ワンカット・ワンシーン
録りだめたBlu-rayの中にあった映画「笑いの大学」を観た。
どんな作品だったかまるで記憶になく、笑えないコメディーものだったらすぐ止めるつもりで観始めた。
始まってすぐ、三谷幸喜演出だと気づく。あとで知ったが原作・脚本は三谷氏でも、監督は星護という人らしい。最後のクレジットが流れるまで、監督が別人であることに全く気付かなかった。セリフ回しひとつからして、いつもの三谷ワールド全開である。
とは言え、僕は三谷氏の熱烈なファンというわけじゃなく、あの古畑任三郎シリーズも「鎌倉殿の13人」も観たことがない。逆に監督した映画8本は全部観ていて、それぞれとても面白い。
それでいて、頻繁に観ようという気にはならない。きわめて完成度の高いコメディーでありながら、アドリブを含めた演出のあまりの緻密さに、隙のない笑いとでも言うのか、却って疲れてしまうというのが本音だ。
この人が手がけたTVのドラマで唯一知っているのは『三谷幸喜「大空港2013」』で、当時まだ契約していたWOWOWで放送されたものだ。この演出には度肝を抜かれた。
「大空港2013」は100分の間、完全ワンカット・ワンシーンで進められるドラマだ。2011年の(WOWOW単発ドラマ)「short cut」に続く、第2弾ということらしい。
この作品のため、松本空港の開業時間前2時間を貸し切りにして、9日間に渡って撮影が行われた。
最初の3日間でリハーサルを行い、残りの6日間で毎朝撮影を行なう。
撮影後、スタッフ・キャスト総出で撮影されたものを見直し、修正を重ねていく。最後に最も出来の良かったものを、放送したそうだ。
役者ってすごいなぁ、とつくづく思った。
とくに主演の竹内結子。最初から最後まで、ほとんど出ずっぱりの長丁場を絶えず移動しながら演じている。言い間違えはもちろん、ちょっと言葉に詰まっただけでも、その日の撮影は台無しになる。制限時間は1日2時間しかなく、このドラマのルールでは最初からやり直しになるため、一発撮りの真剣勝負にならざるを得ない。
それまで数本、彼女出演の映画は観ていたものの、どれもピンとこなかった。このドラマを観て竹内結子は、僕にとってファンというより、尊敬の対象になったのである。
ちなみに竹内結子さんは2020年9月27日、40歳の若さで自ら命を絶たれている。
ということになっているが、どうも簡単に合点がいかない。
死にたいほど悩んでいる人が、家族と「夕食をともに」出来るものだろうか。そこまで神経を病んでいるなら、食欲なんかあるはずがない。いくら女優さんとはいえ平常心であるかのような演技を、家庭にいながら死の直前まで続けられるものだろうか。
遺書が見つかっていないということは、発作的な行動ととるのが自然だ。
そうであれば、2人の我が子を残して衝動的に自らの命を絶ったことになる。そんな母親など、いるものだろうか。子供の将来を少しでも案ずるなら、せめて書置きぐらいは残すものだろう。
「育児の大変さや今後の仕事について悩んでいたのではないか」と、誰が言ったかわからない憶測に誘導している記事だが、全てがあまりに不自然だ。
自死の可能性と共に、つい違うシチュエーションも想像してしまう。終わった話としてもだ。
芸能人の自殺には、アレ?と首をかしげる不自然なものが他に幾つもある。
くわばら、くわばら。今後同じような事例の起きないことを、切に願う。
だいたい、「笑いの大学」についての感想が、なんで他のテレビドラマから飛び火して竹内結子讃に変わっとんねん。自分でもワケわからん。
というわけで、また次回。
最後に蛇足になるが、何故か「大空港2013」全編がYouTubeで視聴できる。
10人の役者さんはもちろん、監督・カメラ・音声・照明の全てが一発勝負のこのドラマで、プロの真髄をまざまざと見せつけている。
ご覧になっていない方には、お薦めの一本だ。
イラスト Atelier hanami@はなのす