青天の霹靂7(豪造が倒れている)
後日、薬のビンに毒を混ぜた犯人は捕まった。何でも、結婚翌日に奥さんが飲酒運転の車に跳ねられ亡くなったらしい。同情はするが、だからといって共感はしない。
でも、その男の言葉には頷くものがあった。その男がいつか復讐したいと思っても、犯人はもう檻の中のため、手が出せない。何でこの国は犯人の人権は言うのに、被害者の人権は言われないんだと言ったと言う。何故、被害者は守られず、犯人である加害者は守られているんだ。と、男は嗚咽した。
確かになと、廉夏も思った。何でこの国は被害者に優しくなく、加害者を守ろうとするのか? それがずっと不思議だった。何でだろう? 一番に考えるべきは、被害者じゃないのか? 何故、この国は加害者を守るのか。被害者が可哀想過ぎる。
それを廉に言ったら、たぶん戦争に負けたことで負け根性が国民に叩き込まれているのだろうと、言った。それが、何でと廉夏は聞く。戦争では、国のために闘ったのに、罰せられ、正義とは何なのかを考えさせられる。国のために、闘い負けたら、守ってももらえず、人権何かまるでない。可笑しくないかと、廉に言ったら、それが負けた側の人間、何だと返ってきた。
だからといって、これから幸せになろうとする人が妬ましかったと、出入り業者の男が言ってたそうだ。なんて、自分勝手な奴だ。
さらに、豪造が、注意をしていた犯人は、なんと他の式場で捕まったらしい。どうやら、式場を間違えたらしく、他の人の式場に潜り込んだらしい。その人に詫びに行けば、式場のサプライズだと思ったらしく、笑っていた。何て、お粗末な結果だ。廉夏は腹を抱えて、笑った。廉はそれを聞いて呆れていた。もっと、きちんと下調べをしろよ、式場を間違えるなんて、ナンセンスだ。きちんと下調べぐらいしとけよなと、廉夏も、思わずにいられなかった。だから、あの女性の事ではなかったらしい。これには、廉も頭を抱えた。犯人がきちんとしてくれないと、意味がないと。
「キョェ~」
結婚式から、1週間後。庭から何とも、変な雄叫(オタケ)びと、いうか悲鳴がした。廉夏と冬眞は何事かと駆けつけると、そこには豪造がひっくり返っていた。頭には何か、打ち付けたと思われる傷が有り、他にも足には擦過傷があった。
『いったい何が?』
近くには、下駄が落ちている。
「やっぱり、事故とかかな?」
運悪く飛ばした下駄が頭に当たったに違いないと推理を廉夏が披露すれば、冬眞は笑いながら否定する。
「それこそ考えられないでしょう。あの悪運の強さには、僕でも惚れ惚れしますから。たまたま通りかかった人の頭の上に落とすことはあっても、自分の上になんて、万に一つもありませんよ。それよりは、豪造さんももうお年。もう、何時お迎えがきてもおかしくはありません」
「えー、それこそ考えられないよ。お爺様を迎えにこれるような剛胆で気概がある死神がいるとは、到底思えないわ」
いるなら会わせて見ろと言うように、胸を張って言えば。
こちらは、淡々と冬眞がその案を否定する。
「それを言うなら、事故の可能性も低いのじゃあありませんか?」
「どうしてよ?」
冬眞は褒め言葉のつもりで言う。ただし、聞いている者にとってはそう感じないものだったが。
「あの豪造さんですよ。廉夏ちゃんがおっしゃったように、死に神も裸足で逃げていくでしょう。だから、事故なんてことは万に一つもありえません」
「じゃあ、何?」
考え込む廉夏。
そこに優雅な足取りでやってきたのは廉だった。廉は出勤前であるため、その準備をしていた。その中聞こえてきた叫びに、廉はとうとうやったかと思った程度だった。廉にしてみれば起こるべくして起こった事象にすぎない。だから、駆けつけなかった。
「答えは、まだ出ないかい?」
出社準備が一通り終わってからゆっくりと来る廉。一部の隙もなく、スーツと眼鏡でビシリと決めている。
「廉兄はわかるの?」
廉夏が聞く。それに対して、廉はにこやかに微笑むと、
「たぶんね。冬眞も降参かい?」
冬眞はそれに、苦笑いする。そして、首をゆっくり振る。
「さすがだね」
「じゃあ、こうなったのは、つまり必然ってこと?」
「そうだね、冬眞。その分だと、理由もわかっているんだろ?」
「ええ、おおよそはですが、でも、ここは廉さんの見せ場。僕ごときが邪魔をするのは無粋と言うもの」
「君らしいね」
そう言われ、廉は笑う。
「流石だよ。冬眞の頭の働きには目を見張るものがある」
そう誉められ冬眞は照れる。
「お褒めに預かり光栄ですよ」
「で、何?」
一人蚊帳の外におかれた廉夏がブスクレながら言う。
「廉夏はこう言うとき、その事象より先に答えを求める傾向があるね、昔から。もう少し自分で考えるようにしなさい。いつも答えを教えてくれる人がいるとは、限らないのだからね」
廉が言えば、ますますブスクレる廉夏。
「どうせ数学やれば答案用紙に、ほとんど途中式書きませんよ。でも、答えがでていればいいのよ。だって、みんな分かるでしょ?」
「問題を見れば分かるというのは、たぶん廉夏だけだと思うよ」
「そうなんだよね。問題読めば分かるから逆に教えてと言われても、何が分からないのかが分からないから、教えてあげられない。どうしてそんなこと聞くのって思っちゃうから」
廉夏がそう言えば、廉は目を細めて言う。
「それが、廉夏の欠点だね。お前はすぐ答えを求める」
「どうせミステリー読み始めたら、すぐ犯人が分かる後ろにいっちゃうさ」
そう言って、廉夏はシュンとしたように項垂れる。
「ま、そこが廉夏らしいと言えばらしいがな。答えも間違ってないし」
「でしょう」
すぐ復活する廉夏に廉は苦笑いを禁じ得ない。
「それが誰にでも分かるように、書ければ言うことないね」
「鋭利(エイリ)、努力します」
「そうして下さい」
話が脱線しまくりなのに気づいた、廉は話を元に戻す。
「廉夏は全くあり得ないと思っているようだけど、私はこれが可能性としては、一番高いと思っているよ」
「それじゃあ、何、このお爺様様が、何かに悩み苦しんでいるとか。それこそ考えられないわ」