マイク・フォードで語るMLBとNPBの選手契約<後編>
こちらの投稿は、下記リンク記事の後編となりますので、よろしければ前編からお読みください。
2021年:終わりなき旅のはじまり
NYYからTB(タンパベイ・レイズ)へ
2021シーズンも引き続き低調な成績(6月時点で打率.130)が続いていたフォードにチームもついに、見切りをつける。
NYYは、ザック・ブリットンを故障者リストから、復帰させる枠を空けるため、フォードをDFAとした。
その後、TB(タンパベイ・レイズ)とNYYとの間でトレードが成立。NYYは見返りとして、TBから22歳の若手内野手と金銭を獲得する。対価の内野手は有望株(プロスペクト)とはいえないレベルの選手だったが、対価を得られていることから、フォードが完全に戦力外と見られてはいなかったことが伺える。TBは、怪我がちのチェ・ジマンのデプスとしてフォードを獲得したようだが、結局一度もメジャー昇格することなく、8月に再びDFAとなった。
ちなみにフォードが移籍する1カ月前に筒香選手がDFAとなっており、後にDenaでチームメイトになる両者だが、この時点ではすれ違うだけに終わっている。
シーズン2度目のDFA、WSH(ワシントン・ナショナルズ)へ
WSH(ワシントン・ナショナルズ)とはトレードが成立せず、ウェイバー移籍。フアン・ソトをはじめとする主力の放出により、スカスカとなったロースターの、穴埋めとしての獲得だったようだが、ここでもメジャー昇格できなかった。
最終的に、2球団からDFAされたフォードは、WSHのマイナーでシーズンを終え、シーズン後にノンテンダーFAとなった。
2022年:シーズン5度のDFA
本格的にジャーニーマン化
2022年のフォードは、昨年よりさらに慌ただしくチームを移り変わった。
オフにSEAとマイナー契約を交わし、26人枠(アクティブ・ロースター)入りするも、試合に出場することなくDFAとなった。
ウェイバー公示されたフォードは、金銭トレードで、SF(サンフランシスコ・ジャイアンツ)に移籍するも、1試合に出場したのみで再びDFAされる。
そして、再び金銭トレードでSEAに舞い戻った。この間わずか2週間である。
今シーズン二度目のSEAでも、結果を残せず、再びDFAとなると、ATL(アトランタ・ブレーブス)がウェイバーで獲得。
ATLでもわずかな在籍期間で、DFAされFAとなったフォードは、LAA(ロサンゼルス・エンゼルス)とマイナー契約を交わす。すでにワイルドカード争いからも退き、ただシーズンを消化するだけのLAAで、メジャー昇格を果たしたフォード。やっと落ち着いて試合に出場できるようになり、シーズン初本塁打(結局、2022年の計3本のホームランはLAAで記録)も放った。
だが、シーズン終盤に、IL(故障者リスト)からアンソニー・レンドンが復帰するに伴い、LAAはフォードをDFAとした。フォードにとっては、これがシーズン5度目のDFAとなり、アメリカ中を駆け巡ったシーズンも幕を閉じた。
穴埋め要因として使い捨てにされた1年
2022年のフォードは、4チームを渡り歩くも(SEAとは2度も契約している)、怪我人の穴埋めや、主力が怪我した場合の保険で獲得されているため、出場機会は限られたものだった。
このような穴埋め要因は用が無くなればすぐにDFAとなる厳しい立場である一方、球団からは、その使い勝手の良さから重宝がられているのもまた事実である。
怪我人が出た場合、傘下のマイナーから若手の有望選手を昇格させて穴埋めすることもできる(NPBでは、多くの場合この措置が取られる)。
ただ、主力が復帰すれば、有望選手をマイナー・オプションを消費してマイナーに降格させなければならない。無駄にマイナー・オプションを消費させるくらいなら、フォードのような選手で、一旦穴埋めし、主力の復帰とともにDFAした方がコスパがいいのである。
MLBは、ともかくパイが大きいので、FA選手かシーズン中でも山ほど転がっており、ダメなら次とばかりに獲得してはDFAを繰り返すことも可能である。特に数が必要で、消耗の激しいブルペン投手は、怪我人が戻ってくるまでの穴埋めとして獲得されることが多い。
2023年:復活のフォード
SEAとマイナー契約
2022年オフにSEAとマイナー契約を結んだフォード。
2023年シーズンが始まると、SEAのマイナーで打ちまくり(打率.302/出塁率.427/長打率.605/wRC+143)、メジャー昇格に十分な成績を残すも、球団からマイナー漬けにされる。このあたりの事情は定かではないが、マイナーオプション切れのフォードを昇格させ、成績が振るわない場合、フォードをDFAしなければならない。そうなると他球団に獲られる可能性があるため、できるだけ長く支配下に置いて置きたいという思惑があったのだと思われる。
だが、好調を維持している間にメジャー昇格を果たしたいフォードは、契約時に取り交わした、オプトアウトの条項を6/1に行使した。
これにより、SEAは2日以内にフォードを26人枠に入れるか、FAとするか選択を迫られ前者を選んだ。
メジャー昇格後結果を残すも…
メジャー昇格を果たしたフォードは、主に右投手相手にプラトーン起用されキャリア最多の83試合に出場。打率.228/出塁率.323/長打率.475/wRC+123と打者不利のT-モバイル・パークにおいて素晴らしい成績を残す(wRC+はチーム4番目の数字)。2019年のデビューイヤーに並ぶ活躍をみせた。
復活の1年となったフォードだったが、SEAからは来季の契約を得られず、ノンテンダーFAとなった。来季のチーム目標に三振数の減少を掲げているSEAとしては、三振率が32.3%と多いフォードは構想外であり、守備も一塁に限られ(一塁守備も上手くはない)、使い勝手が悪いことも契約を見送られた原因と思われる。
また、既にマイナー・オプションが切れているため、契約を継続したとしても来季成績が下降すればマイナーに落とすこともできず、DFAとするしかない。その場合フォードに割いていた枠は全く無駄になるので、ロースター編成上もフォードと契約するメリットは薄かった。
NPBのように、とりあえず契約してダメだったら2軍に送ればいいというわけには、いかないのがMLBなのである。
SEAは、フォードのFAによって空いた40人枠にルール5ドラフトでの流出を防ぐ目的で、外野手の有望株、ザック・デローシュを割り当てた。
何の実績もないが、最低年俸で3年コントロールできる若手有望株の方がフォードより価値があるとSEAは判断したのである。デローシュは、そのすぐ後、CWS(シカゴ・ホワイトソックス)とのトレードでグレゴリー・サントスの対価として活用された。
このように、選手登録枠(ロースター)の制限が厳しいMLBでは、フォードのような実績の乏しい中堅選手は1シーズン活躍したくらいでは契約を継続させてもらえないのが現実である。
↑2023年のフォードのホームラン集
2024年:CIN(シンシナティ・レッズ)との短い付き合い。
CINとマイナー契約
2023年オフ、FAとなったフォードは、CINとマイナー契約を交わしスプリングトレーニングに参加。10試合で、打率.455/出塁率.486/長打率.727、3本塁打と最高の結果を残す。
しかし、打撃成績では圧倒的に上回りながらも、外野も守れ、マイナーオプションも一つ残っていたニック・マルティーニとのロースター争いに敗れてしまう。
CINから見限られたフォードは、FAとなるが獲得する球団は現れず、再び3/28にCINとマイナー契約を交わした。
開幕をCINのマイナーで迎えたフォードは、打率297/出塁率.381/長打率.538/6本塁打と打ちまくっていたが、メジャー昇格は果たせず、5/1にオプトアウト。昨季のSEAと同じパターンだが、CINはフォードのロースター入りを回避し2度目の解雇を選択。
だが、そのすぐ後に一塁手のレギュラーだった、クリスチャン・エンカーナシオン=ストランドが負傷により長期離脱。CINは、その穴埋めとしてフォードとメジャー契約を交わした。
メジャー昇格を果たすも結果を残せずDFAに
念願のメジャー昇格を果たしたフォードだったが、マイナーでの好調を維持することはできなかった。17試合に出場し、打率.150/出塁率.177/長打率.233/1本塁打と惨憺たる結果に終わる。この間BABIP.182と運にも見放され、5/29にDFAとなりマイナー降格を拒否してFAとなった。
CINと情緒不安定なカップルのように別れてはよりを戻すを繰り返していたことが示す通り、もはや今のフォードを受け入れてくれるMLB球団はCIN以外には無く、1カ月以上FAの状態が続くことになる。
フォードの旅(ジャーニー)は、ついに国境を越える
新天地日本へ
7/5、NPBの横浜DeNAベイスターズが、フォードの獲得を発表。同じく一塁手のタイラー・オースティンのバックアップ、怪我で離脱した筒香に代わる左の長距離砲としての獲得だった。
国が移り変わっても、穴埋め要因としてしか見られていないところにフォードという男の悲哀があるのだが、ある意味起用法や期待度も変わらないので、そこはやりやすいかもしれない。
現在、二軍で調整中とのことなので、順調にいけばオールスター明けに1軍登録となる見込み。バレルに打ち込む技術はMLBでも群を抜いており、歴史的な打低シーズンを送るNPBで自慢の長打力が発揮できれば十分活躍のチャンスはあるだろう。
ここが旅の終着点なのか、通過点に過ぎないのか、それは、フォード自身にもわからない。彼のようなジャーニーマンにとって、終着点は彼自身が決めるものではなく、場所は違えど戻ってくるいつもの場所、バッターボックスに立つ機会を誰からも与えられなくなる時なのだから。
最後に
MLBでは活発な移籍市場を前提に選手個人が、球団を渡り歩きながらキャリアを磨いていく。能力が不足していれば、シーズン中でも解雇されるし、選手側も球団に「NO」をつきつけFAとなることもできる。球団と選手は対等でありお互いにルールを守ってビジネスライクに対応する。
一方、移籍市場が閉鎖的なNPBでは、新卒一括採用式にドラフトで指名され、一つの球団でキャリアを終えることが望ましいとされる。シーズン中は解雇されることもないし、トレードされることもほとんどない。球団と選手は平等ではなく、FA権を獲得するまで、選手側からFAとなることはできないが、球団側も選手との契約をできるだけ継続するように努めることが期待されている。
もし、フォードのような選手がNPBにいたしたとして、最初の球団で選手層の厚さに阻まれたが最後、1軍で何試合か試されてダメなら、そのまま引退していた可能性が高い。
フォードのようなドラフト下位の選手にとっては、何よりも出場機会を得ることが大事であり、飼い殺しを防ぐ様々なルールが充実したMLBのほうが、そのチャンスは、はるかに多いのである。
個人的に、NPBの移籍市場の活発化は、どんどん進んでほしいと思う。交流戦MVPに輝いた水谷瞬が、現役ドラフトがなければ今も二軍で飼い殺されていたと思うとうすら寒いものを感じるのは自分だけではないはず。
恐らく今まで、選手層の厚さに押しつぶされて、飼い殺しにされて消えていった選手は想像以上に多いのではないだろうか。
もちろん、移籍市場が活発化すれば割を食う選手が当然出てくるし、競争が激化すれば、生え抜きだから、ドラフト上位だからという理由で起用されていた選手の出場機会は減るだろう。
だが野球界全体のことを考えれば競技レベル向上のためにも、FA権取得年の短縮や、それに付随する年俸調停権獲得の後ろ倒しなどMLBに近い選手契約へ変更するべきだと個人的には思っている。
予想以上に長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。