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小説 あなたは悪辣な恋人21

スマホの連絡先を見ていると、昔お世話になった女性の所で指が止まる。

無言で死んでいくのも悲しい。涙の訳をせめて聞いて欲しい。

そう考えて通話を押すもコールが鳴り響くだけで返ってくる声はなかった。

ショートメールにメッセージを残す事にした。

「文子ちゃん、純子です。お久しぶりです。
長い間ご無沙汰してごめんなさい。突然なんだけど生きているのが辛くなったのでここでお別れしようと思います。全てに疲れました。
こんなメッセージ残してごめんなさい。幸せになりたかったです」

文子ちゃんとは私が東京に来てからの付き合いで、歳上の彼女は私を叱ったり慰めたりしてくれた姉のような人。歌舞伎町にあるクラブのNo. 1ホステスだったが人生が上手くいかず薬に溺れ私の故郷青森へ失踪していたが2年前フラッとまた東京へ戻り今は派手な世界と離れ小さな引っ越し屋の事務員をしている。

会いたかった。きっと文子ちゃんなら「馬鹿な事言わないの」そう怒ってくれた。

泣いて死ぬしかない道が無いと言えば「今すぐ家に来なさい」そんな優しい言葉をかけてくれただろう。

声が聞けたら良かった…

棚の引き出しを開けると、泰孝が眠れない時に使っていたハルシオンが19錠入っていた。
それを迷いなく数回に分けて飲み込む。

家の中をバタバタと歩き回りベルトを見つけた。

カーテンレールが目に入りそこへベルトを巻き付け、踏み台を用意する。

ベルトに首を通してみた。迷ってはいけない、一気にいかないと死ねない。

足の先で思いっきり踏み台を蹴飛ばすと首にベルトが絡みついて来たがバランスを崩して頭から床に叩きつけられた。

「痛い… なんか髪の毛から出てる…」

手で頭を触ると血がベッタリとこびりついて来たが、私はほっとした。

「血がこんなに流れている。これで死ねるかも知れない」そう思って目を閉じた。


「黒澤さん、起きてください。目を開けられますか」

知らない声に目を開けると私は3人くらいの男性に覗き込まれている。

「純子、しっかり起きなさい。目をもっと開けて」

『ふみこ、ちゃ、ん?」

「そうだよ。迎えに来た。もう大丈夫だよ」

『黒澤さん、これから病院行きますよ。どこか痛むとこありませんか?」

返事をする力もなくまた目を閉じるとガタガタと揺れる感覚がしてどこかへ車が走り出す。

そこで意識が途絶えた。


続く


#脚本
#小説

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