銀行法:銀行の休日に関する規制の緩和!?(銀行法施行規則改正編)

本稿のねらい


以前、「銀行法:銀行の休日に関する規制の緩和!?」という題名で記事を執筆・公開した。

これは、銀行等の①「本店その他内閣府令で定める営業所」の休日承認要件の緩和と、②本店等の一部の営業所以外の営業所につき休日を新たに設ける際の手続を承認制から届出制への変更を企図する規制緩和(銀行法施行令等の改正)につき、2023年10月31日付けで金融庁がパブコメ政令改正パブコメ)を実施したことに端を発したものであった。

上記①の休日承認要件の緩和に関して、「銀行の本店その他の内閣府令で定める営業所」とあるにもかかわらず、政令改正パブコメと同時に当該「内閣府令」に当たる銀行法施行規則の改正案が出されていなかった(なぜ時期をずらしたのかは謎)。

(休日)
第5条
前項各号に掲げる日のほか、次に掲げる日は、銀行の営業所の休日とすることができる。
一 (略)
銀行の本店その他の内閣府令で定める営業所につき、当該営業所の休日としても当該銀行の業務の健全かつ適切な運営を妨げるおそれがないものとして金融庁長官が承認した日
銀行がその営業所(前号に規定する営業所を除く。)の休日として金融庁長官に届出をした日

銀行法施行令等の一部を改正する政令(案)【新旧対照表】

そこで、銀行法第15条第1項と同法施行令第5条第1項以外の日を休日とすることにつき引き続き金融庁の承認を要する「銀行の本店その他の内閣府令で定める営業所」(要承認営業所)を指定するべく、2023年12月15日、金融庁は「銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)」(本改正案)等につきパブコメに付した。

本稿は本改正案について簡単に紹介する記事とする。


本改正案の内容


(1) 要承認営業所

本改正案は、次の2つの営業所を要承認営業所に指定している。

  • 本店(外銀支店は主たる外銀支店)

  • 銀行の危機管理に関する事務その他の銀行業務の健全かつ適切な運営を確保するために必要となる事務を統括する営業所

(休日の承認等)
第15条
令第5条第2項第2号に規定する内閣府令で定める営業所は、次に掲げるものとする。
本店(外国銀行支店にあつては、法第47条第1項に規定する主たる外国銀行支店)
災害その他の事象が発生した場合における銀行の危機管理に関する事務その他の銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保するために必要となる事務を統括する営業所(前号に掲げるものを除く。)

銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)【新旧対照表】

既設置の本店については要承認営業所に指定されることも理解できるところである。他方で、新設の本店について届出で足りずに承認が必要であるとすることは理解できない(この点は以前の記事で触れた)。

また、本改正案では本店のほか危機管理に関する事務を統括する営業所が要承認営業所として指定されている。

この「危機管理」については銀行法令上は銀行法施行規則にのみ明記されている。

(銀行による銀行グループの経営管理の内容等)
第17条の5の3 法第16条の3第2項第1号に規定する方針として内閣府令で定めるものは、次に掲げる方針とする。
 (略)
 災害その他の事象が発生した場合における銀行グループの危機管理に係る体制の整備に係る方針

銀行法施行規則

(銀行持株会社による銀行持株会社グループの経営管理の内容等)
第34条の14の3 法第52条の21第4項第1号に規定する方針として内閣府令で定めるものは、次に掲げる方針とする。
 (略)
 災害その他の事象が発生した場合における銀行持株会社グループの危機管理に係る体制の整備に係る方針

銀行法施行規則

これを受けて、金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針(令和5年6月23日適用)」には次のように記載されている。

Ⅲ-8-2 平時における対応(2)主な着眼点
④ 危機発生時における責任体制が明確化され、危機発生時の組織内及び関係者(関係当局を含む。)への連絡体制等が整備されているか。(中略)
危機発生時の体制整備は、危機のレベル・類型に応じて、組織全体を統括する対策本部の下、部門別・営業店別に想定していることが望ましい。

主要行等向けの総合的な監督指針(令和5年6月23日適用)316−317頁

【参考】りそなグループの危機管理体制

りそなホールディングスウェブサイト

この点、BCP(Business Continuity Plan)に関してはデータ等のバックアップ体制については地理的に分散させることが要求されているところであるが、BCP対応を行う営業所を分散させることはあまり聞いたことがない。

Ⅲ-8-2 平時における対応(2)主な着眼点
⑤ 業務継続計画(BCP)においては、テロや大規模な災害等の事態においても早期に被害の復旧を図り、金融システムの機能の維持にとって必要最低限の業務の継続が可能となっているか。その際、全国銀行協会及び他の主要行等と連携し対応する体制が整備されているか。また、業務の実態等に応じ、国際的な広がりを持つ業務中断に対応する計画となっているか。 例えば、
イ.災害等に備えた顧客データ等の安全対策(紙情報の電子化、電子化されたデータファイルやプログラムのバックアップ等)は講じられているか。
ロ.コンピュータシステムセンター等の安全対策(バックアップセンターの配置、要員・通信回線確保等)は講じられているか。
ハ.これらのバックアップ体制は、地理的集中を避けているか。
ニ.個人に対する現金払出や送金依頼の受付、インターバンク市場や銀行間決済システムを通じた大口・大量の決済の処理等の金融機能の維持の観点から重要な業務を、暫定的な手段(手作業、バックアップセンターにおける処理等)により再開(リカバリー)するまでの目標時間は具体的に計画されているか。インターバンク市場や銀行間決済システムを通じた大口・大量の決済の処理等、特に重要な金融決済機能に係る業務については、当日中に再開する計画とされているか。

主要行等向けの総合的な監督指針(令和5年6月23日適用)317頁

そもそも、「本店」とは「銀行の業務を統括する施設」であり(銀行法施行規則第8条第2項)、BCP対応も当然に統括することになると思われ、本店以外の営業所がBCP対応を行うことなどあり得るのだろうか。

(2) 承認申請等のプロセス

本改正案は、銀行法施行令第5条第2項第2号による承認を受ける場合や同項第3号の届出を行う場合の手続についても、一部変更を行うものである。

つまり、現行のプロセスでは、承認に関して理由書や休日とすることの店頭掲示の方法を承認申請書に添付して金融庁に提出すれば足りたところ(現銀行法施行規則第15条第1項)、次の2つの変更がなされる。

  • 承認要件に該当すると判断した理由にかかる記載がある理由書を添付しなければならないこと【別紙様式3-2、3-2の2】

  • 既に設置されている営業所(本店等を除く)につき銀行法施行令第5条第2項第3号の休日設定の届出を行うに際しても上記理由書の添付が必要であること【別紙様式4-10、4-10の2】

(休日の承認等)
第15条

銀行は、令第5条第2項第2号の規定による承認を受けようとするとき、又は同項第3号の規定による届出(同号に規定する営業所を設置する際に当該営業所についてするものを除く。)をしようとするときは、承認申請書又は届出書に次に掲げる書面を添付して金融庁長官等に提出するものとする。
一 理由書(次に掲げる事項に係る記載があるものに限る。)
イ 金融機関相互間の内国為替取引を通信回線を用いて処理する制度の運営に支障を及ぼすおそれがないこと。
ロ 当該承認の申請又は届出に係る営業所の顧客の利便を著しく損なわないこと。

銀行法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)【新旧対照表】

ここでいう承認要件とは、次の2点である(現銀行法施行規則第15条第2項各号⇢本改正案により同条第3項に移動)。

  • 金融機関相互間の内国為替取引を通信回線を用いて処理する制度の運営に支障を及ぼすおそれがないこと

  • 当該申請に係る営業所の顧客の利便を著しく損なわないこと

「主要行等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)【新旧対照表】7頁
※別紙様式3-2の2の抜粋

以上

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