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【#68 : なんとなくの今日に包まれて】

特別なことがあるわけでもなく、何か大きな決意をするわけでもなく、今日も一日が過ぎていく。朝、目覚めて、窓の外を見る。昨日と変わらない景色が広がっているのを確認して、安心する。いつも通りの朝。何となく顔を洗い、何となくお湯を沸かし、何となく温かい飲み物を口にする。そうして始まる今日という日。

「何となく」過ごす時間は、味気ないものなのかもしれない。でも、私はこの何となくの時間が嫌いではない。むしろ、そういう日こそ、心がゆるやかにほどけていく気がする。ドラマのような出来事も、驚くような展開もない、ただ流れるように続いていく日常。その中に、ささやかな幸せが隠れていることを、私は知っている。

午前中の空気は澄んでいて、少しひんやりしている。窓を開けると、遠くで鳥の声が聞こえた。特に意識していなかった音が、ふいに耳に飛び込んでくると、なんだか心がほぐれる。ああ、今日も世界は変わらず動いているのだと、そんな当たり前のことを思う。

部屋の片隅に置いた観葉植物の葉が、少し伸びた気がする。昨日までは気づかなかった小さな変化。植物は静かに成長し、何も言わずに今日を生きている。私も、そんなふうに生きていけたらいいのに。何かに追われるようにではなく、焦ることもなく、ただその日を、その瞬間を、あるがままに受け入れるように。

午後になり、なんとなく本を開いた。読みかけのページをめくると、活字が整然と並んでいる。目で追いながら、頭の中にゆっくりと言葉が染み込んでいく。物語の中の誰かの人生をたどりながら、自分の時間もゆるやかに流れていく。

夕方、少し肌寒くなってきた。陽が傾き始めると、部屋の中に差し込む光が柔らかくなる。カーテン越しのオレンジ色の光を見つめながら、今日という日がそっと終わりに近づいているのを感じる。特別なことはなかったけれど、悪くない一日だった。何となく過ごした今日も、きっと私の人生の一部として、どこかに積み重なっていくのだろう。

こんなふうに、何気なく過ぎる日があるからこそ、たまに訪れる特別な日が輝くのかもしれない。何も変わらないように見えても、実は小さな変化がそこかしこに散らばっているのかもしれない。そう思うと、「何となく」の今日が、ほんの少し愛おしく思えてくる。

明日もきっと、何となく始まり、何となく終わるのだろう。それでも、その中にある小さな幸せや静かな変化を見つけながら、私はまた、何となくの日々を積み重ねていくのだと思う。

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