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風を治すクスリ〜先輩一年生〜

「じゃあ、君が新田さんの指導係ね。」

初めての後輩。
それは、俺が初めて誰かの先輩になることを意味する。

「先輩、よろしくお願いします。」
リクルートスーツ姿の新田さんは、うやうやしくお辞儀をした。

「おう!わからないことがあったら、何でも聞いてな。」
俺は新田さんにPCの設定、勤怠の付け方、営業の流れなど、つきっきりでレクチャーした。新田さんは素直で飲み込みが早く、何でも教えたくなってしまう。

俺たちのやり取りを見ていた、上野課長がクスクスと笑っている。
「何ですか?課長。」
課長は笑いが止められずに手を仰いだ。
「いやいや…お前も先輩になったなあ…って、まあ、頑張れよ。」

何だか、にわかに恥ずかしくなった。
一番下だった自分が、先輩になったからと言って、調子に乗ってるとか思われてるんじゃないか。

もしかして…「先輩風吹かしてる」ってやつ…?

「ちょっと、新田さん連れて外回り行ってきます!」
俺は慌てて外に飛び出した。新田さんも少し戸惑いながらついてくる。

外は白い息が出るくらい寒かった。
何を話しても、「先輩風吹かしてる」ように思えて、言葉が出てこない。
しばらく無言で歩いた。

すると…

「…先輩、風ですか?」
新田さんまで、そんなこと…

えっ?
顔を上げると、こちらを心配そうにのぞきこむ新田さんと目が合った。

「なんか、顔が赤いんで…風邪かな?って。バファリン、ありますよ?」

(了)


田原にかさんの「 #毎週ショートショートnote 」に参加しています。
テーマは、「 #風を治すクスリ 」。

「風邪」と「(先輩)風」の間の微妙なラインを狙いました。セーフかアウトかは分かりません。

自分が先輩になってる姿って、それより上の先輩や上司に見られるの恥ずかしい気がします。ただ、後輩に後輩ができて、お兄さんorお姉さんしてるのは大変可愛いです。

ちなみに、新田さんは女性or男性、(私は)どちらでも問題ありません。


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亜麻布みゆ
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