無謀恋愛
第1話 出会い
私はとある田舎の塾で中高生を教えているどこにでもいる大学生だ。教え子が一人、また一人と合格し、笑顔で卒業していく。先生に教わったから受かったと笑顔で報告しに来てくれる。生徒や親、他の先生から信頼されていたようで、このまま行けば全てが順調に行くはずだった。
半年前の秋頃、ある一人の生徒が入塾してきた。外見は芸能人のあのちゃんに似てる中学三年生のその生徒をAとしておこう。
その生徒は決して優秀と言えるような成績ではなかった。その頃のAでは第一志望には到底届かなかっただろう。
そんなAを担当することになったのは私と私の友人の日向先生だった。彼も周囲の人間に信頼されている。無論私も彼を心から信頼しているし、尊敬している。
基本的な教育方針は彼がAを教えて、私は進路を考えたり、彼の解説できない問題を解説したりと、私はどちらかと言うと補助的な立場だった。
私たちはひたすらAに勉強をさせた。Aはうつ病や朝起きれない病気を持っていたらしい。中学校の勉強は塾に入ってから本格的に始めたようだ。
しかしその現実は受験の前では同情すらされないのである。ただのペナルティや、甘えといったレッテルを貼られてしまう。
結局Aは私立も前期も受けることが出来ず、高校受験は後期一本のみの受験となった。
厳しさは優しさだと自分に言い聞かせ、なるべく厳しく接していたのは日向先生だった。私はその厳しさから来る重圧でAの心が折れないか心配で厳しく接することができなかった。今考えてみればそれが最初の失敗だった。
ある日私と日向先生はAの進路と課題の進度を確認するためにラインを交換した。進路決定や分からない問題の解説、至って真面目な内容の会話しかしていなかった。生徒と先生という関係なら当たり前である。
進路がある程度決まってからは雑談をするようになった。私が考え事をしていてぼーっとしていると、Aは「せんせ、せんせ、」と顔を覗き込みながら何度も私を呼ぶのだった。話してくうちに私は彼女の魅力に取り込まれていった。
私は救いようのない人間だ。人に物を教える立場の人間が中学生に、生徒としてではなく、なにか別の感情を持ってしまっていた。俯瞰すると愚かで滑稽だった。
ある時Aに進路を相談されたことがあった。
Aはある高校の普通科に入ろうとしていたが正直後期一本で受かるほど優秀な生徒ではないことはわかっていた。それでも私は普通科よりレベルの高いコースを推薦した。なぜなら彼女にはCAになるという夢があったからだ。学校の担任とAの親は当然反対した。
当たり前だ、普通科すら厳しい成績なのにもっと上のレベルを目指すのはちゃんちゃらおかしい話だ。だが、Aは普通科ではなく、上のレベルの受験をすると意志を固めていた。
学校の先生もその硬い意思に心を打たれたのだろう、Aの志望するコースを応援するようになっていた。
それからはひたすら勉強漬けだった。学校が終わってから真っ直ぐ塾に来て、22時にようやく授業が終わり、みんなが帰る中、私と日向先生で教え続けた。22時30になって追い出されるまで3人で勉強していた。そんな毎日がずっと続いた。
真綿のような雪が降る午後、私は塾の帰りに倒れてしまった。
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