費用の多寡はその資格取得の難易度に準じるので、コスパ良いのは行政書士。
相続9【相続と弁護士】
弁護士に相談するなら、まずは弁護士会の、続いては市区役所の無料相談がお勧め。
しかし少し込み入った内容になると、「続きは私の事務所へ来て頂いて……」と、有料ゾーンへ連れて行かれがち。
弁護士への相談は30分で5千円前後掛かる為、依頼するのは最後の最後かな。
相続10【相続と税理士】
相続税が発生しない遺産額なら、そもそも税理士へ依頼の必要は無い為、まずは申告の必要性を調査。
所轄税務署へ電話し、『相談センター』へ繋いでもらって相談。
なお相続財産のうち注意すべきは不動産の評価で、確定出来るのは税理士の為、微妙な金額の時は依頼が必要。
相続11【相続と司法書士】
相続財産に不動産が有り、売却する場合はその前提として相続登記が必要で、その際には司法書士へ依頼。
土地について境界確定が必要な場合は土地家屋調査士へ依頼。
ただ売却処分しない場合、相談登記をせずに放置されるケースも多く、地方では大きな問題となっでいる。
相続12【相続と社労士】
相続案件に社労士が必要で無いのは何故かと言うと、社労士には代理権が無いから。
その為、相続人を特定する為に必要な戸籍謄本や住民票を取得する際の『職務上請求』が使えない。
遺族年金の請求や老齢年金の未受領分の請求が有っても、年金事務所で丁寧に教えてくれる。
相続13【相続と行政書士】
相続では相続人特定が重要で、その為には戸籍謄本や住民票を大量に掻き集める必要が有るが、それを相続人が行うと時間が掛かる。
その際に行政書士へ依頼すると『職務上請求』を使って取得し、最終的に遺産分割協議書等を作成。
※多少の揉め事なら解決への介入も可能。
相続14【伯母の体調急変】
最初の連絡から数ヵ月後、従兄弟から「体調が悪くなったので施設から病院へ移った」と再び電話が有り、私の心配は杞憂では無く現実味を帯びて来る。
まず私は不測の事態に備え、遺体引き取り~葬儀に納骨や法事等、独り暮らしの叔母を取り巻く環境についての調査を開始。
相続15【費用の捻出】
施設入所の保証人になった関係で、引き続き入院に際しても従兄弟が保証人となるが、入院費用については都度の支払いが必要と判明。
お金に余裕の無い彼に費用の肩代わりをさせない為に、JA担当者への依頼を指示し、結果的に転院時は特別扱いで百万円の預金引き出しに成功。
相続16【いざという時の準備】
伯母の体調が思わしくない現状、もし急変すると対応出来るのが、叔母と同じ県内に住み、お世話して来た従兄弟だけなので、その際の手筈を彼と打ち合わせる。
急に亡くなった場合は遺体を預かってもらえる葬儀社が必要だが、彼には心当たりが有る様で、まずは一安心。
相続17【納骨は何処のお墓へ】
自宅近くに有る亡夫のお骨が納められるお墓は伯母がお世話をしているが、夫側の親族は近くに居らず、亡くなって数十年の年月が経過しているので、法事へも誰も来ないとの事。
従兄弟の家からも車で1時間掛かるそのお墓に納骨すると、彼だけに負担が重く伸し掛かる。
相続18【相続放棄と財産放棄】
従兄弟から放棄をしたい相続人が居るとの情報から、手続きについて調査。
相続放棄は、相続開始を知った時から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申請が必要等、簡単では無い。
厄介な財産が無ければ遺産分割で財産を受けない形の財産放棄という方法が有る事も同時に知った。
相続19【伯母の血族構成】
彼女は長子で、妹が3人続き、その後に長男、次男で、計6人。
次女である従兄弟の母、四女である私の母、次男の叔父は既に他界。
従兄弟と同じ市内に住む三女の伯母に子供は居らず、耳が全く聞こえない状況。
他府県に住む長男の叔父は車を運転する位の元気は有る。
相続20【従兄弟が叔父を嫌う理由】
伯母の弟で長男である叔父の事を、従兄弟は私に何度も愚痴る。
祖母が亡くなった際は全ての財産を譲られたのに、祖母亡き後は母親代わりの叔母を世話しない事がその理由。
このまま叔母が亡くなると、後片付けも彼が一人背負いそうなので、私は策を練り始めた。
【中書き①】
8年前のお盆に、母と共に田舎へ行き、まだ元気だった叔母たちと久し振りにお会いした。
その時、伯母たちを送迎していたのが従兄弟で、彼とは40年振りの再会。
彼の人懐っこい性格は幼少の頃と変わらず、都会から戻っていた娘さんが一緒に来ていたのが印象的でした。
しかし従兄弟から最初の電話が有ったのが、大腸癌の告知直後だったので、連絡は私の弟へしてもらう様に頼まざるを得ない状態だったのです。
相続21【放棄の意向を尊重】
三女である伯母は亡夫の長男夫婦と同居しているが、戸籍上は他人の関係。
90歳近い彼女にも実子が居らず、万一の時はやはり私たちが相続人となる図式。
親族間でも財産家と有名だったし、今後の事も考慮して、放棄したいと言う彼女の考え通りにさせて頂く事にした。
相続22【願う放棄の翻意】
末子である亡き叔父には3人の子供が居て、放棄の意向だと聞き、その長男へ電話した。
彼へ手続きの煩雑さを伝え、共に相続人となる事を勧める。
遠慮する彼へ「自分が受け取る筈の遺産を、我が子が受けてくれると、お父さんも喜ぶよ」と伝えると、彼は得心してくれた。
相続23【重荷を背負う覚悟の従兄弟】
彼へ電話すると、「伯母の家の後片付けは結局、俺がする事になると思う」と何度も口にした。
聞きながら私は、叔母の側に居るから仕方無いかなと思う反面、その代償を享受出来る術を探す。
そこで彼が葬儀から遺品整理まで行う前提で、解決策を導こうとした。
相続24【頼れる相棒登場】
私と同じく相続人であり、普段から私の事を気遣ってくれている年子の弟に相談した。
伯母の自宅は相続登記であれ解体であれ、民法上の権利を一人に集約する方が合理的な事を説明する。
そこでその負担を補填する具体的な金額として500万円を提示し、彼の賛同を得た。
相続25【分割協議案が始動】
「伯母が所有権を持つ不動産を一手に引き受ける形にして、その代わりに遺産を多めに受け取る案はどう?」と、彼へ打診する。
納得してくれるなら、私と弟で叔父を説得する事を約束し、彼の本音を伺った。
彼は上乗せ金額を一考した後、私たちへ一任する事を決心する。
【中書き②】
従兄弟から聞かされる叔父に対する愚痴の影響で、叔父は自分勝手で無責任な人であると、私は思い込みました。
そこで一方的に押し付けられる形の従兄弟を救いたいとの一心で、相続額の上積み案を考えたのですが、果たして正解だったのか。
ただ考慮したのは、1千万円上乗せでは叔父を含め他の相続人からも異論が出る可能性を鑑み、悩んだ挙句の500万円。
伯母の様態をさて置いての画策に、後ろめたさも感じつつ、親族間の揉め事を未然に防ぎたいとの正義感から、私は動き続けたのでした。
相続26【逸機痛感】
伯母の夫が亡くなった際、彼が有する財産の一部は子供が居ないが故に、彼の親族に相続権が生じる。
その辺りを従兄弟に確認すると、数年前に叔母の依頼で所有権放棄に動いたとの事。
だが、ある親族が金銭を要求したので反故にしたと聞き、好機を逃したと私は地団駄を踏んだ。
相続27【一族丸抱え】
従兄弟から、自分の母の相続の際に頼んだ行政書士が、異父兄弟への放棄手続きに大活躍した話を聞いた。
叔母の亡夫側についても調査依頼したのなら、その絡みで諸々の事情にもかなり明るい筈。
やり手そうな雰囲気を醸すその先生へ、この案件も託しみるかと私は腹を決めた。
相続28【電話越しの堅い握手】
従兄弟へ依頼した翌日、行政書士かrら電話が入ったので、今回の経緯を手短に説明した。
補助者の経歴が有る旨を告げた後、私の分割協議案を提示し、専門家の判断を仰ぐ。
その結果、私の意図やその妥当性について、彼の賛同が得られたので、正式に契約を締結した。
相続29【昔取った杵柄】
先ず優先すべきは関係説明図の作成で、戸籍謄本や住民票の入手が必須。
そこで私は機先を制し、「相続人全員分の名前は勿論、本籍地や現住所に、生年月日のデータが有れば良いですか?」と訊く。
「助かります」、彼の言葉を聞き、過去の経験が役立つ展開に安堵した。
相続30【不意打ち朝掛け】
私は相棒である弟へ、行政書士との検討内容を伝え、該当者のデータ収集を頼む。
こうして親族間に連絡網が構築される中、1週間が過ぎた日の明けガだった。
目覚ましにしている枕元の携帯から着信音が鳴り、寝惚け眼で出ると、「叔母さん、今亡くなった」と従兄弟の声。
【中書き③】
前職で纏め上げた相続人17名の案件は、関東から九州まで離れた地域に広がっていて、しかも見知らぬ人たちばかり。
それに比べると登場人物は親類縁者だけなので、容易いと当初は考えましたが、そうは問屋が卸さないのが身内が故の微妙な人間関係でした。
そうこうしている間にも伯母の病状は悪化し、ついに予想を越えた早さで、その時を迎えます。
ただその直前の聞き取りで、従兄弟と叔父の間で誤解や行き違いが生じていた事実を把握した私は、弟と協力しながら解決の糸口を模索するのでした。
相続31【錯綜する言い分】
従兄弟が不動産引き受けを了承した交渉後、私は間髪入れず叔父へ連絡した。
久し振りに聞く声は弱々しく意外だったが、私は冷静に叔母の状況をを伝えると、彼の語気が一変。
相続32【妖館との遭遇】
従兄弟へ確認すると「電話は一度も無かった」と、自説を一向に曲げない。
二人の仲違いを弟へ伝えると、では直接聞きに行こうとなり、すぐに段取りを決めた。
当日、弟が私を車で拾ってから叔父宅へ向かったが、扉を開けた途端、眼前に壮絶な光景が迫り来る恐怖を味わう。
相続33【阿鼻叫喚の戦慄】
私は玄関で靴を脱いで廊下の端に上がるが、身動きが取れない難儀に接する。
辺り一面に物が散乱していて床面がその姿を現さない為で、私は弟に手を引かれ居間に入った。
ここも同様で自力では椅子の位置さえ視認出来ない有り様で、叔父の置かれた尋常無き訳は後に知る。
相続34【叔父の目にも涙】
奥から登場した彼は申し訳無い様子も見せず、訪問を労う言葉を発しつつ対面に座る。
私は臆する感情を圧し殺し、ここまでの経緯を伝えると、「お前たちに任せる」と拍子抜けする台詞が飛び出した。
更に「迷惑掛けるが頼む」と呟くと、元警察官の眼光は鈍く潤んでいた。
相続35【そして訃報が】
伯母が万一の際、弔い関連の手配や役所への手続き一切を従兄弟へ任せると、改めて叔父へ説明した。
続いて不動産の整理まで背負わせる代償に、応分の対価を与える事も承諾してもらう。
帰宅後、描いた段取りが進み一段落の就寝だったが、明け方の着信音に安眠を遮られた。
【中書き④】
電話で話すと叔父の様子は、従兄弟から聞いていた印象とまるで違っていて、私はどちらを信じて良いか分からなくなる。
そこで弟と二人、久し振りに訪ねた叔父の自宅は、TV番組の映像でしか見た事が無い正にゴミ屋敷化状態。
従兄弟からは「叔父はお金に困っている」とは聞いていたが、この惨状を目の当たりにすると、彼の身辺に異変が起こっている予感がしました。
彼の対応や発言からもそう確信しましたが、この原因については後述するとして、今回は叔母の様態急変に対して一歩前進と安堵した矢先、叔母の訃報が届いたのです。
相続36【両親からの賜り物】
病院から従兄弟へ伯母が亡くなった連絡が入り、その報せと以降の段取りを尋ねて来たのだ。
私はまず葬儀社へ連絡して遺体の引き取りを依頼し、火葬の日程確認を指示する。
焼き場は友引が休みとなる事が多いと知ったのは喪主をしたお陰で、2度の経験がここで活きた。
相続37【姿無き形見】
更に夜が明けたら町役場へ死亡届の提出を頼んだのは、火葬許可取得に必要な為。
逆に銀行へはまだ伝えない様に釘を刺したのは、口座が凍結される前にお金を引き出す算段で、少額なら法律的にも問題は無い。
この流れも両親の葬儀の際に得た知識で、天から私へ授けてくれた。
相続38【思わぬ皺寄せ】
従兄弟はこの日、休みを取り朝一番で死亡届を、次にお金の引き出しに向かったと、夜に報告を受けた。
銀行では月に1回20万円との約束を果たしてもらい、葬儀費用を確保。
初日にしては順調な展開かと思えたが、彼からは「職場から文句を言われた」と、愚痴が飛び出す。
相続39【冥福を祈りながら】
従兄弟は休みが取り辛い職種の上、甥という関係性では快く良く休ませてくれない。
まだ雪溶けしておらず、叔父も私たちも駆け付け難い状況で、負担の少ない形を模索。
叔母には申し訳ないが、葬儀せずに遺体焼却する案を選ぶと、翌日にはお骨が彼の元で仮安置された。
相続40【心変わりの予兆】
火葬の日、従兄弟は町役場へ寄ると、固定資産税の請求先を誰にするか訊かれたと、私へ電話して来た。
何故か弱気な問いに「不動産一切を引き受けると腹を括ったんだろう」と、少し喝を入れる。
彼の気持ちが揺れ動く状況や理由について、この時はまだ知る由も無かった。
【中書き⑤】
思っていた以上に叔母の逝去が突然で、狼狽する従兄弟へ的確に指示が出来た事は、天国に居る私の両親へ感謝しなければならない。
火葬許可の前提として必要となる死亡届提出や、銀行から資金の引き出し等、思い付く手立てを絞り出した。
ここで弊害となったのが、休みをを取り辛い職場環境で、愚痴を言い出す従兄弟だが、翌日の電話で、私も感じる違和感。
不動産を一手に引き受け、余分に遺産相続を了承したなら、固定資産税の請求先を誰にするかと迷う筈がないと思うが、その理由が次第に明らかとなって行く。
相続41【足らぬ傾聴】
伯母は自身の分に加え、亡夫の遺族年金も受給していたので、従兄弟へ停止する様に依頼した。
余り休みが取れない彼は、総菜屋で働く妻に動いてもらったりと大わらわ。
葬儀社の手配から焼き場立ち合いに役所手続きと負荷が掛かる彼の苦境を、当時は慮る心配りに欠けていた。
相続42【代打の切り札】
伯母の父は戦争へ出征して亡くなった為、軍人恩給が支給され、直前までは彼女がその権利を継承。
その停止手続きも従兄弟へ頼むと、「これ以上は休めない」と文句が飛び出し、私は少し狼狽える。
慌てて彼の機嫌を執り成す中、遠く離れていても可能な方策に思いが至った。
相続43【先立つもの】
既に関係を構築した行政書士へ連絡すると、「私の方で申請しますよ」と快く引き受けてくれる。
但しその代わりとばかりに、「取り敢えず手付金を振り込んで頂ければ」との条件提示。
確かにこの時点で戸籍謄本等の実費も掛かっている訳で、その要求は至極当然の権利である。
相続44【不気味に胸騒ぎ】
費用に充当する為に引き出したお金は従兄弟が持っているので、行政書士からは彼へ請求してもらう必要が有る。
前回怒らせたので気が重いまま電話すると、予想外に上機嫌での快諾。
だが今度は「相談したいんだけど、いいかな」と低姿勢の口振りに、私は思わず身構えた。
相続45【不穏な空気】
「実は伯母さんが生命保険の受取人を俺にしていた」と従兄弟が言い出したが、これは初耳。
聞くとその額は数千万で、彼女の郵便物を整理していて気付いたと言う。
「「これまで世話して来た分だから」と伝えたものの、今後に大きな影響を与えると、眼前に暗雲が立ち込めた。
【中書き⑥】
従兄弟から取り寄せた伯母の通帳を見ると、自身の老齢年金と亡夫の遺族年金に加え、亡父の軍人恩給をも受け取っていたので、私の給与を遥かに凌ぐ。
その受給を全て停止すべく従兄弟に指示すると、それまでの手続きの煩雑さも重なり、彼が苛立ち始めたので配慮が足りなかったと反省した。
そこで代行手続きが得意分野の行政書士の存在を思い出し、連絡すると快諾してくれたが、当然の如く請求されたのが手付金。
そしてその振り込みを依頼する為に、従兄弟へ電話すると何故か上機嫌で、その理由が死亡保険金の存在と分かると、以前に抱いた違和感の正体に思い当たった。
相続46【開け障壁の扉】
もう1人存命の伯母は資産家だそうで、放棄するとの考えを尊重する方向たが、書類上の意思確認が必要。
そこで彼女の世話をしている亡夫の息子夫婦に協力を仰ぐ為に、従兄弟へ仲立ちを依頼する。
私が連絡すると何度か喋った事の有る奥様が、少し訝し気に電話口へ現れた。
相続47【漂いし暗雲】
「〇△さんの妹の長男で……」と自己紹介すると、「あなたのお母様と仲が良かったのは知ってるわよ」と繋がった。
姉が死んだ事は伝えたのかを尋ねると、まだ教えていないとの返答に浮かぶ違和感。
「真実を知ったら動揺するから」との釈明を聞いて、心に疑念が生じ始める。
相続48【伝えぬままの真意】
伯母が住む家は夫婦の共有で、父の死亡で息子も相続したが、所有権は4分の1に過ぎず。
戸籍上は他人の為、彼女が亡くなると不動産の権利は大半、無慈悲にも私達一族の方へ転がり込む図式。
それを阻止すべく司法書士に依頼して、生前贈与の手段を画策していたのだ。
相続49【燥ぎし独壇場】
自宅は今のまま所有して頂きたいとの意向を伝え、伯母のお世話についてお礼も述べた。
段々と調子が出て来たのか、従兄弟の事を「姉の財産を狙っていると言っていた」と告げ口。
また叔父の方は「お金を無心に来るから嫌だって」と、好き放題の噂話はどうにも止まらない。
相続50【災いとなりし口元】
1時間半の長電話となり、上機嫌のお別れをした筈が、翌週に連絡すると態度は激変。
「あの日から体調を崩したので、もう二度と掛けて来ないで下さい」と一方的に切られる。
余計なお喋りをした行為を夫に咎められたらしく、この後に彼女と関わる機会は訪れなかった。
【中書き⑦】
存命の伯母は資産家だったし、耳が全く聞こえない状況だったので、相続を放棄するとの考えを前提で進めるが、書類上の意思確認を要する。
そこで彼女の世話をしている義理の息子宅へ連絡すると、奥様が対応してくれたが、未だ実の姉が死んだ事実を知らせないとの不可解な対応。
「知らせると動揺するから」との釈明は信じるに値しないが、本当は生前贈与を進める上で、説得の邪魔になると、司法書士から助言されたらしい。
それでも私の言葉に安心した反動で、余計な暴露話や悪口まで吐露した結果、夫から厳しく叱責された彼女は、私への絶交宣言を突き付けた。
相続51【抵触注意の境界線】
いつ伯母との接見が叶うかは分からなくなったが、準備を怠るつもりは無い。
そこで行政書士へ遺産分割協議書の依頼で電話をすると、告げられたのは想定外の返答。
「作成の前提として相続財産の試算が必要ですが、不動産が含まれると私には出来ません」と、説明が始まった。
相続52【専門家たる所以】
財産目録の作成は勿論、申告全般は税理士の独占業務であると教えられる。
かつて私が法律事務所で補助者として勤めていた頃、仕事として試算をしていたが、これは違反行為。
お願いするなら正式依頼が前提との事だが、今回は遺産の規模から見積もられた費用は80万円だった。
相続53【取り溢し許さぬ仕組み】
相続税は発生を知った日から10ヶ月以内に納付の義務を負うと、今回の件で初めて知る。
遺族間で協議が成立しない場合は、まず全体の金額が決まり、それを法定の割合で強制的に按分。
そうであれば、いずれ申告する必要に迫られるのだからと、正式依頼の準備を始めた。
相続54【見付けし道筋】
税理士費用は伯母の銀行口座から引き出した分では足りないので、別の角度から考える。
彼女は夫が勤めていた会社の非上場株式を保有し、父の軍人恩給を相続していて、この2つは戸籍謄本等の書類で換金可能。
両方で90万円程になるので、受領に必要な代表請求者を弟へ頼んだ。
相続55【翻意し本音】
税理士の件を従兄弟へ伝えると、「任せるけど、俺が持ってるお金も一緒に管理してよ」と言葉が荒い。
「それと不動産の事だけど、やっぱり面倒見るのは無理」との台詞。
「今までの話し合いは何だったのか」との怒りに、「そんな気がしていた」との予感、相反する思いが交錯した。
【中書き⑧】
伯母との面会の手掛かりが無くなったが、遺産分割協議書の作成を進めるべく行政書士へ依頼すると、「不動産が含まれるので私には出来ない」と告げられる。
作成の前提として相続財産を確定する必要が有るが、不動産評価額の算定が税理士の独占業務で、提携している先生への正式依頼を勧められた。
相続税の申告は、遺産分割協議が整わなくても期限までに納付する義務が有ると知ったので、依頼を検討すると費用の見積もり額は80万円。
何とか費用の調達の目処を付けて従兄弟へ連絡すると、彼は「不動産の管理は出来ない」と言い出して、事態は風雲急を告げ始めた。
相続56【入れ替わり謀る人柱】
高額の保険金を既に受け取った従兄弟にとって、5百万円上積みでの不動産管理は、今や面倒なのだろう。
憤りの感情も湧いては来るが、代わりを務める事が出来ない以上、有しない彼を責める資格。
それならば一族の長である叔父に責任を取ってもらうべく、策を練り始めた。
相続57【探りし交渉の糸口】
不動産の管理者交代案について報告すると、弟はすぐに同意してくれた。
ところで資産家である伯母は、賃貸用に戸建住宅を保有していて、その面倒を見させていたのが叔父。
そんな関係性も有り、最近では姉に無心をする程に、彼がお金に困っていると、親族の誰かが吹聴する。
相続58【見事外れし予測】
意を決して叔父の家へ電話をすると、小学生くらいの男の子が出るが、どうやら孫の様。
代わった彼へ不動産の管理をする件をお願いすると、「構わんぞ」との返答に、私は肩透かしを食らわされる。
上乗せ金額の追加でも要求されるかと思いきや、「お前らに任せる」と言われた。
相続59【机上空しき論】
叔父が従兄弟の代わりを引き受けてくれたお陰で、分割協議の骨子が固まる。
相続財産から上乗せ分の5百万円を除いて、伯母以外残り8名が法定割合に準ずる案。
これで不動産の評価額が確定すれば、書類の準備も進み、非課税となる見込みだった筈だが、裏切られる結末を迎えた。
相続60【捕り損ないし狸】
正式依頼して1ヶ月、地方の先生様はのんびりしているのか、予定より遥かに時間が掛かる。
事前には固定資産税の評定で見積もっていたが、最終的には路線価で確認。
すると田んぼと畑の農地関係が想像以上に高い数値を叩き出した結果、納付無しと皮算用した思惑は泡と消えた。