山田君 不動産で世を渡る(プロになる)※平成バブル 曙橋立退き・追出し交渉
俺は今、信濃町の社長に対峙している。曙橋の賃貸マンションの買取相談だ。この物件の所有者は法人である。
この所有会社は軽井沢の弁護士先生と信濃町の社長の会社のペーパーカンパニーであることは後でわかった。
建物の由来はこうであった。
ある政治家が金に困った。先生が事件にかかわった。先生はその政治家から自宅の土地と賃貸マンション2棟を引き取り対価を支払った。政治家の自宅はどうやら妾宅であったらしい。いくで取得したかは不明であるが、相当安く取得し、家賃収入ですでに購入資金を上回って十分採算は取れている。
そこに土地の値上がりがあり、老朽化したマンションを手放すことに。
俺は正直に、土地は300坪あるが用途地域・高さ規制でボリュームが取れない。リノベーションは不可能で立退きして新築を建てるか、更地で転売するしかない。と言った。
社長は机にもどって賃貸借契約書のひな型を持って俺の前に現れた。どうやら社長も自社で立退きを行い、新築計画は立てていたようだ。
その賃貸借契約書の条文の中に特約として、「本物件は老朽化が進んでいるため建替えを行う予定である。よって貸主の申し出により解除できることとする。ただし解除の申し出は3カ月前にしなければならない」
これはほとんど無効の条文に近い。貸主の地位より借主の地位を保護する借地借家法が適用されるからだ。
ただ全部の部屋の契約書に更新時にこの特約が付された契約書を使っていた。
不安な気持ちがさらに俺を苛める。もし立退きが長期化したらプロジェクト融資の期限が来て返済しなければならない。
カバンの中の収支表を覗いてぼーっとしていた俺に、信濃町の社長がその収支表をのぞきこんだ。そこには購入金額6億9千万円と書かれている。
社長が「この価格でいいよ」といった。立ち退きには全面的に協力するといってくれた。
腹は決まった。やるしかねえ。
俺は会社にもどり部下と居酒屋(さくら水産)に向かった。
さくら水産のめちゃめちゃ強いウーロンハイで悪酔いした。
いつか自腹で銀座で飲みたい?いや俺は安い居酒屋が居心地がいい。
いつも一人で悩んでいたが、今は部下がいる。明日への成功と不安を安い酒で流しこむ。仕入れマンの夜は更ける。