中世の本質(29)村自治

 村自治は西欧諸国の都市自治に匹敵するものです。規模や内容は大きく異なりますが、自治が行われたという事実は同じですから。村内の農民はみな対等でした。村には特権階級が存在しません。従って村の支配者は農民自身です、しかし農民は彼ら自身を支配する真の支配者を造りました。それが村法です。村法は農民たちの合意です。
 村法は村を運営するための指標であり、そして生活を送る上での基準です。農民たちは寄合を持ち、村法の下、村内の諸問題を討議し、多数決をもって処理し、村を自主的に運営していったのです。
 村自治は農民たちに自治精神を叩き込みました。自治の核心は農民の結束です。周囲の敵から村を守るためには村の結束が一番です。村の内部分裂は決してあってはならない。それは敵を喜ばせるだけであり、敵の襲撃を誘発するからです。  
 農民たちはすでに幾度も身をもって結束の大切さを痛感していたのです。そのために合意を重視しました。村の寄合においてそれぞれ意見を主張することは大事なことですが、同時に自制をし、妥協をし、皆の合意を形成することはさらに大事なことでした。
 その結果、農民たちは自治の精神を身につけます。それは自律、法治主義、多数決の原理、そして自制の精神などです。一言で言えば民主主義の精神です。勿論、それは素朴なものであり、未熟なものでありましたが、それでも中世において民主政治の原形が誕生し、現代を準備していたことは画期的なことでした。
 中世人は二つの大切な精神を獲得しました。それは双務契約からもたらされる誠実さの精神と自治からもたらされる自治の精神と、です。それは中世の宝であり、そして人類にとっての宝です。村自治や都市自治はやがて<国自治>へと転じていきます。国自治とは民主政治のことです。国自治は現代化革命において成立します。
 すなわち民主政治とは法(憲法)を支配者として国民が自国を自主的に運営することであり、それは農民や都市民が法(村法や都市法)を支配者として村や都市を自主的に運営したことと基本的に同じです。そして国民(の代表)が議会(寄合)を設けて諸問題を自律、法治主義、多数決の原理、自制の精神などをもって解決する。
 日本や西欧諸国が今日、法治国として認められていることは偶然なことではないのです。両者は中世世界を造り、契約社会に生き、そして数世紀に渡り、村や都市の自治体を運営してきた、そしてその結果、両国の国民は中世の精神を確実に培ってきたのです。その精神が法治主義を確立し、その上で民主政治を正常に機能させているのです。

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