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青天の霹靂28(廉夏酔っぱらう)

冬眞は、部屋に戻って来た。
それに、廉夏は気付き、ベッドから起き上がると、隣の部屋へと行く。
そこには、ソファーに腰を卸し、目の上に腕を当てて憔悴(ショウスイ)しきった冬眞の姿があった。
目の前には、何か茶色のグラスが置かれている。
そして、冬眞は廉夏に気付かずため息をつく。
廉夏は心配そうに聞く。
「どうしたの?」
その問い掛けに冬眞はようやく廉夏の存在に気付く。
冬眞はハッと腕を下ろし、顔を上げる。
「廉夏、教えてもらえませんか?」
廉夏はキョトンとしながら、冬眞に聞く。
「何を?」
「僕には助けたいと思っている人がいて、何とかその人を助けるために真実を捜すんですが、調べれば調べるほど、その人が犯人だとなる。僕はどうしたら良いのでしょうか? そもそも、京極として、こう考えることがあまいのでしょうか? 廉夏教えて下い。こういうとき、京極としてはどう答えを出すべきですか?」
冬眞がそう言うと、廉夏は考えながら言う。
「冬眞は、自分なりの答えを出して、京極としては、考えなくって良いよ。それを考えたら、たぶん、前に進めなくなる。廉兄みたいに。私は冬眞には、その優しさを捨てて欲しくないな。でも、京極として考えると捨てるのが一番何だけど。今は、京極としてより、冬眞はどうしたいかだけを考えて。私には、彼が誰なのかは、分からないけど、それでもなお、冬眞はその犯人さんのこと助けたいんだよね。ねぇ、冬眞のすることは犯罪を暴くことだけなのかな?」
「どういうことですか?」
冬眞はキョトンとし、不思議そうに聞くと、廉夏は悩みな言った
「う~ん、難しいな。こういう時なんて言えば、良いんだろう? そうよ。見方を変えてみて、改めて見てみたらどう?」
「どう言うことですか?」
「冬眞から話を聞いていると、本当はその人のこと冬眞自身が一番、信用してないような気がする」
廉夏に言われ、冬眞はハッと顔を上げる。
「そうかもしれません」
「でしょ。最後まで信じてあげて。で、その人が犯人だったら、自分に何が出来るかを考えよう。その時は私も手伝うから。まずは、彼が犯人としてなるまでの軌跡を調べるの」
廉夏がにっこり笑って言う。
「軌跡か?」
「そう。そうなるまでに、そう犯人が辿った様々な軌跡があったと思うのそこから真相を読み解くの」
「それは面白そうですね」   
「でしょ? たぶん、殺しに至った原因があると思うよ」
「ありますね」
冬眞が言うと、廉夏は顔をしかめる。
「たぶん、原因は私だね」
「廉夏?」
「大丈夫。慣れているから。京極である以上、これは避けられない運命。ま、今回は京極だから狙われた訳じゃないけどね」
ニッコリ笑う。
冬眞は背中から、廉夏を抱き締める。
「廉夏、そんなに傷付かないで。廉夏が傷付くことはないよ」
「それなら、冬眞のやることは一つじゃない?」
「一つとは?」
「その犯人をそんな境遇にまで落とした犯人の罪を暴くことよ」
「そうですね、有り難うございます、廉夏」
冬眞は頭を下げる。
「でも、その犯人はルリカを殺しているわ。日本の法律はどんな被害者にも復讐を良しとはしていないわ。こう考えると、この国は犯人の救済ばかりで、被害者になった者は二の次よね」
「ええ、だから僕は救いたいです。法律では救えないと分かっていても」
「なら、冬眞のすべきことはやはり、一つしかないよね。でも、それは冬眞がやれば、傷を負うわ。これだけは覚えておいて。私は冬眞にはやらせたくないと」
「僕がやらなくても良いことなのかもしれないし、やったとしてもどこまで出来るのかは分かりません」
「でも、やらずにはいられないか。じゃあ、頑張って」
廉夏の言葉に冬眞は頷く。
「そうですよね。ありがとうございます、廉夏。僕はこんなとこで、燻(クスブ)っている時間なんかありませんよね」
「そうよ。冬眞がその人を助けたいと思ってるなら、その人のことを良く知っている人達に話を聞くことだよ。そして、その人の境遇を変えてしまった人を捕まえなさい」
「そうですよね。廉夏ありがとうございます」
そう言って、抱き締めてくる。
「そうよ。あっ、飲んでて気になった事があるの?」
廉夏にそう言われ、冬眞は首を傾げる。
「それは、何ですか?」
「飲み物の方には、毒は入っていなかったわよ。たぶん、代わりに無害な何かは、入っていたかもしれないけど、それが何かは分からないけど……。役に立つかな、これ?」
冬眞はそう言われ、廉夏を離し、顔を見て驚いたように聞く。
「それは本当ですか?」
「本当よ」
「廉夏ありがとうございます。これで1つ突破口が出来たかもしれません」
冬眞は再度、廉夏を抱き締めた。
廉夏も冬眞を抱き返すと、その背を優しく叩く。
「もう少し頑張ってねぇ」
「はい」
「冬眞は、その人を最後まで信じ抜くこと。そして、誰なら事件を起こすことが出来たかを考えるの。たとえ、その結果が冬眞の意に添わぬことであっても、きちんと受け止めなきゃね。そして、その上で自分なら、何をしてあげられるかを私と一緒に考えましょう」
「そうですね。それしか、ありませんよね」
そう言って、冬眞は廉夏の腰に腕を回す。
「そうだよ。頑張って」
廉夏は冬眞の頭を撫でる。
でも、廉夏には冬眞が誰を疑っているのかは、分からなかった。
「廉夏ちゃん、有り難うございます」
そう言って、頭を下げる。
「お礼言われる事なんて、何も私はやってないよ」
そう言った時、冬眞は廉夏の腕を引っ張った。
「キャ」
バランスを崩した廉夏は冬眞の胸の上に倒れ込む。
「僕に勇気を下さい」
そう言って、廉夏の顎を持ち上げ冬眞は文句を言われる前に口を塞いだ。
最初は合わせるだけのキスだったのに、次第に口の中に冬眞の舌が入ってきて、廉夏はどうしたらいいのか、分からなくなる。
「ゥン。ン~」
涎が廉夏の口からまた溢れると冬眞は笑って言う。
「お仕置きが、必要ですね」
「えっ、何で?」
「間違えました。お仕置きの前に躾(シツケ)ですね」
「だから、何で?」
「僕は溢(コボ)さないで下さいと言いましたよ。言い訳があるなら、どうぞ」
「だって、気持ち良くてわけわからなくなるんだもん。冬眞も分からなくなるよ」
そう言ったかと、思うと冬眞の前に置かれたグラスを手に取る。
そして、何を思ったかそのグラスに入っていた飲み物を口に含み今度は廉夏からキスをする。
冬眞にキスすると、冬眞の口に流し込む。
冬眞は驚きながらもそれを飲んだ。
「もう終わりですか?」
笑って冬眞が言えば、廉夏は剥きになったように言う。
「まだまだ」
でも、これは冬眞を喜ばせただけだった。
「不味い。これ何?」
「廉夏にはまだ早かったかな? これはブランデーです」
「お酒って、不味いんだね。私は 二度と酒呑まないわ」
そう廉夏が苦い顔して言うと、可笑しそうに冬眞は笑った。
「そうして下さい。でも、いつもより僕は、美味しかったですよ。ありがとうございます」
「冬眞は勇気出たかな?」
「ええ。でも、廉夏は、まだ呑まないで下さい。って、廉夏、大丈夫ですか?」
「ダメ。目が回るよ」
そう言って目を回す。
「廉夏は、お酒を呑まないで下さい」
「こんな不味いの呑めと言われても断るわ」
廉夏の思惑では、冬眞がこうなるはずだったのに、結果は反対だった。
「廉夏は寝てて下さい。僕は行ってきます」
そう言って、立ち上がる。
「廉夏はこの部屋にいて下さい。ここはオートロックだから、安全です。誰が訪ねて来ても、廉さん以外入れないで下さい。警察も無視してかまいませんから」
「分かった」
廉夏は頷く。
「行ってらっしゃい。頑張ってね、冬眞」
廉夏は寝たまま、冬眞に手をあげて冬眞を送り出す。
冬眞は笑いながら、出ていく。
鍵が掛かってるいることを確認すると冬眞は会場へと戻る。
廉の元へ行く。
「廉夏は酔っ払って今は動けません」
それを聞いて、無理矢理、廉夏に酒を呑ませたのかと、廉は眉尻(マユジリ)を寄せる。
「無理矢理呑ませたのか?」
「呑まされたのは、僕の方ですね」
そう言われて、廉はおおよそ何があったかを悟る。
「あいつはバカだな?」
「そこが可愛いんじゃないですか?」
「あっそ」
廉は呆れたように言う。
「ここにもいたな。バカが」
「酷いですね。で、何か動きは?」
「ないな。今のところ、静かなものだ」
「彼もですか?」
「ああ。何もない」
廉は冬眞が疑っている人間が誰だか分かっているようだ。
「さてどうする?」
「僕は気になっている場所があるので、そこに行って見ます」
「そうか。1つ言っておくぞ、冬眞。動機があるからと言って、犯人とは必ずしも限らない」
「どういうことですか?」
「たぶん、調査していく中で分かるさ」
「何か、分かりませんが、分かりました」
廉は冬眞が行こうとしている場所が分かっているように言う。
「それなら、日向に送らせよう」
「忙しいでしょうから、悪いです」
「あいつなら平気だ」
そう言って、廉は日向を呼び出す。
「すまないが、こいつを教会まで連れて行ってくれ」
やはり、分かっていたか?
さすが、廉さん。
「場所は何処だ?」
そう言われ、パンフレットを見せる。
「ここだ。ただ、先程燃えてしまって、教会はなくなったがな」
「どういうことだ、燃えたって?」
「何でも、幽霊に廉夏の奴が頼まれたんだってさ?」
「何か良く分からないが、取り敢えず連れていけば良いんだな?」
「そうだ。頼むな」
「了解」

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