鈴木猿千代

小生、次々と作品を発表したいと思っているが、思いと裏腹の持続性のなさが小生の特徴である。 現在、ふわっと書いている「あなたは悪辣な恋人」は終了後、新たに書き直し発表する予定である。

鈴木猿千代

小生、次々と作品を発表したいと思っているが、思いと裏腹の持続性のなさが小生の特徴である。 現在、ふわっと書いている「あなたは悪辣な恋人」は終了後、新たに書き直し発表する予定である。

最近の記事

小説 あなたは悪辣な恋人21

スマホの連絡先を見ていると、昔お世話になった女性の所で指が止まる。 無言で死んでいくのも悲しい。涙の訳をせめて聞いて欲しい。 そう考えて通話を押すもコールが鳴り響くだけで返ってくる声はなかった。 ショートメールにメッセージを残す事にした。 「文子ちゃん、純子です。お久しぶりです。 長い間ご無沙汰してごめんなさい。突然なんだけど生きているのが辛くなったのでここでお別れしようと思います。全てに疲れました。 こんなメッセージ残してごめんなさい。幸せになりたかったです」 文

    • 小説 あなたは悪辣な恋人 20

      目が覚めると、自分ではさほど飲んでいたつもりは無いのに、昨夜のマッカランが残っていて頭が酷く痛い。 酒の失敗はしていないはずなのに、二日酔いは罪悪感を連れて来るから嫌いだ。 眠りから覚めると現実への不安に襲われ、これからどうしようと考えれば考えるほど絶望的な気持ちになる。 鞄の中でスマホのバイブが鳴っている。もう、こんな時に誰よもう。 「泰孝…この人と今は話しをしたくない」 バイブは切れるとまた鳴り出し止まらずイライラして出てしまう。 「なに?なんの用?」 『俺

      • お墓を探して三千里

         私も50歳を過ぎ、いつか来る終活を考える機会が増えて来た。 そんなのはまだ早いとか、70過ぎたら考えればいいとか、夫や友達は、気の早い私を嘲笑するけれど、いたって本人は真面目にリアルに人生の終わり方を考えている。 ここ数年で、同級生が癌や大動脈破裂、自殺で亡くなったと訃報が入って来た。 友人達の話題は病気で、やれ高血圧だ、糖尿病だと謎の病気マウントをしてくるのに、終活を考えてなんて、相変わらずお気楽な連中だと私は横目で見ている。 人生が、残酷なほど早く過ぎる事をこれ

        • 小説 あなたは悪辣な恋人 19

          「お待たせしました。どうぞ」 目の前に運ばれて来たミント色のカクテルが とても可愛いらしくて、抱えていた不安な気持ちが吹き飛び、生クリームの滑らかな口触りに心が踊り出す。 「マスター、とっても美味しいです。こんなに美味しいグラスホッパーは、初めてかも知れません」 「ありがとうございます。それは良かったです」 「マスターのカクテルは川崎、いや横浜入れても1番なんすよ。俺も俺の仲間もここのカクテルしか飲まないんだよね。いや飲めないだな」 先客の若い男性の話しに笑顔で頷く

          小説 あなたは悪辣な恋人 18

          今夜の私を動かしているのは怒り。 自分は、13歳歳上なんだからとか、櫻木はまだ子供だとか、男はこんなもんなんだとか、自分の心を誤魔化して、不安を愛に置き換えて来たけれど、今回ばかりは許す事は出来ない。 アイシャドウを塗る指に力が入って濃いめのメイクに仕上がった私は戦闘態勢を整えた。 だいたい自分の家も教えない恋人って何なのよ。ふざけてる、馬鹿にしてる。 家を飛び出し、イヤホンから流れる2pacのラップを聴いていると何も怖い物がなくなり、川崎の街を睨み、向かい風に立ち向

          小説 あなたは悪辣な恋人 18

          小説 あなたは悪辣な恋人 17

          「純子、川崎に早く来いよ」 「うん。来週にでも不動産見て決めるつもりよ。その時、泰孝は来れそうかな?」 「時間あったら行くよ」 「じゃ、すぐ動くよ。来月からは2人暮らしになるね。新しい春が始まるからワクワクするな」 桜が咲き乱れる頃、私は櫻木の街、川崎へ引っ越した。川崎駅から少し距離はあるが、近くにコリアンタウンがあり、海までは歩いて行ける距離にある古いマンションを借りる。 私は都内まで通っていた会社を退職し、櫻木を支える事を1番に考え、川崎で新たな仕事を探す事にし

          小説 あなたは悪辣な恋人 17

          小説 あなたは悪辣な恋人 16

          通りがかりのラブホテルへ入ると、櫻木はシャワーも浴びずホテルにあった安いウイスキーを瓶のまま一気に喉に流し込んだ。   常日頃、酒は冷静さを失うから嫌いだと言っている櫻木のその姿は珍しく、私は何かあったのかと心配になる。 「泰孝、なにかあったの?」 「なにかって?」 「そうね、仕事で嫌な事があったとか友達と揉めたとか」 「別に何も無いよ。純子だけなら酒飲んでも良いだろ。仕事で嫌な事があるのは当たり前だし、ガキじゃないから友達と揉めたりしないさ」 「本当?私には何でも

          小説 あなたは悪辣な恋人 16

          小説 あなたは悪辣な恋人 15

          翌日、櫻木は何も無かったかのように電話を寄越し海を見に行こうと言って来た。明日はどうかと聞かれた私は、仕事だったが必ず行くと答えた。 いつの間にか私は、自分にどんな都合があっても櫻木を優先する事を覚え、気づかぬうちに自分の世界を狭めていた。まだ私は、達也と不倫の恋をしていた時の癖が抜けないのかも知れない。自分にも大切な物はあるのに、それよりも恋人と会える時間を優先にしてしまう。 自分が少しずつ、そして確実に消えていってることに何の疑問も持たずにいた。 明日は朝から川崎駅

          小説 あなたは悪辣な恋人 15

          小説 あなたは悪辣な恋人 14

          知らない街を歩いていると、別れたはずの愛しい達也が前から歩いて来た。 思わず「達也!」と大きな声で名前を叫び、手を振り駆け寄ると、達也の隣りに奥さんがいる。 「この盗人女が!」突然発せられた怒鳴り声に驚き、身体をすくめると、急に目の前が明るくなり見慣れた風景が目に映り出した。 ああ、夢か… 元旦からこんな夢。どうして今さら奥さんと達也が出てくるんだろう。 私は夢を見るだけではなく、目覚めても夢の内容を良く覚えていて、子供の頃に見た夢を、今も覚えている。奥さんに怒鳴ら

          小説 あなたは悪辣な恋人 14

          小説 あなたは悪辣な恋人 13

          クリスマスを終えた吉祥寺の街は恋人達のために輝いていた光を消し去り、新年を迎える人々の足並みに合わせ慌ただしさを加速して行く。私は、クリスマスをひとりで過ごす事は出来るが、お正月にひとりは寂しすぎて嫌い。 実家に帰れと友人達は言うけれど、帰っても寝たきりの弟の世話に追われるだけで、子供の頃から両親が新年の支度をする事は1度も無かった。つけっぱなしにしていたTVから聞こえて来る元旦の挨拶や芸能人の着物姿で正月を感じるしかない家。 子供は弟だけではない、私もいるのだからお雑煮の

          小説 あなたは悪辣な恋人 13

          小説 あなたは悪辣な恋人 12

          「純子、クリスマスだからSEXしようぜ。 お前も寂しかっただろ。抱いてやるよ」 「疲れてるからいい。寝たいの」 「強がるなって。俺の事許したんだろ? だったらいつまでもそんな顔するなよ。 こっちに来いって」 結婚を突然取りやめた罪の意識など欠片も無い櫻木の口振り、私の事を「お前」と呼ぶぞんざいな態度、自分は全く望んでいない従属関係が始まってしまった。 「しゃぶれよ」 頭の後ろで手を組み腰を上げただけの櫻木の下着を私は無言で下げ、諦めに似た思いでペニスを咥えた。 さ

          小説 あなたは悪辣な恋人 12

          小説 あなたは悪辣な恋人 11

          男が射精した後、女に興味が無くなるように、女も好きでもない男との時間は、絶頂を迎えてしまえば、もう用なんかない。 事が終わると、男と女が性欲を捨てるだけの薄汚く陳腐な部屋にウンザリする。私もよくもこんな場所で知らない男に身体を与えたものだ。 中島も表面上は優しい男に思えたが、タダで女を抱けたんだから優しくもなる。 「まりな、連絡先どうする?俺は交換しても構わないよ。寂しい時はまた連絡してくれて良いし」 「これで終わりましょう。後腐れがないのが、お互いのためだから」

          小説 あなたは悪辣な恋人 11

          小説 あなたは悪辣な恋人 10

          身体を重ねる前提で知らない男と待ち合わせする私と、知らない男と寝るのが仕事の風俗嬢なら、誰が見ても私の方が惨めだろう。 お金という代償もなく性に飢えているわけでも性癖でもないのに簡単に身体を与える。 自分を大切にしろと他人は言うが、大切にしたくても心の痛みが消えないのだから仕方がない。何も知らないなら言わないで欲しい。 思えば、私は達也を失ってから満たされない日々を送っていた。付き合っている時も、達也に愛していて欲しかったから、都合の良い女を演じてみたり、家庭へ帰る姿を

          小説 あなたは悪辣な恋人 10

          小説 あなたは悪辣な恋人 9

          「どうしてなの?なぜ」 「何回も言わせるなよ。明日は行かない」 「だって明日は2人で婚姻届を出すって約束したじゃない!信じられない」 「お願い、来て。どうしてそんな事言うの?」 「無理」 「借金も返したし、貴方のために頑張ったじゃない。どうしてそんな事が出来るの?」 「借金返してくれたのは感謝してるよ。ありがとうございます。でも結婚したくなくなったんだ。別に純子と別れるって言ってないだろ。結婚はしないって言ってるだけ」 「私にプロポーズしたじゃない!結婚しようっ

          小説 あなたは悪辣な恋人 9

          小説 あなたは悪辣な恋人 8

          大学時代からの親友、則子に連絡をしクリスマスに入籍する事を話すと電話の向こうで呆れていた。 「なぁ純子、あんたはその男の何が好きなんや?さっきから聞いてるけど、借金あるわ、中卒の職人で、嘘つきやし背も低い。さっぱり何がええのかわからんわ。自分から不幸に飛び込むのもう良い加減やめや。聞いてるこっちがしんどいで」 相変わらず大阪人は、遠慮を知らない人種なんだから。話す相手を間違えたと電話を切りたくなるが、則子に櫻木と言う人を理解して欲しい。 『感性が好きかな。あとは空気感と

          小説 あなたは悪辣な恋人 8

          小説 あなたは悪辣な恋人 7

          「あなたは何者なの?」 いてもたってもいられず、眠っている櫻木を揺り起こした。 目を開けた櫻木は私が泣いている事に気がつき、手を握って来るが、私は汚い物に触れたくないと、その手を払いのけ社員証を叩きつける。 「どうして嘘をついたの?」 「言いたかったよ。俺は達也じゃないって。 達也は遊ぶ時に使ってた名前だったんだ。 出会ったあの日、純子言ったじゃん。凄く好きだった人と同じ名前だって。だから言い出せなかった。達也と言う名前の俺だから会ってくれたのわかっていたから」 「

          小説 あなたは悪辣な恋人 7