いじめを受けて限界に達し、警察を呼んだ。いじめの中心人物は学校から消え、クラスメイトから恐れられるようになった。しかし、風紀委員や学級委員、生徒会などの美少女から好まれ、興味を持たれた第13話 手作りお弁当
「ねぇねぇ。屋上で一緒にご飯食べない?」
次の日の昼休み。突入直後。
食堂に足を運ぼうと席を立ち上がった晴斗は、祐希から誘いを受ける。
同じクラスな点では祐希は架純よりもアドバンテージを持つ。架純は他のクラスなためだ。
祐希の手は2つの弁当袋を握る。
「それは構わないけど。俺、今日は昼食がないから購買で買ってきていい? 」
ゴソゴソ。
学生カバンから晴斗は財布を取り出す。
「大丈夫! 白中君は購買でご飯を買う必要はないから」
にこっと微笑み、祐希は片方の弁当箱を手渡す。
晴斗に渡った弁当袋は青色。祐希が手に所持する弁当袋はピンク色だ。
渡された袋の中身がわからない。
晴斗にとって想像もつかない。
そのため祐希の言葉の意味も解釈できない。なぜなら袋の中身が弁当箱だと認識していないのだから。
「とにかくまずは屋上にいこ!」
楽しそうに祐希は背中の後ろで手を組む。
「わかった」
祐希にも何かしら考えがあるのだろう。そう決定付け、晴斗は祐希と共に屋上に移動した。
「うわぁ〜。ここが屋上か〜。私、初めて訪れたんだよね!」
屋上に足を踏み入れるなり、探索するように祐希は屋上のフロアを周回する。
「そうなんだ。頻度は少ないけど俺は時々、屋上で昼食を取ってるよ」
(もちろんボッチ飯してんだけど)
胸中の自虐だ。決して表出させない。相手を不快にさせる可能性があるから。
「そうなんだ。あっ! あそこにベンチがあるから座ろうよ」
長ベンチを指差した後、いち早く祐希は腰を下ろす。
晴斗も祐希に倣って長ベンチへ座る。
「この中身気にならない? 」
強引に祐希は距離を詰めてくる。
手やスカートから伸びる太ももなどが晴斗に触れる。
「それは気になるけど」
自然と祐希の純白な素足に目が行く。だが、すぐに視線を逸らす。祐希の顔を視界に収める。
「…開けてみて」
わずかに頬を祐希は染める。些か恥ずかしそうだ。
「うん。じゃあ遠慮なく」
弁当袋を開けた。すると、2段式の弁当箱が姿を現す。色は弁当袋と同様に青だ。
「もしかしてお弁当? 」
「うん。私の手作りなの。美味しいか定かではないけど。一生懸命作ったから食べてくれないかな? 」
恥ずかしそうにモジモジしながら、消え入りそうな声で祐希は答える。
(くっ! 可愛すぎる。こんなの食べないわけないだろ!)
無我夢中で弁当箱を開封する。同級生の女子から手作り弁当なんて初めてもらった。初体験だ。
気分の高揚を止められない。
「うわぁ〜。美味しそう〜〜」
自然と晴斗の口から漏れる。
弁当箱の1段目にはタコさんウィンナーに卵焼き。きんぴらごぼうやブロッコリーが居場所を作る。
バランスよく弁当箱内に設置される。
2段目にはオムライスが詰まっていた。半熟の卵に程よくケチャップが載る。
「褒めても何も出ないからね」
未だに頬を赤く染めながら、祐希は俯く。決して視線を合わせない。
「必要ないよ。俺は弁当をもらってるんだから」
嬉しくて堪らない晴斗。女子から手作り弁当であり、しかも美少女の祐希の特製だ。
大抵の男子は大喜びするはずだ。
「食べてもいいかな?」
「うん。いいよ」
作り主の祐希に確認を取る。
晴斗の顔を窺いながら、祐希は頷く。
「では、いただきます!」
律儀に手を合わせ、晴斗はタコさんウィンナーを口に運ぶ。
勢いよく噛み、咀嚼する。
ジュワッとタコさんウィンナーの甘い風味が口内に拡大する。
「…どう? 」
緊張した面持ちで、祐希は感想を求める。不安そうでもある。
黙って晴斗は咀嚼中だ。
「うん! 美味しい!」
素直に出た感想だった。嘘偽りは存在しない。
女子からの手作りといった補正もあるが、生涯で口にしたタコさんウィンナーでベストな味だった。
タコさんウィンナーのジューシーな味が未だに晴斗の口内を支配する。
「本当に! よかった〜」
喜びというよりかは、安堵して祐希は胸を撫で下ろす。深呼吸するように軽く息も吐く。
少なからず、祐希の胸中には不安が渦巻いていたのだろう。
「他にも食べてね」
「もちろんだよ! 次は卵焼きをいただくね」
次々と晴斗は口内へ弁当箱の中身を運んだ。卵焼き、ブロッコリー、オムライスの順に。
どれもすべて美味だった。味付けも薄すぎ濃すぎず、程よいレベルだった。
その甲斐もあり、晴斗は10分ほどで弁当箱の中身を全て食べ尽くす。ガツガツと。
「ごちそうさまでした! 最高だった!!」
大満足で晴斗は弁当袋を祐希に返す。丁寧に弁当箱を元の状態に戻して。
「本当に! 白中君が望むなら毎日は厳しいけど週2、3回は作ってこようか? 」
「マジで! 是非お願いします! 」
食い気味に晴斗は前のめりになる。
「ちょっと…近い」
祐希はわずかに逃げるように距離を作る。声は儚げだ。
「あ…。ごめん」
自分の行動を恥じた。いくら嬉しい出来事だったとはいえ我を失っていた。
「ううん。いいよ。私も距離を作ってごめんね」
再び、ゆっくり祐希は晴斗へ距離を詰める。まるで関係性を発展させるように。
その証拠に、先ほどよりも手や足の接触部分が増加する。