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小説 あなたは悪辣な恋人 7


「あなたは何者なの?」

いてもたってもいられず、眠っている櫻木を揺り起こした。

目を開けた櫻木は私が泣いている事に気がつき、手を握って来るが、私は汚い物に触れたくないと、その手を払いのけ社員証を叩きつける。

「どうして嘘をついたの?」

「言いたかったよ。俺は達也じゃないって。
達也は遊ぶ時に使ってた名前だったんだ。
出会ったあの日、純子言ったじゃん。凄く好きだった人と同じ名前だって。だから言い出せなかった。達也と言う名前の俺だから会ってくれたのわかっていたから」

「………」

「純子、結婚しよう」

「何を言ってるの?私達まだ会って2回目よ。そんなすぐ結婚を決められるものなの?それに私は貴方より13歳も年上なのよ。後悔する絶対」

「俺は、次付き合う人とは結婚するって決めていた。純子と結婚したいんだ。理屈じゃない。
クリスマスに籍を入れよう」

そう言うと櫻木は私を抱きしめた。

「やめて。話しは何も終わってないわ」

「答えなんか出てるだろう?純子と俺は結婚する。俺の女房になれよ。名前が嘘だった事なんて結婚したら笑い話に変わるから」

櫻木は私の頬を両手で包み、目を開けたままで私の唇を舌で愛撫を始めた。その強い視線から逃げる事が出来なくなり、情けないほど吐息が漏れ甘い蜜が溢れ出す。

「もう嘘ついてる事はない?」

櫻木の身体が欲しい私は、嘘を簡単に許し早く舐めまわして欲しいと舌を出し奴隷のように甘える。

「いつかわかる事だから言うけど、少し借金があるんだ」

「いくらなの?」


「70万くらいかな」

「それくらいなら…」

肉体に火がつき借金なんてどうでも良い事だと簡単に許した。

櫻木の手淫や性行為そのものが私を引き摺り込んで行ったわけではなく、あの怖いくらいに見つめる強い眼差しに私は溺れ我を忘れる。

今思うと、櫻木の愛は酷く歪んでいて、私の愛も狂気と背中合わせの物だった。

自分の男性器を口淫している私に向ける櫻木の視線はどこか冷たく何かに対する復讐に思えた。

その哀しい視線を見つめる度に、あなたは何もわかってないと頭の中で囁く。

どうしてそんな無防備でいられるの?

ここで貴方の男根を噛み切るかも知れない私に、そんな無防備な姿を晒すなんて。

私は心からの愛情を込め櫻木の男根に舌を這わせながら、肉棒を噛み切り櫻木の赤い鮮血を舐め回す自分の姿を想像する。私は櫻木の命が自分の手の中にある事に興奮し、飢えた動物のように腰を揺れ動かし終わる事のない夜に果てていった。

女に愛を求めるも愛を信じられない男と、男に愛を捧げても、その愛を与えられない女の物語は、嘘に支配され、いつまでも離れられない2人になっていく。


続く


Photographer
Instagram @very_wind

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