【ショートショート】わたしわたしわたし #赤ブラ文学部
「なんでおとなになったのにわらってないの!」
「ごめんね」
「おもってたのとちがう!」
「ごめんね」
こんなはずでは、とわたしでさえ思っているのだ。
5歳のわたしに30歳のわたしは、ただただ謝ることしかできなかった。
ほんとうにごめんね。ごめんなさい。5歳のわたし。
「あらあら、なにいってるの。大丈夫よ」
目をうるませながら謝るわたしの側に、いつのまにかふくよかな白髪の女性が微笑んでいた。
「あなたは……」
「わたし? わたしは80歳のわたし」
そういうと白髪の女性はわたしを抱きしめた。
「わたしが頑張ってきたことは、わたしがいちばん知ってるわ」
わたしはないた。80歳のわたしにしがみつき年甲斐もなく大声で泣いた。
しばらくすると、わたしを抱きしめたそのひとの手がすこし緩み、5歳のわたしの頭をなでたあと、ひとことふたこと語りかけ霧のように消えた。
5歳のわたしは不思議顔のまま、泣きながら笑っているわたしを見つめていた。
80歳のわたしは5歳のわたしにいっていた。
「かわいい。あなたはわたしの孫によく似てるわね」
こっそり募集に参加します。
山根あきらさん、よろしくお願いします。