昔頑張ってくれた自分から今の自分へのご褒美みたいな出来事があった
日曜の昼下がりに新宿の細道を歩いている。
高層ビルの18階で工事していてた俺は、突然必要になった工具を離れた駐車場まで取りに行く道すがらの出来事。
新宿とは言え日曜のオフィス街の裏通りなんて人が歩いていることも珍しい場所があるんだなぁ、なーんて思いながらぼんやり歩いていた。
そこへ突然音もなく後ろから1台の自転車がすり抜けていった。
そいつはウーバーイーツのバッグを背負ってて、100m位前まで走って止まり、スマホを覗き込んだ。
地図で依頼主の場所を確かめているんだろう。
「お前さんも大変だねぇ」
とそれを見て何の気なしに小声でつぶくやく。
空を見上げると快晴。気持ちのいい冬の青空。
さっきまでの自分は、日曜の昼間に現場に人を待たせて、かったるいなっていう気持ちでトボトボと歩く疲れた奴だった。
不思議なもんで、そのウーバーイーツの人を見て、やったこともないのに若かった頃の自分とダブったんだ。
働くしかない。働いて金を稼がなきゃ家賃も払えない。住むところがなくなるんだ。
時給のいいバイトや、日雇いのバイト。一日一日、今日いくら稼いだかが重要で、明日仕事があることが次に大切で、それが確保できた後は、ビールがうまかった。
あのウーバーイーツの人もきっと頑張っている。
頑張って稼いだ金で生きていくんだ。
こんな仕事をしているが今の俺は、割と高給取りだ。
あの頃の俺の頑張りが、今の俺を作ったんだ。
それを思い出させてくれてありがとう。まだまだ俺もがんばるよ。
まだ止まってスマホの画面を見ている人の横を通り過ぎるときに、そう心の中でつぶやいた。
5m程過ぎたあと、ふとその人の顔を見てみたくなり、不自然にならない感じで振り返ってみた。ら。
俺の2m後ろにおっさんがいた。まったく気づかなかった。
俺、おっさん、ウーバーイーツ、の密集地帯が一瞬そこに出来あがった。
顔を見ることなんかどうでもよくなった。そんなことよりも真っ先に思ったのは、さっきの独り言はこのおっさんに聞かれていたのだろうかということだった。
突然舞い込んだ恥ずかしさ。
過去に逆の立場でこの感じになったことがあった。
ずっと前のこと。
俺がおっさんの後ろを歩いていた時に、そのおっさんが、黄昏るように吐き出したその言葉を聞いて、心の中で同調していた。
「やるせないでやんすなぁ」
って確か言ってたと思う。
心の中で、やるせないでやんすねぇ、わかるよおっさん、ってつぶやいた俺がいた。
その時のことが脳裏をよぎった。
思い返せば、すごく貴重ななんだか心がふわふわする好きな思い出だった。
ウーバーイーツの顔は見えなかったが、おっさんの顔は一瞬見えた。
いい表情だった。
共感なのか、何かを思い出していたのか。
きっとさっきの俺と同じ。
きっとあの時の俺と同じ。
そう思うことにして、恥ずかしさよりふわふわした好きな思い出をもう一つ増やした。