弁護士法:AI契約書レビューサービスはグレーゾーン!?
2023(令和5)年6月16日に゙閣議決定された「規制改革実施計画」において、いわゆるAI契約書レビューサービスを含む民間企業により提供されるCLM(Contract Lifecycle Management)サービスに関し、弁護士法第72条(非弁行為の禁止)との関係につき、2023(令和5)年上期中に、法務省によりガイドラインが作成されることとされた。
本稿執筆時点では未だガイドラインは作成されていないと思われるが、本稿は、その作成に先立ち、これまでの議論を概観することを目的とする。
議論の前提
AI契約書レビューサービスとは
我が国の大手とされるAI契約書レビューサービスに共通する点は次のとおりである。(2022(令和4)年11月11日開催第2回スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ(以下「第2回会議」という。)の資料1や大手AI契約書レビューサービスベンダーのウェブサイトを参照)
自然言語処理技術を応用したサービスであること
事前に設定され又は学習された言語情報とレビューの対象となる言語情報の類似点を捉えて識別又は分類し、相違点やフラグに対応した提案情報をの表示を「機械的に」行うサービスであること
AI自身が自律的に対象となる言語情報をレビューするようなサービスではないこと
このうち、2点目がAI契約書レビューサービスの機能面での肝であり、3点目が弁護士法第72条との関係での肝となる。ただし、第2回会議時点ではChat GPTの前身であるGPT-3は存在していたが、2022(令和4)年11月末にプロトタイプが公開されたChat GPTは存在しなかった。Chat GPTを含む生成AIの存在が2点目や3点目にどのように影響するのかも興味深い。
[2023年7月19日更新]
Chat GPT関連の雑感
AI契約書レビューサービスの主な機能は次のとおりである。
「読み込む」:リスク検知機能・欠落検知機能・自社基準との比較機能
「検索する」:キーワード検索機能
「修正する」:修正案提示機能・修正案解説機能
「調整する」:表記揺れ統一機能・条数ズレ修正機能
「作成する」:ベンダー作成の雛形利用機能
<参考>
・LegalForce/株式会社LegalOn Technologies
・LeCHECK/株式会社リセ
・GVA assist/GVA TECH株式会社
上記LegalForceのウェブサイトの動画を見てもらえればAI契約書レビューサービスの概要はわかるかと思うが、同サービスの核となるリスク検知機能・修正案提示機能に関する筆者の素人なりの推測は次のとおりである。(第2回会議の議事録や資料1を読みながら少し意味が分かりづらかったと考えたため言語化してみたものである)
あらかじめ、契約書の種類ごとに膨大な契約条項や問題となりやすい点の修正案とその解説のデータをインプットしておく
例えば、対象文書から「損害」という単語を拾った場合、それがどの文脈の「損害」なのかを探るため、その単語の前後を読む(「損害」という単語は損害賠償条項にあることがもちろん多いが、それ以外にも解除や反社条項などにもあることも多い)
文脈を特定し、すでにインプット済みのデータ(チェックリスト)と比較照合を行う
チェックリストにある情報が欠落していればその旨アラートを発し、そのデータより「不利」であるとしてインプットされた情報と類似する場合はリスクがある/高い旨アラートを発し、修正案(インプット済みのデータ)を提示する
要するに、インプットの量がものをいう世界であり、インプットされたデータと対象文書との比較照合処理のみAIが行うというものである。この処理そのものは人力で行うより高速で正確であり有用だと思われるが、そこには思考や思想といった高次元の営みはない。それが行われるのはまさにインプットの場面である(何をインプットするか、どういう内容のインプットを入れるかにより機能・サービスの品質が左右される)。
CLM(Contact Lifecycle Management)とは
これを図示すると次のようになる。
このCLMのうち、締結前における管理に相当するのがAI契約書レビューサービス、締結時における管理に相当するのが電子契約サービス、締結後における管理に相当するのがいわゆるキャビネットサービスである。
この中で弁護士法第72条(非弁行為の禁止)と関係が深いのは締結前の管理のうちAI契約書レビューサービスであるが、例えば、締結後の管理のうち履行管理として、料金や代金の支払いに関する督促状等を自動作成やレビューするようなサービスが登場すれば、それはAI契約書レビューサービス同様に弁護士法第72条への抵触可能性が問題となる。
<参考>
LegalForceは締結前、LegalForceキャビネは締結後の管理を行うことができる
CLOUD SIGNは締結時・締結後の管理を行うことができる
弁護士法第72条(非弁行為の禁止)
以降の議論の理解のために、ここで弁護士法第72条(非弁行為の禁止)について簡単に触れておきたい。
弁護士法第72条を要件ごとに分解すると次の6つに分けられる。
主 体:弁護士又は弁護士法人でない者の行為であること
目 的:報酬を得る目的で行われる行為であること
行為①:訴訟事件その他一般の法律事件に関する行為であること
行為②:鑑定・和解その他の法律事務を取り扱う行為であること
態 様:業として行う行為であること
他人性:他人の法律事務に関する行為であること(隠れ要件)
初めてこの条文を見る読者は、次のような疑問を持つだろうことは想像に難くないが、一旦、その疑問は措いておいてほしい。必要に応じて後で説明するので。
報酬を得る目的でいう「報酬」とは何か?
「法律事件」とは何か?
「鑑定」や「法律事務」とは何か?
「業」とは何か?
「他人」性の要件はどこから来たのか?
ともあれ、この6つの要件のうち、AI契約書レビューサービスが要件1・2・5・6を充足することに異論はないだろう。
AI契約書レビューサービスベンダーは、その代表者等は弁護士であることが多いものの、ベンダー自体は株式会社であり、弁護士でも弁護士法人でもない(要件1)。AI契約書レビューサービスベンダーが有償でサービスを提供する限りにおいて報酬目的である(要件2)。AI契約書レビューサービスベンダーによる同サービスの提供は反復継続して行われるものであり「業」として提供される(要件5)。AI契約書レビューサービスの対象文書は、同サービスベンダー自身に関するものではなく、同サービスの利用者に関するものである(要件6)注1・2。
注1 要件6の他人性の要件は、ある種当然のことかと思う向きもあるかもしれない。つまり、自身に関する訴訟等を自力で対処すること自体なんら妨げられるはずはないためである(本人訴訟が典型例)。この他人性の要件は、会社の法務を弁護士ではない従業員が担うことができるかという論点や親会社が子会社の法務を担うことができるかという論点の中で生じたものであり、本件では直接関係はない。
注2 なお、AI契約書レビューサービスと他人性の要件について、「リーガルテックは、あくまで利用者自身が法律事務を取り扱うことを補助するにすぎず、法律事務の取扱者はサービスの利用者自身である、ということであれば、…非弁該当性が問題になることはありません」とする見解もあるらしいが(第2回会議〔資料4〕8頁)、これは的外れだろう。だとすれば、弁護士ではない者が単に法律事務の取扱者である会社の担当者等にアドバイスを行うことも非弁該当性が問題とならないことになるが、これは非弁行為の典型例である。
そうすると、AI契約書レビューサービスと弁護士法第72条(非弁行為の禁止)に関する論点は、次の2点に集約されることになる。
CLMのうち締結前の管理としての契約審査に関するAI契約書レビューサービスは「その他一般の法律事件」を対象とするものか
AI契約書レビューサービスのうち、特にリスク検知機能・欠落検知機能・自社基準比較機能・修正案提示機能・修正案解説機能等の機能が「鑑定」や「その他の法律事務」に該当するのか
なお、厳密には、仮に、上記6つの要件(構成要件という)に該当したとしても、正当業務行為(刑法第35条)として違法性が阻却されれば、犯罪不成立となるため、この正当業務行為への該当性も論点の1つとなるが、そこでの考慮要素は「本件サービスの目的、利用者との関係、提供及び利用の態様等の個別具体的な事情を踏まえつつ、関係者らの利益を損ねるおそれや法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げるなどの弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められるかといった観点」(法務省回答)とされており、この観点は上記最高裁が挙げた趣旨であり、「弁護士法72条に定める構成要件に該当するかどうかは、行為の内容や態様だけではなく、目的や背景事情その他の個別の事案ごとの具体的事情を踏まえ、同条の趣旨に照らして判断される」(第2回会議〔資料3〕3頁)ことと重複するように思われる。
グレーゾーン解消制度における法務省回答
これまでの回答概要
筆者が知る限り、これまで経済産業省管轄の「グレーゾーン解消制度」(産業競争力強化法第7条第1項)において、AI契約書レビューサービスやそれに近しいサービスに関し、弁護士法第72条(非弁行為の禁止)に違反しないことの確認が行われたのは次の6件である。
(AI契約書レビューサービスそのものに関する確認は下記2・5・6)
いずれも、少なくとも上記2つの論点について回答がなされているが、3点目(2022年6月24日回答「知的財産権の売買等契約ポータルサイト」)を除き、「『その他一般の法律事件』に関するものと評価される可能性がないとはいえない」、「『鑑定』に当たると評価される可能性がある」、「『鑑定』に当たると評価される可能性がないとはいえない」ため、結論として、「個別具体的な事情によっては、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があることを否定することはできない」、「弁護士法第72条に違反すると評価される可能性がないとはいえない」とのことで煮えきらない。
なお、特許出願書類の記載例のサポートとなる文章を自動出力するシステムが弁理士法第75条に違反しないことの確認請求に対し、経済産業省は、次のように、必要に応じて条件を付した上で、どこかの省と異なり比較的明確に回答している。
これまでの回答考察
(1)その他一般の法律事件
そもそも「その他一般の法律事件」とは、次のようなものをいうとされている。
この点、2022年10月14日回答①の検討中のサービスは次のように4つに場合分けされているが、法務省回答としては、「個別具体的な事情を踏まえ、個別の事案ごとに判断されるべき」として、いずれの場合でも「『その他一般の法律事件』に関するものを取り扱うものと評価される可能性がないとはいえない」とのことである(2022年10月14日回答①「契約書レビューサービスの提供」(法務省回答))。
私見では、類型的に紛争性が見い出だせる和解契約や各種契約条件(取引条件)変更の覚書等の契約でなければ、通常そこには事件性がないと考えている。これは、法務省の見解とも概ね一致すると思われる。
この法務省の見解の理論的根拠は明確ではないが、「法律事務の取扱い」であることは前提に、正当業務行為(刑法第35条)として違法性が阻却されるとするよりも、「その他一般の法律事件」に関するものではないという整理が妥当と思われる。
つまり、法務省は、同じ文書において次の例も挙げているが、これは完全親子会社関係がある場合に限り、仮に事件性があるとしても問題ない、つまり正当業務行為であると整理しているように見えるためである。それとの比較において、「子会社の通常の業務に伴う契約」には事件性がないと整理しているように思える。
このように、あくまで通常の業務に伴う契約に関していえば、そこには通常事件性がなく、したがって「その他一般の法律事件」に関するものではないといえるものと考える。
なお、2022年6月24日回答「知的財産権の売買等契約ポータルサイト」では契約書の雛形の提供について、次のように回答されており、AI契約書レビューサービスの機能のうち、同サービスベンダー作成の雛形を利用できるようにする機能は「その他一般の法律事件」に関するものではないとして、問題なく可能となる。(言わずもがなではある)
(2)鑑定その他の法律事務
ここでいう「鑑定」とは、次のようなものをいうとされている。
また、「その他の法律事務」とは、次のようなものをいうとされている。
2022年10月14日回答①は、おそらく照会書の内容が詳細であったこともあり、同じくAI契約書レビューサービスに関する2022年6月6日回答よりも詳細な回答となっており、一定の基準は見えてきている。
a. ベンダー作成のチェックリスト(レビュー方針)との比較照合等
2022年10月14日回答①の検討中のサービスのうち、「AIレビュー型」と呼ばれる①-1AIレビュー型、①-2AIレビュー型機能制限版の差分は、前者が対象文書と「レビュー方針」とを機械的に照らし合わせた上、対象文書のリスク判定・解説・修正例等を提供するのに対し、後者はリスク判定・修正例の提供がなくレビュー方針との差分とその解説(実質的な説明はしない)のみを行う点にある。
注 「レビュー方針」は、 「一般的な契約書の雛形のデータ等を大量に取得し、自然言語処理技術に基づき、類型化された契約書ごとに、固有の表現(人名、組織名、日付、数量、タイトルなど)や特徴的な表現(損害、免責、故意、過失など)などに着目しつつ、契約類型と立場毎に」ベンダーにより作成され、「社内の弁護士資格を有する役職員や外部の弁護士が監修して改善」されるとのこと(2022年10月14日回答①「契約書レビューサービスの提供」(照会書3頁)。
ここまでを前提として、法務省は、①-1、①-2につき次のとおり回答した。
ここでいう①-2の機能の解説とは次のようなものである。
①-1の機能については、リスク判定や修正例の提供があることから、「鑑定」に該当する余地がまったくないとはいえないと思われるが、①-2の機能は、ベンダー作成のチェックリスト(レビュー方針)との差分をそれと分かる形で表示しているだけであり両論あり得るであろう。
ここでのミソは「ベンダー作成のチェックリスト(レビュー方針)との差分をそれと分かる形で表示」という点だろう。
つまり、そもそもベンダー作成のチェックリストという時点で、そこにはベンダーの法律上の専門知識が結集されており、それと比較等を行うということは、目の前にベンダーを置き、ベンダーから専門知識について話を聞くのと同じことであり、「鑑定」に該当しないとはいえないとの見解も一理あるように思える。
他方で、これがベンダー作成のチェックリストではなく利用者自身のチェックリストと比較照合するのみである場合(後述)は、他人に他人の専門知識について話を聞くわけではないことから、「鑑定」に該当しないと考えられる。
また、次のようなケースとの距離をどう考えるべきだろうか。
例えば、法律の専門家が、膨大な契約書案や条項例をまとめて書籍等にしたとする。その書籍等には読者の立場に応じて最適な条項が並べられており、ベストな条項例、ベターな(譲歩可能な)条項例、譲歩できない条項例など、細かく挙げられている。それぞれにつきワンポイントで解説も掲載されている。
その書籍等を購入した会社が、別の会社との売買契約書のドラフトを受け取り、①その書籍等にある売買契約書の例と見比べる。そして、②各条項の解説や自身の立場(売主or買主)と相手方との関係等を考慮して、1つの条項を選択する。
この、専門的な書籍等に掲載された条項例と現実に手元にある契約書ドラフトを見比べる作業が比較照合機能であり、また、立場や関係を考慮して1つの条項を選択するのが修正案提示機能、解説の掲載は修正案解説機能である。
さて、このとき、①②の作業を誰か弁護士以外の者に委託するとしたら…
それは「鑑定その他の法律事務」に該当してしまうのだろうか。①だけなら差分を特定する作業だけだから「鑑定その他の法律事務」に該当しないのだろうか。
私見では、①だけであればそこには評価や判断が伴わないことから、「鑑定その他の法律事務」には該当せず、②についてもチェックリストやフローチャートのような形で、所定の条件に従い、ほぼ機械的に1つの結論・選択が導き出せる形であれば、同様にそこには評価や判断が伴わないことから、「鑑定その他の法律事務」には該当しないと考える。
なお、このとき、専門的な書籍等を執筆し刊行した著者が「鑑定その他の法律事務」を行っていることにはならないのは当然である(「その他一般の法律事件」にも該当しない)。
①-1の機能にはリスク判定も含まれているが、これは人が行うような曖昧な判定ではなく、(具体的な事件を離れて)あらかじめ設定された所定の条件に従い、同じ条件であれば常に同一の結果が機械的に導き出されるものであり、そこには評価や判断が伴わないことから、「鑑定その他の法律事務」には該当しないと考える。
もしリスク判定機能があるために「鑑定その他の法律事務」に該当するようなことがあれば、書籍等において、「この条項はリスクが高い(低い)」と軽々に記載することができなくなるのではないか。
なお、書籍等の場合は事件性で当然排除できるという向きもあるかもしれないが、事件性の有無は個別具体的な事情に左右されるので一概には判断できないというのが法務省見解である。つまり、書籍等は具体的な事件を離れて一般的に記されたものであるが、それを手にとって利用する読者が具体的な事件に際してその記載内容を利用すると事件性がある可能性があるということである(いかに法務省が荒唐無稽かこれでもわかる)。
b. 利用者自身が登録した自社雛形との比較照合等
次に、利用者自らが登録した自社雛形と対象文書を機械的に照合する②-1自社雛形参照型と②-2自社雛形参照型機能制限版について、
②-1の機能は次のようなものであり、それに対して法務省は次のとおり回答した。
この②-1に関する法務省回答がいう「契約書のひな形との比較結果及び利用者が設定した留意事項の表示は、レビュー対象契約書の条項等のうち、あらかじめ登録した契約書のひな形の条項等と異なる部分がその字句の意味内容と無関係に強調して表示され、また、利用者が自ら入力した内容がその意味内容と無関係にそのまま機械的に表示されるにとどまるもの」とは、要するにWord等の修正履歴のようなものだと思われる。
これは、どのファイルと突合するのか/突合すればいいのかという判断のみAI契約書レビューサービスに委ね、突合すべきファイルさえ特定できれば、あとはWord等の比較機能を使っているのと同じことである。
この「突合すべきファイルの特定」という作業にも一定の法的評価や判断があってもおかしくはないが、システム上、単に字面上の類似性を捉えて引っ張ってくるような場合には法的判断はないことから、鑑定には該当しない。
例えば、委託者側の業務委託契約と受託者側の業務委託契約を用意しておき、対象文書の状況として自社が委託者側の場合、委託者側であることと業務委託契約であることを選択すれば、自ずと突合すべきファイルは特定されるため、システムも何もなく、そこには法的判断が差し挟まれることはない。(上記照会書の②-1の機能説明を見る限りこういう仕様のようである)
なお、②-2は②-1からリスク判定・類似度判定・解説を除いたものであり(つまり比較表のみが表示される)、法務省回答も基本的に同一であるため省略する。
(3)蛇足〜弁護士・弁護士法人あるいは社内弁護士の利用に限定する〜
この点、2022年10月14日①法務省回答によれば、弁護士や弁護士法人がその業務として法律事務を行うに当たりAI契約書レビューサービスを補助的に利用するものと評価される場合は弁護士法第72条に該当しない。
また、第2回会議において、法務省参事官によれば、社内弁護士に対してサービスを提供する場合について、当該社内弁護士が補助的に利用するのであれば、弁護士や弁護士法人が利用する場合と同様に考えられるとのこと。
しかし、結論の是非はともかくとして、理論的根拠がまったく不明である。
まず、弁護士や弁護士法人がその業務である法律事務を行うに当たり、パラリーガル等を補助的に用いることは一般的に許容されており、その延長で、AI契約書レビューサービスを補助的に用いることは許容されるだろう。
つまり、弁護士や弁護士法人は、本来業務として、他人の法律事件に関し法律事務を行うわけであり、AI契約書レビューサービスの対象となる契約書の当事者ではない。そうすれば、対象文書との関係でいえば、弁護士や弁護士法人には事件性がない。したがって、上記結論となる。
他方で、社内弁護士は、弁護士資格を有し、かつ、多くの場合弁護士会に登録しているものの、弁護士としてその業務である法律事務を行うわけではない。通常は、所属(勤務)する会社の従業員として、当該会社の法務を担うのである。このとき、会社と従業員の関係が、他人の法律事件に関し法律事務を行うという整理を行うならともかく、基本的に、会社のために従業員が行う法律事務は自己のために行うものあるいはそれと同視されるものとして他人性の要件を満たさない。したがって、社内弁護士がAI契約書レビューサービスを利用する場合、その対象文書との関係では、事件性がある可能性はある。その意味で、社内弁護士が利用しようと素人の従業員が利用しようと状況に差異はなく、「弁護士が利用する場合と同様に考えることができる」わけないのである。(法務省参事官は社内弁護士について無理解を露にしている)
メルクマール
メルクマールとしては、「鑑定」の定義からも明らかなように、ベンダーやベンダーが提供するAI契約書レビューサービスが、法的評価や判断を差し挟むかどうかではないか。
つまり、「法律的見解を述べる」かどうかではないか。
それは次の2点に分解可能だと思われる。
(1) チェックリストは誰が作成したのか
ベンダー作成の場合、対象文書との比較照合のみであれば「鑑定その他の法律事務」に該当しない。
また、ベンダー作成であっても、修正案提示機能や修正案解説機能のアウトプットが所定の条件に従い機械的に導き出されるのであれば「鑑定その他の法律事務」に該当しない。
現時点で多くのAI契約書レビューサービスの機能のアウトプットはこのように所定の条件に従い機械的に導き出されるものとのことである。
したがって、多くのAI契約書レビューサービスの機能のうち、ベンダー作成のチェックリストとの比較照合等はすべて「鑑定その他の法律事務」に該当しない。
(2)自社で作成したチェックリストだとして対象文書との比較照合のみか
自社で作成したチェックリストと対象文書との比較照合のみであれば、「鑑定その他の法律事務」には該当しない。
通常行われているのは、参考となる自社チェックリストの検索とそのチェックリストと対象文書との比較照合のみであり、多くのAI契約書レビューサービスの機能は「鑑定その他の法律事務」には該当しない。
他方で、仮に自社で作成したチェックリストであっても、AI契約書レビューサービスやそのベンダーに委ねる作業が対象文書との比較照合のみでなく、何らかの法的な評価や判断を含む場合「鑑定その他の法律事務」に該当する。
したがって、多くのAI契約書レビューサービスの機能のうち、自社雛形との比較照合や自社で設定したコメントや解説を超えてベンダーが提供する解説等は「鑑定その他の法律事務」に該当する。(おそらく現時点でこのような機能があるAI契約書レビューサービスは存在しない)
小括
これまで見てきたように、多くのAI契約書レビューサービスの機能のうち、核となる機能はほぼすべて「鑑定その他の法律事務」に該当しない。
今後の動向
ここまでが、主要どころのAI契約書レビューサービスと弁護士法第72条(非弁行為の禁止)との関係であるが、規制改革推進会議スタートアップ・イノベーションワーキング・グループの各委員らが口を揃えていうように、本件を弁護士法の問題に終始させることが適切なのかは疑問である。
ともあれ、現行法との関係では、AI契約書レビューサービスにつき問題となりそうなのは弁護士法のみであることも事実。
そこで、次の2つの方向性が示されている。
ガイドラインの制定 → 規制改革実施計画により2023年上期中に措置
登録制度・認定制度の検討 → ?
おそらくガイドラインの方向性としては、「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」のような文書になろうかと思われる。
ガイドラインが公表され次第紹介する予定。
以上