見出し画像

夏休み。女。幽霊。

第1話 夏休み
  私が小学4年生の時の話です。退屈な授業がやっと終わり、校長先生のありがたい長いお話を聞き終わって待ちに待った夏休みを迎えた。
  アスファルトの上を逃げていく水溜まりの蜃気楼、額から流れ落ちる大量の汗、畑の横を通ると必ずいる謎の羽虫の大群。小学生の私にはには地獄のような帰り道だった。早くクーラーの効いた部屋でゲームがしたい。そんな一心でやっと家に着いた。
  鍵を開け靴を脱ぐと勢いよくランドセルを放り投げ、エアコンの温度を20℃に設定し、当時流行って3DSのゲームをしていた。2時間ほど同じゲームをしていると飽きてしまった。ゲームのソフトは1つしか持ってなかったし、その時間のテレビはネットショッピングばかりでつまらなかった。初日にしてすることがなくなってしまった。       ぼーっと天井を眺めながら木目を数えていると、網戸に「カンッ」と何かがぶつかる音がした。
なんだろうと思い外に出てみるとひっくり返ってじたばたしてるカナブンを見つけた。このカナブンを見ていると、これだ!と確信した。
  そこからの行動は早かった。近所の友人のこうすけを誘い「カブトムシ取りに行こう!」とさそった。「大賛成!ルパン三世!」とこうすけも快諾し、虫かごと虫あみをもって家の裏にある山に向かった。
  少し歩くと神社があった。色あせた鳥居をくぐり抜け、参道を通り賽銭箱の横に腰をかける。疲れたと空を仰ぐと本坪鈴隣に何かいる。
「見ろ!!あれカブトムシじゃね!?」はしゃぐ私とこうすけは、勢いよく鈴を鳴らしたがなかなか落ちてこない。どうしても欲しかった私たちは、賽銭箱の上に乗り、その辺にあった手頃な枝でカブトムシを取った。
  罰当たりな事をした自覚はあったが、それ以上にカブトムシが嬉しくて舞い上がっていた。
僕たちは次の獲物を取るために森の奥に踏み込んでしまった。

 

第2話 女

緑の中を歩く私たちをまるで森が歓迎してるかのようだった。木や草の匂い、通り過ぎる風が心地よく、夏の蒸し暑さを全く感じさせない、そんなような場所だった。
  どこかで見た本によるとカブトムシはクヌギの木に集まるようだ。おそらく、クヌギからはカブトムシの好きな甘酸っぱい樹液の匂いがしていてそれに惹き付けられるのだろう。幸い家の後ろの山には大量のクヌギが生えていて、大きい獲物もちらほら見えた。
  僕たちはカブトムシ取りに夢中になり、あたりはあっという間に暗くなってしまった。  
  こうすけは「やばい、怒られる」といい早足で帰ってしまった。私は父と母が残業で家には誰もいないことからもう少しだけ大物を探してみようと考えていた。そう、カブトムシは夜行性だからだ。
  すっかり夜だが全く何も見えない訳では無い。月明かりとたまにある古い街灯がぼんやりと足元を照らしてくれた。
  冷たい風が首筋を撫でていく、私は少し怖くなって帰ろうとする。その時だった。「ザッ、ザッ、ガサガサ、」最初は熊だと思った。持ってきた鈴を大きく鳴らしながら後ずさりで坂を下ろうとする。
 「ザッザッ、ザッザッ」次第に音は大きくなっていく。私は得体の知れない恐怖に足がすくんで動けなくなった。寒い。もはやあのデタラメな夏の暑さすら恋しかった。
  足跡が止み、森に静寂が戻る。恐る恐る顔を上げる。
  そこには白い服を着た女がいた。私は今度こそ終わりだと思った。怪談が好きで知っていた八尺様や口裂け女に関する無駄な知識が私をさらに恐怖のどん底に叩きつけた。
  「こんばんは。」と挨拶された。もう半泣きだった私は顔をあげる。普通の女性だった。年は20前半くらいか、結構綺麗な人だった。
   「迷子?」そう聞かれてもはや頷くことしかできなかった私をその女は手を繋いで山を降りてくれた。
    安心した私は女の事が気になりだし、名前や好きな食べ物の話をした。名前はまなか。好きな食べ物はオムライスだった。まなかさんはとても素敵な人だと思った。
   しばらく歩くと、神社に戻ってきた。「もう大丈夫?私はここで。」とまなかさんが手を振った。おそらく家がここの近くなんだろうと思い、感謝を述べて家に帰った。

ここから先は

601字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?